「戸締まり、ちゃんとしなさいよ、鉄朗。あと火の元」
「分ぁーってるよ」
「研磨くん、鉄朗のことお願いね」
「うん」
「お腹空いたらケーキの残り食べていいし、お刺身もご飯も好きにして。でも、明日平日なんだから早く寝るのよ? 研磨くん早寝なんだから、あんた無理に付き合わせちゃダメだからね。…あ、あとイチゴが冷蔵庫に冷えてるから、それも夜二人で食べなさい。大人がいないからってハメを外しすぎない程度に楽しく遊んで早く寝ること」
「はよ行け」

玄関のとこでドアノブ片手にほんの少しドア開けつつも一向に出て行かないお袋に一言告げると、ツカツカ戻ってきて、わざわざ片方のヒールを脱いでまで俺との身長差を埋めてから、一発ベシッと頭を叩かれた。
痛くはないが、決まり切っている流れのようなものがあるんで、多少痛がる振りをして叩かれた場所を片手で押さえる。
お袋は、ヒールをはき直して研磨に向いた。

「もう、やあね。口の悪い。こんなんだから誕生日祝ってくれる彼女の一人もできないのよ。…研磨くん、ダメ男が移らないように気を付けるのよ? 良かったわねー、鉄朗。男一人の寂しい誕生日じゃなくて」
「ほっとけ。…つーかそろそろ時間ギリだろ」

呆れ半分で言うと、お袋はようやく腕時計を見る。
脳天気に「あら…」なんて呟いてから、慌てて再度ノブを握った。
少し開けたドアの向こうに、すっかり日の沈んだ庭が見える。
仲のいい友達とのママ会だか女子会だか知らねえが、月一月曜に開催される夜お茶。
今年は幸運なことに、お袋のそれがピンポイントで俺の誕生日に当たった。

「お留守番宜しくね。じゃあ、行ってきます」
「おー。行ってらー」
「…いってらっしゃい」

手を振るお袋に、俺も研磨もひらひらと手を振る。
じゃーねーなどとのたまい、お袋がノブから手を離す。


――キィ……バタン。
――…ガチャ!


締まったドアノブに、空かさず鍵を掛ける。
お袋が出て行くと同時に、片足一歩玄関に下ろして腕を伸ばし、瞬間的にロックした。
押したり引いたりしてかかっていることを確認してからくるりと振り返ると、研磨が素知らぬ顔でぽてぽてキッチンの方へ向かおうとしてるもんだから、踏み出した足をとっとと戻して後を追う。
あっさり追いつき、リビングに入ろうとしていた研磨を片腕で掴むと、そのまま攫うように廊下を大股で進む。

「よーし。やるぞー!」
「イチゴ…」
「後で」

イチゴに未練があるらしいが、無視。
つーか後で。
風呂から出たら。
まずは湯船にぶっ込む。
抵抗が控えめな研磨を脇に挟んだまま、上機嫌で風呂場のドアを開けた。

 

 

11月17日。
俺の誕生日。

…とは言っても、もうこの歳になると本人としてはどうでもいいイベントだ。
ダチの誕生日やら家族の誕生日やらはプレゼント用意しねーととか、何だかんだで準備があるが、自分の誕生日は全くの平日。
勿論、ダチや知り合いからのメールは来るんで、それの対応がちょい忙しいくらいだ。
あとはメシが豪華。
それから親が何か一個買ってくれる。
ダチらがあれやこれやと軽いプレゼントを貢いでくれたり、メシを奢ってくれたりする。
そんくらいの日。
…だが"恋人"が出来ると、これががらりと変わってくる。

