せっかくの休日。
朝から雨が降っていて、午後に入っても止む予定はない。
外に出られねーからと研磨のテレビゲームに付き合うつもりが、いつものように当日朝になって「今から行くから」とかメールしたら、今日は山本たちと映画を見に行くとかで既に家を出た後だった。
朝一だと安いとかで、本人死ぬほど面倒臭そうだった手前、大方山本が強引に誘ったんだろう。
だがまあ、結果的に行くわけだから研磨だって嫌じゃねーはずで、しかも福永とかも行くらしい。
いい傾向だ。
あいつらは信用できる。
それっぽい流れを初めのうちに地味につくってた感は俺ら三年の方であるっちゃあるが、人見知りが研磨の性格としてちゃんと認識されているとはいえ、同じ部活のタメとくらいはそこそこうまくやってかねーとな。
…つーか、雨か。
部屋のベッドで寝転がりながらバレー雑誌を読んでいたが、一通り終わって窓を見る。
丁度こっちっ側に向けて風が吹いてんのか、バシバシ雨粒が窓を叩いている。

「アイツが一人で出ると大体雨だな…」

"一人で"というのは、俺とではないという意味でだが。
いつもはぽかぽかいい陽よりなんですがねー。
どういう訳か、俺以外と出かける時は大体雨だ。
バチが当たってんだな、バチが。
浮気してっから。
…なんて、馬鹿なことを独りごちながら、浅くため息を吐く。
ちらりと横目で時計を見る。
テメェで決めた休憩時間もそろそろ終わり。
たまにゃ素直に勉強でもするかと、雨音うるせー窓の向こうを少しでも遮ろうとカーテンしめかけたその手が、ぴたりと止まる。

「…」

窓の外。
まだそこそこ激しい雨音の中を、フードをかぶった小柄な影が、水溜まりたっぷりの道を、傘も差さずに無造作に歩いていた。
ずぶ濡れだ。
目深にかぶったフードで顔は見えない。
しかも、服の趣味からして違う。
…とは思うものの、あの猫背と特徴的なふよふよぽてぽて歩く感じ――。

見間違う訳がない。
片手で雑にカーテンの片方だけを閉めて、足早に部屋を出た。

 

 

 

 

 

「…研磨!」

雨の音がうるさくて、いつもより声を張る。
傘を片手に家の門から出てきた俺の声に、俺んちの門前素通りで数メートル先の自宅に向かおうとしていた研磨が足を止めて振り返った。
…つーか、やっぱりお前か。
傘も差さずにフード付きのアウターひとつ。
フォローのしようもなくびっちゃびちゃだ。
服はもう二の腕までずぶ濡れ。
濡れ鼠ならぬ濡れ猫状態。
どっから歩いて来たんだオイ、まさか駅からか?
水溜まり蹴っ飛ばして短距離を駆け寄り、片手で持ってる傘下に研磨を入れてやる。
こいつにしてみれば急に俺が出てきたことになるんだろう。
きょとんとした顔で俺を見る。

「クロ…。どしたの?」
「どーしたのじゃねーよ。お前がどーした」
「…? 帰るとこだけど。映画見てきた」
「傘のことですー」
「ああ…。持って出なかった。フードかぶってるよ」

さらりとした態度で応えて、見せつけるように研磨が両手の指先でフードを目深に被り直す。
…だぁらずぶ濡れなんだって、それが。
前髪も横髪も濡れまくりで水が鎖骨んとこに滴って胸の方まで流れてるし、睫にも露が…。
――って…。
…胸?
…。

「…お前、服どうした。ソレ」
「服?」
「お前のじゃねーよなソレ。やたらデケェし、趣味が違う」
「ああ。これはリエーフの上着」
「…。中は?」

びっと傘持ってない方の人差し指で、アウターの襟元を手前に引っ張る。
引っ張った反動で、一応一番上まで上がっていたジップが少し下がった。
白くて薄い、水に濡れて光る胸板中央が覗けた。
…。
引っ張られて少し開いた襟を見下ろしながら、研磨が何でもない調子で言う。

「帰りに寄ったモスでジュースこぼした」
「…」
「着てたやつはここ。トイレで水で濯いできた。おれもアウター着て出ればよかった」

そう言って首を伸ばし、これまたフォローのしようがない水濡れで変色しまくってるリュックバッグを振り返って示す。
…呆れてものが言えない。
自分がどんどん不愉快になっていくのが分かった。
どろどろした墨みたいな気分が胸ん中に流れてくる。

