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定期的に数値測ってる魔素の濃度を調べつつ、ふらーっと何気なくぶらついてた帰り道。
下層の路地裏を堂々と大股で歩いてる赤い影を見つけ、思わず口笛を吹いた。
…つっても、今は肉体無いんで気分だが。
寧ろ今いる場所が身体あっちゃ上れねーだろっつーほっそいパイプの上なんだが。
上層ってワケじゃねえが、こっから見下ろすと何奴も此奴も虫螻だ。

《子犬ちゃんじゃ~ん。んだよー。こーんなトコ歩いてやがんの。…ハハッ。マジ虫。つーかゴキブリ的な?》

片手を額に添え、もう片方を腰に添えて赤いゴキブリを見下ろす。
イイ玩具を見つけたな。ラッキー。
まだ本格的に動く時期じゃねェってこともあって、ここんトコどっちかっつーと研究調査オンリー。
退屈しまくって死にそうだった。
そろそろ下層行って適当な塵ボコってストレス解消でもしよーかと思ってトコだし、こりゃあ子犬ちゃんで弄ばねェとな。
あのキャンキャン鳴く声が雑魚くて癖になるんだよなァ。
思わずこー…棒きれで突っつきたくなるような。
前回対峙した時のキャンキャン具合を思い出し、含み笑いながら顔を上げた。
現在地が分かれば、あとは時間の経過と比例して当面の活動範囲も予想できる。
街の電波塔に掛かってる時計を目視してから、改めて移動していく赤い影を見下ろした。
…殺り合うには当然、身体がいる。
殆どの調査には連れて歩いてんだが、何となく今日は気分で家に置きっぱだ。
こんなコトなら連れてくんだったなァ…。
身体あんのは確かに便利なんだが、日中は図書館の通常任務で夜は俺様の個人的悪戯やら研究やらやってたんで、いい加減肉体の方が疲労気味だったのか、今朝は妙に重かった気がしたんだよな。
勿論、肉体には俺様の愛と一緒に高性能詰め込んであるんで、肉体的損傷は自動回復するもんなんで筋肉の疲労は皆無なはずだが、内面の方が自己暗示的に"疲労を感じ"てしまえば、肉体自体に問題が無くても総合的な影響は出る。
要は邪魔だったんで置いてきた。
んまぁ、放し飼いしてっからっつってどっか行ったり他の奴に懐くよーな中途半端な調教はしてねェんで何の問題もねーし。
…あーあァ。クソ。
面倒臭ェが…仕方ねェなぁ。
どっかの下等で安っぽい糞エネミーどもみてーに、喚んだら即効空間越えて来るくらいの利便性は欲しい。
今でも俺様が使ってる時はある程度の空間移動はその気になりゃ出来なくもねーけど、肉体単体での機能はない。
…今度予備構造案として錬っとくか。

《さーてと…。んじゃまず、愛しのハニーんトコ帰らねェとな~》

額に添えていた片腕を下ろしてため息一つ吐いてから、それまでの速度とは打って変わって勢いよく足場を蹴り、道ならぬ道を上層へ駆け戻った。


good night



《ハっザマちゃ~ん!たっだいま~!! なあなあ、聞けよ。さっきよー、下層に子犬ちゃんがさァ~……って、オイ》

図書館から支給されてる上層マンションの広い一室。
マジどっからでも出入りできんだけど、礼儀正しく鍵掛かった玄関のドアから身体を滑り込ませ、ハイでリビングに顔を出しても、そこにハザマちゃんはいなかった。
いつもなら俺様の「たっだいま~」の後に「お帰りなさい」が反射してくんだが…。
玄関から続く廊下。
その廊下とリビングの境目で漂いながら腕を組む。
部屋はもぬけの殻だった。
連夜の研究とセックスで本だシーツだでぐっちゃぐちゃだった窓際の机と奥のベッドは、俺が外出してる間に掃除したのか、元通りキレーになってた。
山積みの本だけが、開いてたページに付箋張られまくってデスクの片隅に積み上げられている。
…掃除した後どっか行ったか?
放し飼いっちゃ放し飼いだが、俺様が使いてェ時に使えなきゃ話になんねえだろ。
何処ほっつき歩いてんだか。
駄目だな。今度は俺様が外出時は鎖ででも繋いどくか?