「ヘーイ研磨。バンザーイ」
「んー…」

脱衣所で、研磨の服を子供のそれをそうするように脱がす。
俺と、ガキの頃からダチだったコイツが付き合うようになって何だかんだで一年ちょい。
一般感覚的には割と長いと思うだろうが、なにせそこまでのダチ付き合いが約十年だ。
一年ちょいとか、全然だから。
何やったって何されたって、まだまだ愉しいし嬉しい。
誕生日クリスマスとか、それまで流れてたイベントが、どれもこれも好機になる。
誕生日に親が仕事&不在。
さっきまで研磨を交えてお袋とメシ食ったわけだが、その後夜お茶で外出とか大歓迎だ。
長年の経験上、月一夜お茶の帰宅時間が、殆ど日付が変わるか否かの時間であることは承知済み。
つまり、俺の誕生日が終わりきるまで、家の中は俺と研磨だけ。フリーダム。
何なら今日だけはそのままカラオケ行ってオールでもしてこいとか、内心願っている。
お袋よ、主婦業も疲れんだろ。
遊んでこいたまには。ぱーっと。
何ならオールしてこい。
…などと、私欲にまみれた親孝行などを祈りつつ、バッサバッサ遠慮無く服を脱がせていく。
下着と靴下まで取り上げ、裸になった研磨がちらりと俺を見上げる。

「出たらイチゴ食べていい?」
「おー。髪と体洗ったらなー。…ほれ、入れ」

白くて折れそうに細い肩を、ドンと押して風呂場へ促す。
面倒臭そうに溜息を吐いて、素足でぺたりと踏み込んだ研磨の後ろで、俺も手早く服を脱ぐ。
洗濯機に放り込んで洗剤を入れ、蓋しめてボタン押してから風呂へ入り、内側からドアを閉めた。
もう観念したのか、さっさと風呂のイスにちょこんと座っている研磨が俺を振り返る。

「髪と体、どっち先?」
「髪」

言いながら研磨の上からシャワーを取り、お湯を調節して温度を確かめる。
コツは俺的にちょいぬるめ。
髪洗ってやる時は特に。
俺が準備をしている間、研磨は風呂場の端に並んでいるいくつかのシャンプーに目をやった。
俺んちのシャンプーセットはお袋が使ってんのと俺と親父が使ってんので二種類ある。
何なら、ボディソープも洗顔料も、大体二種類ずつだ。
家族で一本使ってる研磨にしてみると、昔から微妙に気になるらしい。
軽く体を流してやってから、早速取りかかる。

「頭、上向け」
「んー」

多少痛んでる髪に水を通し、お袋の方のシャンプーでわしゃわしゃと髪を洗ってやる。
少し不満そうに研磨が呟く。

「何でおばさんの方で洗うの」
「いーだろ別に。髪傷んでんだから、こっちのがいーんだよお前は」
「…ボディソープは普通のがいい」
「ダメ。俺の一存」

一蹴。
普段は六割優先してやる研磨の意見だが、今日は却下。
鬱陶しそうな研磨の髪を丁寧に洗って流し、コンディショナーつけて染み込ませてる間に体も隅々まで洗ってやってから電動のシェーバーを取り出すと、露骨に癒そうに顔を歪める。
ぺったり肌にくっついてる髪と泡でもこもこした体で膝を抱えるように小さくなり、半眼のじと目が俺を振り返る。

「脇はやめて」
「わーってるよ。足と腕と背中だけでいいって。…つか、お前脇とか生えてねーだろーが」
「はえてるし」
「基本毛全般薄いだろ。染める前だって黒髪っつっても薄かったじゃん。何。濃い方がいいの? 遺伝だ。夢見んな」
「別に。どうでもいいけど」
「あっそ。んじゃいーじゃん。…ま、年一だし、我慢しろ。あんまリクエストあると股間まで剃るぞ」
「やだよ。…」

研磨を後ろから抱くように腕を回してシェーバーを足に近づけると、ぎくりと体が緊張するのが分かる。
肩に回した俺の腕に、白い指が頼りなさげにかかる。
思わず笑い出しそうになるのを、何とか耐えるのが一苦労だ。
ホント可愛い。

「…絶対切らないでよね」
「切れねーよコレ。そーゆーやつだから」
「信用できない」
「んじゃー動くな」
「…」

緊張した体に手早くシェーバーを走らせる。
勿論傷などできるわけもなく、電源を切ると、ふう…と研磨が息を吐いた。
それから髪と体共々一斉に流すし、やっぱり俺からすればぬるめに張ってある風呂に入れて十分温まらせ、ついでに湯船ん中で肩とか首とか、いつも自分でやってる簡単なマッサージもしてやる。