「…これで電車乗ってきたのか?」
「そうだけど。…けど、こんなに雨降ってるならジュースで濡れたの着ててもよかったかも」
「ほほーう」
「…? な――…ふぶっ!」

むにっと研磨の頬を抓る。
水で滑るが、滑らないよう強く抓る。
横に引っ張るんじゃなく、そのまま、少しずつぎりぎりと指に力を込めていく。
痛そうに研磨が顔を顰め、驚いた目の後で怯えに双眸が揺らぐ。
淡々とその顔を見下ろして注意することにした。
次は無事じゃないかもしれない。

「他の奴の服を簡単に着るな」
「っ…ふぁひ? ふふぉ、ふぃふぁい…っ」
「裸の上にアウター着て電車に乗るな」
「ふ…」
「乗るな」
「…っ」
「返事」

ぐっと押し潰す力そのままに少しだけ横に引っ張る。
痛みに耐えられなくなったのか研磨が濡れた指を俺の手首に添えて、何度もこくこく頷いた。
むすっとしたまま手を離してやると、すっかり赤くなった頬よりも不機嫌な俺が気になるらしく、気圧され気味に俺を見てから、そろそろとフードを更に深くかぶって小さくなる。
怯える肩をぐっと片手で掴んで、背中から押すようにして俺んちへ歩かせる。
研磨の家はすぐそこだ。
一度、何か言おうとした空気には気付いたが、放っておくと結局言葉を呑み込んだらしい。
ずぶ濡れの体を傘と腕で庇いながら家に戻った。

 

 

玄関入ってすぐ、ぐっしょり湿ったリエーフの上着に指をかけ、ジップを一気に下ろす。
曝された白い上半身は、本気で何も着てなかった。
ぱたぱたと水が落ちて、研磨の足下はすぐに水溜まりができるし、上着ほどじゃないがパンツも多少濡れてる。

「…。下、何も着てなかったのか?」
「タンク着てたけど、ジュース染みたし…」

…てことはそれもリュックの中か。
本当、無茶苦茶しやがって。
変態に遭わずに帰ってこれてマジで良かった。
正面から両手でフードを持ち上げて顔を出させ、水吸って重たくなっている上着を脱がす。
試しに軽く絞ると、案の定水が出てきた。
よくまあこれでイケると思ったもんだ。

「靴下も脱いでろ。バスタオル持ってくる」
「…」

先に家に上がって、風呂場からタオルを持ってくる。
玄関に腰掛けて靴下を脱いでいた研磨の頭に被せると、多少乱暴に髪を拭いてやった。
ちょいちょい触れる体が、相当冷えてる。

「…」

粗方髪を拭いて、上半身を拭いて…。
最後にバサッとタオルを広げると、それを研磨の肩に回してかけた。
研磨を一旦置いて、濡れたリエーフのアウターと靴下を拾い、リュックの中からジュースで汚れたとかいう本来の服を取り出して、脱衣所にある洗濯機の中に放り込む。
洗剤と柔軟剤入れて、スタートを押し、動き出した洗濯機を背にして再度玄関へ戻ると、さっきと一寸も違わず研磨がぼんやり立っていた。
手を伸ばして、垂れ下がっていたその手首を強く握る。

「来い」
「え…。ぁ…」

片手を繋ぎながら、階段を上がる。
ノートと参考書が机の上に広げっぱなしの部屋に戻ると、研磨を中に入れてドアを閉めた。
顎でさっき自分が寝そべっていたベッドを示すと、一瞬いやそうな顔をしたが、俺が不機嫌なのを察している研磨は大人しくベッドにのたのたと座り始める。
それを横目で見てから中途半端に片方だけ閉じているカーテンの、もう一方を閉めた。
肩に広げたバスタオルかけたまま小さくなっている研磨を見下ろし、両手を腰に添える。