《ったく…。使えねェなァ。…何処に》

――と、そこまで言ったところで、正面にあるソファの背の上へ、ぬっとウロボロスが一匹顔を出した。
漆黒の蛇の金色の目が、正面から俺様を瞬きもせず直視している。

《お…?》

ウロボロスがいるってことは…。
そのままハザマちゃんを捜しに出かけようとしてた俺様は、改めてリビングに踏み込んだ。
一見人影はないが…。
滑るようにソファへと寄っていき、その背から反対側を覗くと…。

「…」
《なーんだ。いんじゃん、ハザマちゃん》

本革の黒いソファに横たわり、クッションを枕にハザマちゃんが目を伏せていた。
死角で見えなかったが、よく見りゃ足首がはみ出してるっぽい。
寝息が浅すぎて呼吸が伺えねェが、取り敢えず死んじゃいねーだろーから、寝てんだろ。
今日は外出の予定がないもんで、腹の上で両手を組んだまま、私服のパーカー姿にイヤホンかけっぱで寝てやがる。
…ったく。
俺様が健気に調査なんぞに出てるってーのに。
横たわる彼の横と腹の上に、残り二匹がくっついちゃいるが、コイツらは睡眠が不要なんでどちらも起きていた。
先の一匹と同じように丸い目を俺様に向ける。
懐くように、先の一匹が俺様に擦り付いてきたんで、その頭部を軽くぺちぺち叩いてやった。
本来、事象兵器ウロボロスは俺様の持ちモンだ。
戦闘でも常時でも当然言い様に動くが、ハザマちゃんにも使えるように術式をちょちょっと改良してある。
お陰で、蛇共はハザマちゃんにもよく懐いてるようだ。
…ま、親近感ってのもあるんだろう。
道具は道具なりにな。

《おーい。ハザマちゃーん》

ソファの背から身を乗り出し、寝ているハザマちゃんへ声をかける。
…が、無反応。
この野郎。
爆睡しちゃってんじゃね、もしかして。

《ハーザーマーちゃーん!》
「………ん」
《オラオラ起きろ起きろ!子犬ちゃんいんぞ、子犬ちゃん~。ケツぶっ叩いて泣かしてこよーぜ~。テメ睡眠なんてその気んなりゃいらねーだろオイ。何寝てんだよ!》

少し呻って眉を寄せたんで起きるかと思って声かけながらバシバシソファの背を叩いてみたが、ちょっと寄せたと思った眉がまた緩んでいき、フツーの寝顔に戻っちまった。
…おーい。

《ハザマちゃーん。子犬ちゃんだぞー》
「…」
《起きろっつーの。起きねーと子犬ちゃんハメさすぞ~》
「………ぅー…」

俺様の言葉に無反応過ぎるハザマちゃんを勝手に心配してか、寝ている横腹あたりをウロボロス一匹が頭で軽く押して揺らした。
ゆらゆら揺すられ、ハザマちゃんが組んでいた両手を解いて右手で目元を擦る。

《ハーザーマーちゃーん》
「…。………はぁい」

ぽやーとした馬鹿っぽい声が薄く開いた口から溢れる。
まだ夢ん中っぽい。
片腕を伸ばし、ひらひらと目の前で黒い半透明の掌を振ってみる。

《ただいま~ん》
「…はぁ。……おかえりなさぁ…」
《子犬ちゃんいんぜ、子犬ちゃん》
「ラグナ君……。…あぁ…どうぞ…。散らかってますが…」
《ちげーよ、いねーよ。此処じゃねーよ。下層だ下層。オラ、起きろ!》
「……」
《おーい》

もぞもぞと動いたかと思うと、仰向けだった身体を横にしてソファの背の方向いたかと思うと、再度動かなくなる。
…。

《…オイ》

思わず声が低くなる。
テメ、ご主人様がお帰りだっつーのに何だその態度。
尻尾振って出迎えろよ。当然だろ。
つか第一昼寝とかしてんじゃねーよ、俺様が必要な時に。
捨てんぞ。
流石に苛っとした俺様の気配を察し、さっきと比べりゃ忙しなく、再度ウロボロスたちがハザマちゃんを揺すり始める。
三匹に揺らされ、ハザマちゃんの眉間に皺が寄り、細いが長身の背を僅かに丸めて舌打ちした。
鬱陶しそうにウロボロスのうち一匹を手の甲で払う。
…舌打ちは無意識なんだろうが、これが最後だ。

《…ハザマちゃん。子犬ちゃん虐めに行くんで起きなさい》
「…」
《キレんぞー。てか、寝てっとここじ開けて入っちまうぜ~。カウント行くかんな、カウント~。…はーい。ごー、よーん》
「………ラグナ君…」
《さーん》