「…。クロ楽しい?」
「んー?」

両足の間に研磨を座らせ、後ろからむにむに左の二の腕を揉んでやってると、不思議そうに研磨が俺を振り返る。
愚問だ。

「ちょー楽しい。風呂出たら、ボディクリーム塗って爪切ってトリメしてパックしてかーらーのードライヤーな」
「…」
「いいんだよ。下心ある事前準備だから」
「普通にセックスするだけじゃダメなの?」
「ダメなの。今日はもーふわっふわのお前が欲しーの」
「…これなければ、もっと楽なのに」

鬱陶しそうに俯く研磨。
その項に顔を寄せ、わざと音を立てて挨拶程度に吸い付く。
…付き合いだして初の誕生日。
「今日はクロの好きにしていいよ」と間延びしたいつもの声でさらっと言われ、これは選択肢間違えらんねーと悩みに悩んで硬直したものの、結果として俺がやり出した事と言えば、風呂から始まる一連の事前準備含めての一夜だ。
好きな奴の体を好みに整えて、完璧にしてから抱くとか…。
本人はうざそうにしてるが、こっちとしては思ってた以上に最高。
振り返った研磨の頬を、ぶに…と濡れた手で抓む。

「そう嫌そうな顔すんなよ。何だかんだ言って、付き合ってくれるじゃん」
「まあ、誕生日だし」
「どーもー。…けどな、本当にアウトだったらちゃんと言えよ? 俺とか今日どこまでも調子のってっから」
「別にいやじゃないよ。面倒臭いだけ」

ちゃぷ…と水音を立てて、研磨が俺に背中を預けてくる。
ほんのり上気してる顔の額に片手を添えて、濡れた髪にキスをした。

 

 

――で。

「ほーら、見ろーィ。研磨ー」
「…」
「完っ璧だな」

部屋の端にある細長い全身鏡の前。
両腕で研磨の肩を後ろから掴まえるように緩く抱き、声高らかに誇る。
パジャマ代わりに着せたのは俺がプライベートで使ってる黒ジャージだし、すべすべの肌にドライヤーで完成させたふわふわの髪。
リビングのソファに座って、膝の間でもしょもしょ風呂上がりのイチゴ食ってる間に手足の爪も切ったし、なんなら先もそれ用のヤスリで磨いた。
さっき洗面所で"あー"させて歯も磨いてやったし。
全体的にふんわり仕上がっていい具合だ。
もう完璧すぎてヤバイ。
写真撮りてー。
顔がにやけまくる。
頭撫で撫でしながらの俺のハイテンションを横目に、鏡に写る自分を見て研磨がいまいちやる気無く首を傾げる。

「…別にいつも通りだと思うけど」
「はあ? 全然違うだろーが」
「どこが?」
「全部だよ、全部。どーよ、この上から下までふわっふわなこの仕上がり」
「意味わかんない。どうせ汗でべとべとになるのに」
「したらまた洗ってやるよ。…ハイ、んじゃーぼちぼち始めますかー」
「んー」

後ろから抱いていた腕を離し、部屋の端のベッドを一瞥する。
今更抵抗とか無ェだろうし、研磨も鏡から離れて一足先にそっちへ向かう。
ぽん…とベッドに腰掛けたところで、鏡の前から動かない俺に気付いて不思議そうに顔を上げた。

「…? しないの?」
「誘って」
「え…」
「ミッション。可愛く誘ってください、俺のこと」
「やろうよ」

真顔で間髪入れず言う研磨。
…んー。
違うんだなー。
何かこう…もっとあるだろ、何かそれっぽいのが。
研磨は日常ちょいちょいの部分がスゲー可愛いんだが、どうも照れさせるのがなかなか難しい。
気心を完全に許してくれているのは素直に嬉しいし誇らしいが、たまには別の顔も見てみたいっつー男の我が儘。