「脱げ」
「…え」
「全部脱げ。パンツも腰と足んとこ濡れてんだろ。布団濡れる」
「やだ」
「キレんぞ」

語気を鋭くすると、ぐっと研磨が黙った。
沈黙が数秒。
その後諦めたのか、はあ…と溜息を吐いてから研磨が自分のパンツに指をかける。
ベルトはしてなかったらしく、のろのろとやる気無く股間のボタンとジップを下ろし、腰を少し上げて座りながらたらたら脱ぎだす。
最後の方は足首にひっかかるそれを蹴って払うように、子供っぽい脱ぎ方で脱いだ。
下着姿になり、バスタオルをぎゅっと握って小さくなっている。
髪も体もまだ水気をまとっていて、濡れ猫印象はますます強まる。

「…さむい」
「だったらずぶ濡れで帰ってくんな」

浅く溜息を吐く。
ベッドに近寄ってその前に屈むと、バスタオルから露出されている研磨の腿に片手を置いてその場に座る。
触れた腿もすっかり冷えていた。
研磨の真正面に胡座をかいてから、顔を寄せて丸みのある左膝にキスする。
…ここなら、普通キスマークだとは思わねーだろ。
少し吸って痕を残した。

「膝、あったかい」
「…」
「…。怒ってるっぽい」
「怒ってる」
「ごめん。ちょっとわかんない」
「お前が自分のこと雑に扱うのとか、ヤなんだよ。まず飲みもんを零すな。あと前から言ってんだろ。雨の日はちゃんと傘差せ。風邪ひくっつーの」

目の前の両足に腕をかけ、上半身を寄せて研磨のを下着の上からザリ…と舐める。
舌伝いのふにふにした柔らかい感触。
目に見えて冷えた体全体が反応し、研磨が小さく震えた。

「え…。今からするの…?」
「やってやるから大人しくしてろ」

研磨が指先を俺の肩にかける。
引き気味の細い腰を片手で後ろから押さえ、もう片方の手で下着から取り出すと口に咥えた。
…つめて。
咥えた瞬間、こんなとこまでいつもと温度が違って少し驚く。
そんで呆れる。
快感をというよりは、温めてやろうと根本まで呑み込んで喉で締めてやることにした。

「ん…。クロ、あつ…」

声がしてちらりと上を見ると、バスタオルの端を握って口元に添えて震えている。
地味に足を閉じようとするもんだから、挟まれて狭くなり、ぐっと無理矢理片手で左足を外へ開かせた。
何度かフェラしてやり、だいたい硬くなって温まってきただろと思った段階で口を離す。
代わりに手で緩く触れながら、身を起こした。
濃い研磨の匂いにすっかりやられて、もうここでは勿論止まれない。
こんだけ体が冷えてるんだ。
抱かずにいられるか。
しかも、アプローチしかけられてる野郎の服を着て中素っ裸で電車って、馬鹿かお前。
改めて呆れながらも、両足の間に片膝置いて上からキスする。
ぎゅ…と俺の服に両手をかけ、研磨も舌を出した。
小さい舌で懸命に俺に応えようとするあたり、反省はしているらしい。
少し虐めるつもりで長いディープかまし、苦しそうになってきたところで口を離してやる。
案の定、研磨は息切れ状態になっていた。
俺にしがみついたまま、肩で息をする。

「は…、ぁ…」
「お前が病気とか怪我とか痴漢遭遇とか、スゲーヤなの俺。分かる?」
「…」
「前から言ってるよな? 何。聞く気ねーの?」
「…ある」

ぎゅぅ…と研磨が許しを求めて俺に抱きついてくる。
どーやら反省はしているらしい。
自分のことを軽く見るのは、研磨の昔からの悪い癖だ。
ネジが一本緩んでる。
今日のように雨の日に傘を差さないなんてのは平和な方で、ふらりと行った先で迷子になるとか、ちょっとした興味本位でリスカをしてみたりとか、小学校の頃は給食がまずいから始まってメシがめんどくさくなったらしく、食事をしなかった時期もある。
その時その時で軌道修正してったからなんとか保っているが、総合するとどうやら自分に執着が持てないらしい。
持っていたとしても、常人より相当希薄だ。
幼少からの俺的経験論。
こいつに、"自分を大切に"なんて説教は無駄だ。猫に小判。
注意する時は、今回のように"俺が困る"という路線に持っていかないといけない。
…まあ、実際かなり苛つくわけだし、俺が。
一度、音を立てて目前にある首のところにキスして、顎を取ると再度口にキスした。
研磨の両手が、俺の首に回る。