指折り数えてカウントし始めたところで、ぽつ…とハザマちゃんが呟いた。
鼻先をクッションに埋めて身動ぎしたかと思うと、そのまま――。

「……テルミさんは……私のですよ…」
《…》
「あなた…には…。……」

――とか呟いて、また動かなくなる。
…後半口ん中でもにょもにょしてたが、思わず苛々もどっか吹っ飛んでいった。
…。
カウント指は残り二本立ったままストップした。
ウロボロスどもの丸い目が三対、こっちを凝視する。
うち一匹は、許してやろうぜとばかりにハザマちゃんの上に覆い被さってどことなく上目でいた。
…むー。
どう反応すべきなのか、"碧の魔導書"であるハザマちゃんが創造主である俺様に執着するのは当然っつーか常識なんだが、妙にくすぐったい。
不意打ちとかねえわー。
…マジで寝てんだろーな、ハザマちゃん。
ハザマちゃんのことだから、時々あるように糞生意気にからかってんのかとも思ったが、近距離まで覗き込んでみても完全無反応だった。
顔を近づけると漸く確かな寝息が聞こえる。

《何。マジで寝てんの? …んじゃー今のガチじゃん。うーわ、ウゼ~。つか重っ》

ケタケタ嗤いながら聞こえよがしに言ってみるも、やっぱ無反応。
一回確認したから寝息の振動数を耳が覚えたのか、規則正しい小さな呼吸が鼓膜を擽る。
無意識に舌打ちして眉を寄せた。
…えー?
そんな酷使してねェと思うんだけど、何でそんな疲れてんだよ。
ちょっと四徹した程度じゃん。
これくらいじゃ余裕のはずなんだが…おっかしーなァ。
動力源足りてねェんかな。
通常の人間並に"疲れた"と思いこんで俺様の相手より睡眠取るよーじゃ、ちっと人格にリアリティ持たせすぎだ。
こりゃ起きたら魔導構造メンテだな。
つか、俺様がミスるワケねェからレリウスなんじゃね?
マジで肉体疲労が蓄積されてるとしたら、何かしら理由着けて一発あの糞マッドぶん殴ってこねーと。
何十日でもぶっ通しで動けるよーにしとかねェと使えなさ過ぎ。

《…ああ。でもアレか。そーっすっとこーゆーカオ見れねェワケか》
「…」

長身の割に、ガキっぽい様子で丸まってるハザマちゃんと両手を腰に添えて見下ろす。
…何つーか、こーしてっとまんまカズマちゃんだな。
あーのぽやぽや感が今となっちゃ懐かしめな昔話の域だが、ここにこーして欠片があったりすんのかね。
アレもアレで俺様の好みだったんで勿体なかったっちゃ勿体なかったか。
…ま、その気になりゃハザマちゃん再度調教してアレに近づけりゃいいワケだし、融通は利くか。
カスタムはお好みでってヤツだ。
モチ俺様限定で。
…つーか、興が削がれた。
やれやれ。

《仕方ねーなァ…っとによー。…止めっか、今日は。子犬ちゃん弄り》

ソファの背に片肘を置き、盛大にため息吐く。
ハザマちゃんは相変わらず爆睡中。
長めの前髪が目元にかかって影をつくってやんの。
…パーカーのファスナーだいぶ下げてんで、首やら胸やら腹が露出して、青白いその皮膚の上にイヤホンのコードが縦断していた。

《ハイハイハイハイ。風邪ひく風邪ひく》

絶対ェひかねーけど、風邪とか。
冗談交じりで言いながら、人差し指で指図すると、ウロボロスの一匹がその辺に畳んであった薄い掛け布団一枚咥えて持ってきた。
寝てるハザマちゃんの上にかけ、ぽんぽんと自分の頭で押さえる。
…ヤベ。俺様マジ超イイご主人様じゃね?
にやにや笑いながら、ハザマちゃんを機嫌良く見下ろす。
ウロボロス共は再度ハザマちゃんの周辺でそれぞれ丸くなり、俺様は間を置いて机上の置き時計を見た。
…子犬ちゃん見かけた時間とか予想移動距離とか、もマジどーでもいーわ。
あっさりそれらを忘れて、頭の中から排除しておく。
無駄な記憶は使いたくない。
それよりもハザマちゃんだ。
カワイー発言に免じて今はお昼寝許してやるとしても、三十分後まで起きなかったら流石に起こすわ。
俺様だってとっとと中戻りてーし、ハザマちゃんカワイイし。
外から見てんのもいいけど、やっぱナカのがいーわ。
それに、あんま寂しくさせてちゃカワイソーだしィ。