「誘ってって…違ェよ。誘惑って意味で」
「えー…。今更それ必要?」
「必要。俺の娯楽の為に」
「やだよ」
「あれー? 俺優先はどうしたー?」
「…」

ワザと意外そうに言ってやると、研磨はまたも鬱陶しそうな顔をする。
…ああいいさ。もう好きなだけウザそうな顔してろ。
けど最終的には言うこと聞いてくれんのは承知済みだ。
案の定、研磨は溜息を一つ吐いて、ベッドから立ち上がると再び鏡の前に立つ俺の方へ歩いてきた。
そのままの速度で、ぽふ…と俺の懐に横から腕を回して抱きつく。
緩い腕力でぎゅっとされれば、それだけで熱が上がる。
片手で髪を撫でれば、完成されたふわふわの手触り。
髪の内側に通した指が、微かに残っているドライヤーの熱に触れる。
指先がもう気持ちいい。
撫でられてる研磨も、気持ちよさそうに目を伏せて俺の服に擦り寄る。

「…クロめんどくさい」
「俺もそう思う。…ま、今日だけだから」
「…」

俺に抱きついたまま少し考えたらしく、数秒経ってから、研磨がのろのろと片手で自分の着ているジャージのジップを下ろした。
どうせやるしと思って、下は裸だ。
たぶんただ単に寒いんで、やるならとっととやって欲しいというのが本音半分であろうことは当然分かってるし、こっちだってそうなるだろうと想定して着せてねえ。
垂れ下がっていた方の俺の手を取って、ぴたりと温かい自分の片側の胸に添える。
猫目が、挑むようにこちらを見上げた。

「クロので、どろどろになりたい」

何でもない調子でさらりと言って、髪を撫でている俺の指先に音を立ててキスをする。
俺の手に片手を重ね、目を伏せてぺろ…と俺の掌を舐めてから、改めて俺を見上げた。
それから、覗き込むように小首を傾げる。

「…とか?」
「よし、合格」
「わ…っ」

一発芸終了。
上出来。
がばっ…!と研磨の脇に手を入れて抱き上げ、数歩歩くとベッドに雑に座らせる。
顎を押さえ、上から覆い被せるような勢いあるキスをした。

 

 

 

「…、ぁ…」

床に膝着いて、片腕で後ろ腰を抱くとさっさと開かれた胸に喰らい付き、唇から胸元まで吸い付いていく。
自分より一回り小柄な研磨は、ベッドの上に腰を下ろしたまま顎を上げて俺のやりやすいよう体を任せる。
ほんのり上気した頬と目を伏せる回数が多くなるのを確認する度、可愛くてますます皮膚を濡らしていく。
匂いがヤバイ。
甘ったるい体の匂いと、ボディソープの匂い。
ついでにキスすれば歯磨き粉のライムミント。
手触りとか完璧。
髪は指に一切絡まないし肌もすべすべ。さすが俺。
さあ始めるぞと夢中になっている間は気付きにくかったが、そのうち余裕が出てくると俺の腕に引っかけるだけのようにして添えてある研磨の指が小さく震えていることに気付いて舌を皮膚から離す。
ちょっと珍しい。

「どうした? 寒い?」
「別に」
「震えてんじゃん。暖房上げるか?」

尋ねながら、よいしょと片腕で両足持ち上げ、研磨をベッドに仰向かせる。
自分も片足乗り上げながら尋ねると、少し上がった息でぼんやり俺を見上た。
そういうんじゃないけど…と口を開いて続ける。

「なんか…誕生日の時って、クロいつもと違うから」
「そうか? どこが」
「んー…。ちょっと怖い?」
「…あー」

疑問系で研磨は言うが、何となく自覚がある。
誕生日だけってわけじゃねえけど、"好きにしていい"時はどうしてもテンションが上がってぎらついてしまい、がっつく感がどーしても出る。
今もそれだが、一応隠してるつもりでいた……が、その微妙な差を敏感な研磨はやっぱ感じ取るんだろう。
いつもは研磨優先で抱いてるせいでひとつひとつも遅いが、俺ペースで事を運んでいいとなればさくさく好きなことさせてもらうんで、ペースも速い。
例えひとつひとつの行動が同じでも、雰囲気ってもんがどうしても体から滲み出る。
…ま、困惑されたところで止めねーけど。
左手をぴたりと研磨の胸に添えたまま下から顎に軽く歯を立ててキスすると、逃げるように研磨がまた顎を上げる。
反らされた喉を指で撫でた。
瞬間的に、微かに出ている喉仏を親指ぐっと押し込んで潰したい衝動にかられるが、そこは勿論"妙な想像"として抑え込んでおく。