「…なんか、ぺたぺたする」
「テメーの湿気だろ。どこだって冷えてる」

首も冷えてて湿っていた。
研磨のいうぺたぺたなら、上半身は大体そうだ。
肩にかかってるバスタオルを少し左右に開き、右の胸を舌で転がす。
下半身よりも色の薄い乳首に吸い付かれるのが苦手な研磨は、鬱陶しそうに俺の頭に片手を置いた。

「…あついよ」
「温めてやってんだよ」
「お風呂でいいのに…」
「心配すんな。あとで一緒に入る」
「…!」

腿の下に手を入れて、下から上へ強引に持ち上げる。
足上げられて、あっさり軽い身体の上半身が後ろに倒れた。
黒いシーツに白い肢体が無造作に転がる。
俺と違って筋肉の少ない体は、柔らかくて滑り心地がいい。
足の途中までずれてた下着を脱がせて中心を触ると、さっきよりも熱く硬くなっててほっとする。

「感じやすいよな、お前」
「そう…? 他の人見たことないから、わかんない…」

そりゃそうだ。
含みのないその言葉に機嫌を良くする。
研磨は感じやすい。
あまり自分で弄らないからっていうのもあるんだろうが、相変わらず色も薄くて幼さが多分に残ってる。
最初からあんまり恥ずさみたいなものは無い感じだが、感覚自体は鋭利な方なんだろう。
小さく笑って、天井塞いでた体を下にずらして、研磨の足を折り返す。
頭を上げてるそれを口に含んで、止まってたフェラを再開しつつ、腿の内側をそれっぽい手付きで撫でて擽る。

「ん…、…やぁ……」
「…タオル離せ」
「あ…」

研磨の舐めてて湿った口を親指で拭いながら、ずーっとしがみついてるバスタオルを取り上げる。
恨めしそうな目がじ…と俺を見た。

「もういいだろ」
「…さむいよ」
「あついって言っただろーが」
「今はさむい」
「ハイハイどこが。あっためてやりますよー」

ベッドヘッドからローションを取って、手に出していると、研磨が不安そうな顔でそれを見た。

「…それ、冷たいやつ?」
「あー。大丈夫、温かいやつ。…足開けオラ」

少しだけ開いた足の間に掌を添え、アナルに指を添える。
入口に添えただけで、きゅっとまるでキスするように締まった。
…やばいな、可愛いわ。
さっきまでの不機嫌はどこへやら。
腕の中の小さな存在に触れるのが嬉しくて、緩む口元で研磨にキスする。

「…早く挿れてほしい?」
「…。別に…」
「そ? けっこーひくついてますよ、ココ」
「…てか、いじれば誰だって反応するし」
「おねだり」
「いれていいよ」
「誰の何を?」
「…。たまに思うけど…」
「ん?」
「ここでいらないって言ったらどうするの?」
「あー。…強姦?」
「どっちみちするんじゃ、その流れ必要?」
「必要だろ。痛いか痛くないかがここの受け答えで決まる重要な選択肢ですよ」
「…」
「ほら。どーすんだ? いらないって言ってみるか?」
「…。クロの指、ちょうだい」

ぽつ…といじけ気味で呟かれる言葉に気分を良くして、アナルにゆっくり指を入れていく。
急ぎはしないが、何度か出し入れしながら前も扱いてやると、あっというまに白い体がほんのり染まっていく。
当然だが、汗も出てくるし。
段々、触る体の体温が上がっていく。
気持ちのいいとこを何度か擦ってやると、折った足がその度に震える。

「はぁ…、ぁ…。…ん」
「気持ちいい?」
「ん…きも、ち……。ク、ロ…」
「…そのまま力抜いてろ」

片足持って俺の肩にかけ、前に出て上半身を密着させる。
指の背で顎んとこを擽ると、ぴく…と研磨の体から一瞬力が抜けた。
反射みたいなもんらしく、ここ触られると目を伏せて顎を少し引く癖がある。
暫くこしょこしょしておいて、途中ぴたりと腕を止めると不思議そうに研磨がぼんやり目を開けて俺を見上げた。
気を許しまくった目が、もっと撫でれと上から目線で命令している。
…どーしますかね、この可愛さ。
あーもーマジで誰にも見せたくねーわー。
瞼にキスしながら、ある程度緩んだアナルに先端を押し込んだ。
ぐ…と押し込むが、途中で止まる。