《…》

ぬっとソファの背からぎりぎりまで身を乗り出し、卑猥な碧色した髪を黒い指先で梳いて、起こさねェよーに前髪の上から額にキスした。
そのまんま頭から食らい付きたくなる。
ナカまで食い荒らしてメチャクチャに侵してやりたい。
間違っちゃいないはずだ。
キスとか、理性から溢れた喰欲じゃん。
そーゆーもんだろ。愛情って。

 

 

 

 

んで、三十分後。

「……ッ!?」

びくんッ…!と大袈裟に身を跳ねさせ、ソファの上でハザマちゃんが飛び起きた。
いー加減リミットだ。
いつまで寝てる気だったのか知らねェが、爆睡中のとこ無理矢理精神こじ開けて侵入すると、流石に瞬間的に覚醒した。
勢いよく上半身を跳び起こたまま、自分の身体を片腕で抱いて咳き込む。
その気になりゃ激痛プレゼントすることも出来るが、基本痛みはないはずだ。
…が、呼吸が多少詰まるのは仕方がない。
生物は常に固有のリズムがある。
種目に加え更に生活地域的なものや雌雄、年齢や状態の個体リズムまで複雑に絡み合い、指紋や肉声みてェに唯一無二で刻んでる。
自分の生体リズムを唐突に無理矢理崩されんだから、ま、しゃーねェわな。
痛みやらねーだけ優しいだろ、俺様。
あるのは自我を侵される快感と細胞を足下から何かが上ってくるような嫌悪感だけ。

「ちょ…、テルミさ…! …っ」
《ハイハイ、ハヨーっすハザマちゃん。何閉め切ってんだよ。寝てんじゃねーよ》
「ぁ…っ、は…」

首を項垂れて荒く呼吸するのを、鏡でもねえと外側から見れねェのが残念だ。
ずぶずぶと細胞を片っ端から染め上げていき、唾付けた後で最後に胸の奥にある"精神"に留まる。
目的地に俺様が到着してから数秒間も、胸を押さえて肩で呼吸をしていた。
間を置いて、ゆっくり高揚した顔を上げる。

「はぁ…。…っ……ふう」
《どしたよハザマちゃん。モノホシソー。ヒャハハッ。足んねェならぶっ込んでやんよ~?》
「……テルミさん」

俺様の嘲笑に思いっきり不機嫌声でぽつりと呟きながら、ハザマちゃんがソファから両足を下ろした。
変に寄ってたフードを両手で上に引っ張るようにして直す。
起きたハザマちゃんの膝に、我先にと蛇共が群がりだす。

「眠っている時はまず起こしてくださいって、私言いましたよねぇ?」
《あー? 聞いてねェなァ~。妄想じゃね?》
「…」

言うと、ソファにぶんながってた携帯を見つけ、ハザマちゃんが片手で掴み上げる。
ちょちょっと操作したかと思うと、いつの間に録音してたのか、音声が流れ出した。

『…ああ、そうだテルミさん。眠っている時はまず起こしてくださいね』
『……』
『いえね、不快なんですよねぇ。寝ている時突然戻られると。まだ起きている時の方がマシなので』
『……』
『はいはい。そーですよ感じるんですよ。理由とか適当に見つけてくださって構いませんから、お願いしますね』
『……』
『あははは。何ですかそれ、妄想ですか? 相変わらず痛いですね~。お可哀想に。誘い文句ならもうちょっと上等なこと言えますよ。…と言うわけで。ま、宜しくお願いします』

「…おや?」

再生が終わったところで、ハザマちゃんが眉を寄せて困り顔をつくった。
思わず嗤う。
いつだったか、そーいやそんなことネタにしてダベってた時あったなァ。
だがまあ、俺様の声は当然入ってない。

「…ああ。そうか」
《ヒヒヒッ。超馬鹿じゃね、ハザマちゃん?》
「うーん…。テルミさんの濁声って録音出来ないもんなんですねぇ」
《誰が濁声だっつーのー》
「おや。お耳お悪いんでしたっけ? …ああ、そうだ。お帰りなさい」
《た だ い ま~ん》

携帯をソファへ投げ捨て、ハザマちゃんが大きくため息を吐く。
擦り付くウロボロス共を撫でたところで、さっきの驚愕やら快感は一旦引き、泥水の水面のような穏やかさが戻ってきていつもの居心地だ。