「がっついてるからかも。悪ィ。雑にはしてねえつもりだけど」
「去年も、なんか、変だった…」
「すみませんねえ」

言うだけ言って反省しない。
そーゆーもんだろ。
ぶっちゃけ、ちょっとビビってる研磨は可愛い。
最初から俺に対してあんまり恥ずかしいとかそーゆーのは薄いらしく、信頼されてる感ビシバシで嬉しい反面物足りない気もするという面倒臭い感覚が、基本男にはあるもんだ。
片手で頬を撫で、上目に見上げてくる顔を意地悪く見詰めてにんまりする。

「いつもより逃げ腰でそそるけどな」
「…悪趣味」
「そーでもないだろ。正常」

枕の上で横を向いて目を反らす研磨に苦笑して、パンツと下着を一緒に腿まで下げてやる。
髪にキスしながら左手でモノを握ると、ぴくっ…と研磨が一度目を伏せて肩を跳ねさせた。

「ん…。ぁっ、あ……」

日頃、本気で必要最低限しか処理しないせいもあって、軽く扱いてやるだけであっという間に硬くなる。
反り返っても尚手を止めずにくちゅくちゅ根本から先まで弄ってやると、研磨の息が上がりだした。
たぶん俺の手を一度止めようとしたのだろう。
何か言い出そうと口を開いた直後、丁度良い具合に突き抜けたのか、ビクッと研磨の体が震えた。

「っ――!!」
「…おー」

そこそこ量の多い精液が握っていた手に溢れる。
左手を染めるそれをまじまじと見下ろしてから、一度イってふにゃっとしている研磨に溜息を吐く。
そこそこに量が多いし粘度は高いし早すぎる。
恋人だからって、プレイでもない限り一人エッチ禁止させるような根性はしてない。
研磨が滅多に自慰行為をしないのは元からで、極めると本気で眠れないくらいになるらしいのだが、それでもしない。
理由は単純。
"面倒臭いから"。
一見、健全そうに思えるがとんでもない。
不健康この上ない。
学校だ部活だでヤリまくってるって訳ではないが、それでも俺と恋人関係になって生活が爛れるどころか寧ろ健康的になったと言っていいだろう。

「相変わらず早ェな…。だから、ちゃんとヤレっつってんだろ。必要処理だぞ」
「めんど…」

精液の色とか量とか、そういうのを目視で確認してから掌についたそれをぺろりと舐める。
…さすがにこれは甘くない。
さらりと精液を舐める俺を、研磨は呆れた顔で見上げた。

「…なんでそれ舐めるの好きなの?」
「んー。何でだろーな」
「まずいよね?」
「うまくはねえな。抵抗はねーけど。ま、雰囲気かね。…つーかローション取って」
「…どこ?」
「そこ」

ベッドヘッドに着いてる小さな引き出しを顎で示す。
仰向けに寝てる研磨の方が近いんで頼むと、そのまま両腕を頭上に伸ばして勘でぱたぱた手探りする。
何度か外して行き当たった引き出しを開けると、ローションを取り上げた。
腕を上げたせいで、前が開いてたジャージが余計に左右に広がって裸体が惜しげもなく晒される。
シーツとか布団とかの色が黒だから、研磨の白い肌は余計に栄える。

「…はい」
「サンキュー。…てか起きろ」

両手で差し出された容器を受け取りついでに、研磨の手首を掴んで身を起こさせる。
シーツから浮いた段階で両脇を手でそれぞれ支え、ぐっと抱き上げて、半身を起こして座る俺を跨ぐように膝立ちにさせた。
一度出したせいか、いつにもまして体全体が柔らかい気がする。
よろける研磨の手を俺の肩に掴まらせ、キスをしながらその体の向こうでローションの蓋を開ける。
自分の手にある程度流して、蓋を閉めてから脇に置いた。
滑りの良くなった右手で、尻を下から支えるように手を添える。
アナルの口を撫でると、研磨が顔を顰めた。