「ん…は…。…ぃっ」
「っ…、キッツ…」
「ぁ、は…。っ…、ふぁ……」
「そういや、最近してなかったか…。はぁ…。…オイ。痛ェ?」

汗かいてきた額から、湿った手で自分の髪を上へ掻き上げる。
ゆっくりだが、まめに出入りを繰り返して確実に腰を進めていく間に聞くと、研磨が弱々しく首を振った。
が、苦しそうに顔を顰めている。
研磨が痛いならアウトだ。
すぐ引っこ抜いて、もっと時間をかけて解す。
始めるのは常に俺タイミングだが、やり始めれば研磨が優先。
正味な話、これ以上セックス嫌いになられても困る。
ヤる時はとことん気持ち良くさせてやらねーと、後に響く。
二度とやらないとか言いだされでもしたら、たぶん一定時期は我慢するが、それ以降は自分が犯罪者になる自信がある。
…ま、今は痛くはないらしいが、圧迫感があるんだろう。
泣き顔も男としてそそるものがあるが、結局気持ちよさそうに乱れてる顔の方が可愛いんだから、自然と扱いも上等にならざるを得ない。
気付けば顔を寄せてキスしていた。

「痛かったらちゃんと言えよ?」
「ん…平気…。気持ちいいよ…」
「そ?」
「ん…。なんか、クロの手あったかくて気持ちいい…」

片手で髪を撫でてやると、溶けた表情でその手に擦り寄ってくる。
俺の手首に両手を添えて掴まえ、ぺろ…と熱い舌で掌を舐めた。
それだけでまた血圧が上がる。
足を押さえていた片手を離し、研磨の腕をそれぞれ両手で掴む。

「…来い」
「え…」
「掴まってろ」
「…! わ…ぁっ…」

横たわっていた体を勢いよく引っ張り上げる。
代わりに俺が腰を下ろし、膝の上に乗せて向かい合わせた。
角度が変わったのか、研磨が甘い声で啼き、啼きながら助けを求めるみたいに俺の首に腕を回した。
首の後ろに爪立てられて軽く引っかかれるが、まあまあいつものことって話でスルーしておきましょう。
さっきより距離が近くなったおかげで、湯気が出そうなくらい体が熱い。
しっとり汗で湿った目の前に白い首を舌で舐めあげる。

「ほら。温まってきただろ?」
「ぁ…、うん…」

左右の腿にそれぞれ両手を添えて支え、締まりが良くなった研磨の中を突き上げながら聞くと、呼吸の合間にぼんやり応答があった。
今度は熱に魘されそうだなオイ…。
キスするたび、皮膚を舐めるたび、汗の塩味の中に確実に甘さがある。
そのまま首に鼻先を埋めた。
うっかりこんな目立つ場所にキスなんぞしないよう、自制しながら細い体を抱く。

「ぞっとするくらい冷たかったからな」
「…っ、でも、まって…クロ。これ、深…ぁ、あっちょ…んゃ」
「何で。いいじゃん。…あれか、お前。俺にこーしてほしくて体冷やして来た?」
「ん…っ、ふ…」

首からのぼった俺の舌は、そのまま研磨の薄い唇を喰らう。
ピチャピチャと獣臭い濃厚なキスの音に、小さい体が震えて、それでも必死に俺に応えようとする。
ベロチューの間の些細なタイミングをうまくかぎ取って、涙目の研磨がぷは…と口を離した。
赤い舌と糸を引いた唾液の奥に、ちらちらと赤い口内。
何となく目がいき見惚れていると、その小さな口から熱い息が頬にかかった。

「ちが…けど…ッ、は…っ」
「頷いとけって、そこは」
「ちが…。は…や く、家…帰って…。クロ、んち…いこ、と……っ」
「してたの?」

平然と会話してる自分の声に反して、心臓が跳ね上がる。
手が勝手に研磨の尻を掴んで強引に俺の上に落としていた。
…ヤバイ。
何だこれ展開。
何?
んじゃー、俺んとこ来るために雨ん中急いでたって話か。
…こら待て。
可愛すぎるだろ、何なんだお前は。
根本まで喰わせて動くのを止める。
荒い呼吸をしていた研磨が、俺の首んとこ寄りかかりながらはぁ…と一つ息を吐いて、ぐったり俯きながら続けた。