《つかテメ、何寝てんだよ。なになに、疲れちゃってる感じ? たかが四徹で??》
「あはは。実に論理的でない冗談ですね。私が"疲労"するわけないじゃないですか。退屈だったんですよ。すること無さ過ぎて」
《ふぅ~ん?》
「そちらは? 何か面白いことありましたか?」
《ん~…。あったよーな、もーどーでもいーよーなァ~》
「何ですかそれ。調査に出かけてらしたんでしょう? 結果をまとめるんじゃないですか? …っとと。失礼」

分厚い古書が積み重なってる机の方を一瞥したところで、ハザマちゃんが欠伸した。
パーカーの袖で半分隠れた掌で大口開けた口元を覆う。
ふあ…と欠伸した後、首を左右に折って関節を鳴らした。
…いやいや、疲れてんだろソレ。

「さて。それじゃあパソコンを立ち上……っわ、とと…っぶ!」

立ち上がろうと腰を浮かせたハザマちゃんの身体を無理矢理停止させ、一瞬主導権奪って今さっき横になってたソファのクッションに、今度は顔面から突っ込む。
ぼふんっ!とスプリングが跳ねて細かい埃が飛び、日差しの入る部屋の中でスターダスト的にきらきら光る。
…ま。塵は塵だが。
鼻先突っ込んだクッションから、ハザマちゃんが顔を上げる。

「いてて…。もー。痛いなぁ。…何ですかぁ?」
《ハザマちゃんがあんまりカワイーからご褒美アゲル。もーちょいお昼寝しててもいいぜェ~?》
「…はあ? …頭大丈夫ですか、テルミさん。もう眠ったので、結構ですよ。それよりも貴方の調査の…」
《だーいじょーぶだって。覚えてっから、数値くらい。ぱぱーっと終わんだから、そんなん。夜やろ~ぜ、夜ゥ。俺様もー疲れたし~。俺様もソファで眠たくてハザマちゃん起こしたワケだしな》
「おや…。そうなんですか?」
《そ。…ほれほれ。寝る子は育つぜ~?》
「…うーん」

ハザマちゃんの右腕持ち上げ、ぽんぽんっと自分の頭を軽く叩く。
俯せの身体をごろりと仰向けに転じ、下ろした両足を再びソファの上に乗せた。

「…えーっと。…じゃあ、寝ましょうかね」
《あー。やっぱ身体あっと運動と休息のオンオフはっきりしてていいわ~。どーせハザマちゃんもまだ眠ぃんだろ?》
「眠くありませんよ。ありませんけど、テルミさんが眠りたいというから眠って差し上げるんです。感謝してくださいよ」
《ハハッ。ウっゼ》

結局さっきと同じような格好で、ソファに仰向けに寝転がる。
掛け布団を腹にかけた両腕を一瞬奪い、パーカーからはみ出してる長い指で顔を挟むようにしてハザマちゃんの髪を梳いた。
…擽ったそうにハザマちゃんが目を細めて身を捩る。

「止めてくださいよ…。くすぐったいです」
《ヒャハハッ。安眠妨害安眠妨害!》
「寝たいのか寝たくないのかハッキリしてください」
《へいへい。寝ます寝ます》

叱られて仕方なく両腕を返す。
自由になった手をまた腹の上で組んで、ハザマちゃんが深く呼吸した。
すぐにでも眠り出しそうな独特の呼吸に苦笑する。
…やっぱ眠かったみてーだな。
世話の焼ける。

《お や す みー!》
「ええ。おやすみなさい…」

小声の一言を残して、瞬く間に寝息が立つ。
今俺様が動いても勿論いいわけだが、安眠の為には大人しくしてやんのが一番だろ。
手の掛かる道具で嫌になるな、ホント。

 

「…」

道具が爆睡に戻った頃に右腕を一本持ち上げ、天井の照明を背景に掌の甲を見詰めた。
…折角子犬ちゃん見つけたのになァ。
アレと天秤にかけてハザマちゃん取っちゃうとか、ダメダメな気がしてんだけど…。
目的見失ってっし。
…けどまあ、いっか。
すやすやガキ臭く眠ってるハザマちゃん見てると、もー何でもかんでも許しちゃう。

片手を下ろして甲に音を立ててキスしてからぶん投げ、俺様も眠る為に内側に引っ込んだ。



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らぶらぶです。
初めは別人格かと思いきやシリーズ進める事に同一人格でありそうな気配が。
それでも残忍非道なテルミさんが溺愛してるのがほんわかします。
2012.11.14





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