「ん…」
「痛かったら言えよ?」
「…うん」

ゆっくり中指を埋めていく。
ぬぷ…と温かい体内に、俺の指が喰われていく。
解すように最初はじわじわと挿れたり出したりを繰り返す。
始めは浅く、意識させない僅かなさで少しずつ深めていく。
俺の肩に顔を埋め、研磨は耳に毒っぽい声で小さく喘ぐ。

「はあ……、んっ…」
「…すげー締まってくる。指 旨い?」
「味なんかないよ…。ねえ、足。…立てないで。当たるから」

感じながら、クレームつけてくる。
後ろ弄ってやりながら、何気に膝を緩く立てて股間を刺激されるのが気に食わないらしい。
…が、まあ所謂ツンデレというやつであろうと勝手に解釈する。
批難めいた潤んだ瞳に、にやりと笑って返す。

「…わざと?」
「わざと。…先も弄ってやるよ」
「…!」

左手の人差し指の腹で、また硬くなってる研磨の先端を擦る。
数回ぐりぐり弄ってから、ぴたりと止めた。
後ろを慣らしていた右手も止める。
目を閉じて感じてた研磨が、疑問符浮かべて近距離で俺を見た。
生理的に滲んできていた涙があったんで、舌で舐め取ってやる。

「…? なに。何で止めたの?」
「動け」
「…?」
「お前が自分で動いて」
「えー…」

嫌そうに研磨が顔を歪める。
お約束の流れとして、意外そうな顔を作ってみせた。

「あれー? 俺優先はー?」
「だからめんどいってば、それ…。…」

呆れた顔をしつつも、間を置いて俺の鼻先にキスすると、いつの間にか腕の方にずりおちていた手で俺の肩を掴み直す。
不安そうに一度後ろを見てから、目を伏せてそろそろと腰を動かした。
モノの先端に添えていた指を一度離し、掌を緩く丸めてオナホっぽいのをつくってやる。

「俺の手に擦るみてーにしてやりゃできる」
「…こう?」

ずず…と研磨が言われたとおり腰を進め、俺の手に前を擦りつける。
するとアナルに挿れてた指が自然と抜けて、逆に腰を引けばそっちが埋まって前が抜ける。

「疲、れる…」
「頑張れ」

最初はおずおずと不安げに揺れていただけだが、そのうちコツが分かって気持ち良くなってきたのか、動きが大胆になってくる。
ぎゅう…と俺の首にしがみつき、止まれなくなったのか、なかなか上等な顔で研磨が震える様子を近距離で見ていると、煽られてぞくぞくしてくる。
添えるだけで一切動かしてないが、指が出し入れされる粘っこい水音が部屋に響いた。

「んっ、く……、はぁ…」
「へえ…。できるじゃん。上手上手」
「ぁ、クロ…ゃ、あっ…。また出る……っ」
「ハーイ、ストップ」
「っ…!」

イく直前に、張り詰めてる研磨のモノを親指の腹で蓋をするようにして竿を強く握る。
今当に射精しようとしてた突然敏感な場所を握られ、研磨が肩を上げて反応した。
ギリ止めは、これまた滅多にしない。
研磨は何が起こったのか分からないような顔で、熱い息を吐きながら目を白黒させて俺を見た。
俺の肩に鼻と口を埋めて身体を支え、ふーふー言いながら、赤い顔で空いた両手を使ってガリガリ押さえている俺の手を引っ掻く。
…が、勿論その程度じゃ離さない。

「や…え、何? ちょ…」
「こっからちょい鬼畜タイム」
「むぐっ…」

ぐっと握り込む手を強め、かといって痛くない程度に制止をかけたまま、ずいと前のめりに研磨に詰め寄る。
安定せず開閉している唇が空いているタイミングを計って、深くキスして舌を絡めた。
熱い口内の粘膜を堪能している間、研磨の先っちょをしっかり塞ぎながら、他の指で竿を撫でてやる。
窒息しつつある頃に口を離すと、苦しそうに短く息をしつつ、研磨は軽く噎せた。
ちょいと涙目になってて、それがまたカワイイ。
…つーかいつも可愛いが。