「…だって、朝…メール来たし…。なんか、いじけてそう、だった…」
「そお?」
「ん…。あと、雨の日は…傘、でしょ…。次、気を付ける……けど」

ぎゅうと俺の首にしがみついて、許してとばかりにカワイー触れるだけのキスが頬に来る。

「クロが、こうしてくれれば…たぶん、風邪ひかないよ。おれ…」
「…」

研磨に抱きつかれたまま、その後ろ腰に手を添えて溜息。
…。
…あー、まあ。
今の動機を聞けば、半分差し引くっきゃねーだろ。
けど、自分軽視はやっぱ気に喰わないんで、無罪放免とはいかない。
そこんところをちゃんと注意しておかないと、たぶんまたずぶ濡れの雨の中を傘も差さずに歩くだろうし、変態ホイホイみたいな格好するだろうし、メシ食わないなんてことにもなるかもしれない。
自分に何かあったら俺が哀しいってこと、ホントマジで理解してもらわねーと。
…が、その前に。

「…悪い、研磨。言いたいことたくさんあるが、まずイキてーから動く」

我慢できねえから、コレ…。
余裕なくて申し訳ないが。
ぼやくようにいいながら頭を撫でると、研磨も首筋に擦り寄ってきた。

「ん…。おれも出したいから、いいよ…」
「…横んなるか?」
「このままでいい。…クロにしがみついてるから、動いていいよ。動かしてもいいし。クロのすきでいい」
「取り敢えず、もう怒ってはねーから」
「うん…。わかる。…途中から、機嫌よくなった」
「バレバレですか…」
「クロ分かりやすいから。…でも、ごめん」

そう言って俺の口にキスをする。
官能的な口内を味わいながら、許可ももらったことだし遠慮なく足持ち直して、深く突くことにした。

 

 

 

 

 

 

「…晴れた」
「あ?」

ぽつ…と後ろから呟かれた言葉に振り返る。
まだ裸でベッドに仰向けに寝転がって布団かぶってる研磨が、窓の外を見ていた。
あれだけ土砂降りだった雨が、いつの間にやら晴れている。
カーテンはまだ引いたままだが、その向こうから日差しは入ってきていた。
下着とデニムパンツだけ穿き終わった俺は、ぼやくように頷いた。

「あー。たぶんお前が来たからだな」
「なにそれ」
「お前が一人で出ると、大体雨だろ? 俺と一緒にいると晴れんの」
「ふーん…」
「だから、大体その後待ち合わせしたりすると、お前濡れてんだよなー」
「…」
「ん?」

ぐい…とパンツの左足を引っ張られる。
足下を見下ろすと、研磨が寝たまんま右腕を伸ばして、俺のパンツを指先で抓んでいた。

「あのさ、おれが濡れるの、クロきらいなんだよね?」
「そーですよー。お前の半分は俺所有なの。病気も怪我もダメ。メシ抜くのもダメ。リスカなんかもっとダメ。雨に打たれる前に、まずは俺に連絡入れとけ。迎え行けるなら行ってやるし」
「…」
「何?」
「…せっかくの休みなのに、雨だと、みんな困りそう」
「そーだよ。お前があんま俺から離れてっとずっと雨だぞ」
「そうなると、ジャージ乾かないね」
「困りますね奥さーん」

棒読みで同意すると、研磨は頷いて眠そうに片手で目を擦った。

「…おれ、クロいないと駄目人間かな」

淡々とした言葉に、思わず口元を緩ませる。
…だと嬉しいね、こっちは。
実際、今だって手を焼くが、その頼りっきりな感じが嫌いじゃない。
自分のパンツ握ってくる細い手を取りながら、ベッドに腰掛ける。
音を立てて指の背にキスして、足下に散っている衣類のうち、俺のシャツを拾い上げた。
体を捻って、だらだら寝ている研磨の首に無理矢理そのシャツを通す。
迷惑そうに目を瞑る。
今から濡れるわけだが、ぼさぼさな髪を何となく手櫛で整えた。

「オラ、起きる。風呂」
「…んー」

自主的に起きようとしない研磨にそのまま左右の腕を通させ、服を下に引っ張る。
着せるのに邪魔になったところで、ばさっ…!と布団を剥ぎ取った。

 

それでは、飼い猫を洗いに行きましょう。
ぽん…とその頭を片手で軽く叩いてキスして、風呂行くぞと伸ばされた腕を握って引っ張り上げた。


 


 





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