「は、はぁ…。ねぇ…やだ……てばぁ…」
「…頭ん中ぐちゃぐちゃになってきた?」
「…んっ…ぁ……なに…? はなして、よ…」

力のない指先で飽きもせず俺の手を引き剥がそうとするにはするが、じわじわとその行動が形ばかりになってて感じ始めてるのはバレバレだ。
膝で立ってられなくなったらしく、俺の足を跨いでぺたんと座り、両肩を上げて震えている。
頭の中に靄がかかり始めたのを確認してから、改めて膝上に抱き寄せ、止めていた右手の指を二本に増やし、柔らかくなってきたアナルに突っ込む。
多少荒く出し入れしてやると、研磨の背中がびくりと跳ねて、涙目で俺にしがみついてきた。
そのくせ、しっかり自分でも腰を動かしたりして。
…いい具合だ。
頬に強請るように洗い立てで癖の無い髪を擦り寄せてきて、俺も目を伏せて研磨の頭に顔を寄せる。

「気持ちイイ? 研磨」
「ん、あっ…。クロっ……はなし て…っ」
「この後がスゲーいいからもう少し我慢。…自分で腰振って、やっらしーの」
「や…っ。もうやだっ、だした…いっ、あ…!」

くちゅくちゅすっかりローションで濡れた指を出し入れしながら、研磨の乳首を前歯で軽く噛む。

「イかせて欲しけりゃ、ちゃんとお強請りしねーとな」
「…っ」
「イかせてくださいーって。ホラ」

言うと、溶けた目で研磨が赤い顔をあげた。
すっかりはだけ気味のジャージが、右肩だけ滑り落ちて肘あたりで詰まっている。
俺の上に座って、荒い息のまま欲情に染まった不安そうな涙目が、それでも爛々と光って俺を見る。
開けた赤い口が、上下に唾液の糸を引いてすぐ切れた。

「ぃ、かせて…」
「何で?」
「クロの…これ、で……」

熱にやられた研磨が、ふにゃふにゃしながら硬くなってる俺のモンを服越しに上からそっと触る。

「んじゃ、準備しねーと」

わざと何気なく俺が言うと、研磨は落ち着かない手付きで俺のパンツと下着をずらし、勃っていたペニスを両手で包んだ。
欲情して潤んだ目で、必死に俺のを完勃ちさせようと扱く姿に、ぞくぞく快感が走って、思わず苦笑する。
…ああ。可愛い。
どうしてこんなかね。
腕の中の、酔っぱらってるように柔らかくて温かい存在に癒される。
今日一番丁寧にキスをして唇を離すと、すぐに研磨が首筋に擦り寄ってぐりぐりした。

「クロ、ねえ…。ねえもういいでしょ? もうほんとに…」
「我慢できない?」
「またすぐ触っていいから。だから今は出させて」
「身体にぶっかけていい?」
「知らな…ぁ…。は…、もう…なんでもいいよぉ…」

しつこく握って緩ませない俺の手首に再度指をかけ、泣きそうな声で研磨が言う。
これ以上やると流石に罪悪感。
約束は取り付けたし、それじゃあまずは二発目出させてあげましょうと、座り込んでいた研磨から手を離し、子供をそうするようにもう一度ひょいと抱き上げて腰を浮かせる。
溶けたアナルに俺の勃った先端を添え、そこで一度止めてから研磨の鎖骨に吸い付く。

「俺の肩持って」
「ん…」
「ゆっくり下ろせ」
「…うん」
「無理すんなよ。ゆっくりだからな」
「っ…。んっ――」

自分の手の甲を口に添えて目を伏せ、俯いたまま研磨が腰を沈める。
俺のモノが、先端からじわじわとアナルに埋まっていく。
吸着性のある肉の壁が、俺が入るごとに広がっていくのが分かる。

「はぁ…、ぁ……」
「っ…。狭…」
「んっー…ッ!」
「ッ――」

勢いは一切つけてないが、奥に当たった瞬間、キュッ…と中が締まり研磨が先にイく。
飛んだ精液を掌で受け止め、自分はイかねーように気を付けるが、持っていかれ感がすげえ。
気持ち良すぎてすぐに腰を動かしそうになるが、ギリギリの理性で保つ。

「はぁ…は……」
「おいおい、どうした…。挿れただけでイっちゃった?」

全部じゃないにしろ、結構挿ったところで、研磨のモノから手を離し、両手で正面から頬を包む。
涙目が、上目に俺を見返した。
けほけほ数回咳をしてから、疲れてそうな体で、ふう…と研磨が息を吐く。

「…だって当ててきた」
「たまたま」

飽きもせずにもう一度唇を合わせて唾液を混ぜる。
互いの荒い息遣いが、数秒響くだけだ。
…動きたい、が。
慣れるまでちょっと待たねーと、研磨がキツいはず。
…まあ、すぐまた勃たせる自信はあるが。
あんまり触らないせいでピンク色の研磨のモノに手を添えて、柔らかさに硬度を持たせてく。
腰使っちまえばすぐなんだろうが…。
あんまりハイペースでいくとヘバるしな。
間を置いて、そろそろいいかなとぼんやり思って尋ねようとしていると、口に添えていた手をそっと離し、ずれたジャージを肩にそれとなくかけ直しながら、ぼんやり研磨が口を開いた。

「…。なん、か…ダメ、かも…」
「ん?」
「クロを気持ちよくさせるの…難しい……」

二回吐き出して少し落ち着きが出てきたのか、両腕を伸ばして俺の首に抱きつき、ぺそっと汗で濡れた身体を預けてくる。
目を伏せ、気持ちよさそうにごろごろ喉でも鳴らしそうな勢いで擦り寄ってこられる人肌にやられ、くすぐったい気分になる。
冗談交じりで軽く笑った。

「十分だけどな」
「…クロって遅漏?」
「失礼な。お前が溜めすぎなんだよ」
「やっぱり、遅漏じゃないんだ…」

長ったらしい前髪を濡れた指先でわけ、耳にかけてやる。
ちらりと俺を見上げた後、研磨がまた俯く。
せっかく分けててやった前髪が、すぐ流れた。

「何。疲れた?」
「ううん…。挿れちゃえば、もうこのままの方がすき。…クロので中あったかいから」
「…お前なあ」

はあ…と息を吐きながら裏表もなく素で呟かれる言葉に、がっと血圧が上がる。
マジで何とかしろ、その煽り気質。
誰彼ほいほいその調子で誘い文句言ってやしないかと心配になってくる。
俺の背中に少し指をひっかけるように腕が回って、ぎゅっと抱きついてくる。

「…おれの中に挿れるだけじゃ、クロ出さないなって思って」
「あー。挿れただけで出したかねーなぁ。勿体ねえ。…つか、出さないよーに我慢してんの。俺ペースで動くとお前がツライから」
「え…。何で?」

溜息気味に言うと、意外そうな顔で研磨が顎を上げて下から俺を覗き込む。

「クロがたくさん出さないと、おれどろどろにならないよ?」
「いやいや…ちょっと待てお前それは流石に――」
「え、だってかけたいんだよね? …違うの?」
「…」

汗で濡れた顔と身体で、何でもない風に聞かれ、ぴき…と頭ん中の歯車が軋む。
…コノヤロウ。
マジでいい加減にしろ。
本人別に他意は無かろうが、その台詞に煽られてスイッチが入る。
がっ…!と研磨の肩と尻を掴んで抱き上げるとベッドに仰向けに押し倒した。


Your Color:B-Ⅱ




お袋が帰ってくるのを、十二時だと想定して…。
念の為にその一時間前にはフツー環境仕上げていたい。
最後の理性でベッドヘッドにある目覚まし時計を十時半にセットしてから、放るようにその辺に置いて、少しびっくりしている研磨の腿を掴み上げた。


 


 





inserted by FC2 system