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店が終わった朝方。
クローゼットの中を引っかき回し、今持ってる服をチェックする。
服とか髪とか、そこまで気にする方じゃないから、あくまで"店の中で着られる"視点で集まってる服は、どれもちょっと派手めのものが多い。

「…参ったなあ」

前屈みになっていた背を直し、クローゼットの前でぺたんと尻を着くと、雑に後ろ髪を梳いた。
こうして見ると、俺って本当に服とか偏ってんなー。
ため息を吐いてから、やれやれと重い腰を上げ、部屋を出てリビングに向かう。
完全夜型の俺たちはホント言うと今から睡眠時間なもんで、マスターはソファに座って寝る前の一杯を飲んでいた。
勿論、俺には睡眠時間は関係ない。
…っていうとウソになるが、充電が足りてれば全然動けるから、少なくとも今は眠らず問題無。

「ねー、マスター。悪いけど、服貸してくんない?」
「…服?」
「あんまオッサン臭くないのあったらだけど」

期待はできないけど、一応見ときたい。
それで、いいのがあったら借りる。
少なくとも、俺よりは落ち着いたのあるだろうから。
許可をもらってマスターのクローゼットを漁ると、流石に俺の服なんかと比べると年齢層高めで落ち着いてるものが多かった。

「…まあ、いいか。これで」

シャツと紺のセーターを選んで肩に引っかけ、自室に戻って試しに着てみる。
…が、地味すぎてウケるんで、タイホルダーから自分のピンクのタイ付けて、襟んとこに気に入ってるハート型のピンバッヂを通す。
ついでに、シャツの内側にネックレスと、手首にブレスレットを付ける。
ちょいゴツめの選びゃ形になるっしょ。
あとはベルトとチェーンなんか適当にそれっぽいの付ければ…。
リビングにの鏡で軽くチェックしてから、両手を腰に添えてため息を一つ吐いた。
こんなもんかな。
いつも店で被ってる帽子はどーしよっか迷ったが…。

「無い方がいいな」
「…そう?」

マスターの助言を取り敢えず信じて、帽子は置いて出ることにする。

「オヤスミ&行ってきー」

座ってるマスターの前を横切って、俺は玄関へ向かった。
靴を履く足がいつもより戸惑う。
やばい、少し緊張気味っぽいんだけど。
…てか、無理ないけど。

だって"友達"と遊びに行くとか、今まで無かったから。



春色と朝風




約束の駅前に着いたのは、十分前だった。
…早まった。
でも、遅刻常習犯の俺が時間前行動とか、奇跡。

「…」

暇だな…。
待ち合わせのオブジェ前に立ったまま、適当に周りを見回す。
深夜でない駅前に来るのはマジで数えるくらいしかない…てか、片手でたぶん足りる。
自分はモグラだと自負してる。
ぶっちゃけて言えば、人間サマの世界にあまり興味が無い。
顎を上げると、空には太陽が輝いて、晴れていた。
雲が少ない。
…なーんか、新鮮。
いつもより、圧倒的に世界の明度が高い。
馴染みのある駅前だけど、別世界へ来たような気さえした。

 

 

そして長く感じる十分が過ぎ去り、待ち合わせの時間が経過する。
…。

「…うーん」

とん…とオブジェに背を預け、片手を腰に添えて小さく呻ってみた。
…これは…遊ばれた、かな?
そんな人には見えなかったけど。
普通の人がどのくらい待つのか知らないけど、少なくとも俺は時間が過ぎたら基本帰る。
決めてその時間になったんだから、守るの当然っしょ。
徒歩で来るとか言ってたから電車は関係ないだろうし。
せめて、メアド聞いておくんだったな。
…帰るか。
そう思った矢先、歩道を駆ける音が耳に届いた。

「おーい!」

音に引っ張られてひょいと顔を上げると、目の前の道路横断の為の歩道橋から、踊るように軽やかに待ち合わせの相手が降りてくる。
首のとこで揺れるストールが尚のこと動きを広く見せてて、何となく目が行く。
焦った様子で、待ち合わせの相手…KAITOさんが危なっかしく歩道橋を駆け下りてそのまま走ってきた。

「勇馬くん、ごめ……って、うおわっ!?」
「あ…」

下り階段途中で、ずるっと足を前へ滑らせる。
見てる方がびくっと反応しちゃって、寄りかかってたオブジェから背中を浮かせてたが、当然間に合うはずはなく。
…でも、間に合わなくても全然問題無かった。

「お…っと!」

一瞬バランスくずしつつ、片手をすぐ横の手摺りに添えてそこに力入れると、転ける前に自らタンッ…と軽く跳んだ。
そのまま…びっくりしちゃうけど、もう少しで歩道って感じの高さしかなかったその階段位置から、手を置いた手摺り飛び越えて…まあ流れでそうなるしか無いんだろうけど、軽く反転すると横の歩道へ、「ほ」とか短い声と共に飛び降りる。
平日午前中なんで通行人なんて大していないけど、それでも数人がぎょっとしてKAITOさんの方を見ていた。
…が、そんなの気にせず本人はそれまでと変わらず小走りでこっち来る。
本当、華やかな人だな…。

「お、お待たせー!遅刻して悪かったね」
「いや、いーけど…。大丈夫? 今の」
「ああ、大丈夫だよ。捻ったりしてないから」
「…そう?」

片手で少し寄れた服を直しながら、しれっとKAITOさんが応える。
細身だから身体軽いんだろうな。
俺あんまりダンスとかしないけど、やっぱプロは違うんだろうね。
…服の直しが終わると、改めて彼は俺を見た。

「さて、何処行こうか。何したい?」
「んー…。俺、あんま昼間町に出たことないんだよね。だからおにーさん決めていいよ。着いてくから」

夜の街の遊び方なら案内くらいできるけど、昼間はよく分からない…てか、未知の世界。
他のVOCALOIDがどんな風に生活してるのかとか、今まで気にしたこと無いし。
ましてKAITOさんみたいなのが日常どんな風に生活してるのかも分からない。
普通、何して時間潰すんだろ。
任せちゃって悪いけど、今日は慣れときたいって感じもあるし。
様子見。
俺のリクエストが無いと分かると、KAITOさんは小さく笑った。

「そっかー。…いやね、実は俺、マスター以外の人とイチイチで遊んだことないから、ちょっと遊び方とか分からないんだよね」
「そうなの? おにーさん、友達多そうに見えるけど」
「たくさん欲しいけど、あんまりいないんだ。マスター以外とはなかなか知り合えないし、他の仲間たちとも滅多に会わないからね」
「何で?」
「何でっていうか…。それぞれマスター違うし、住んでる場所も違うから。…"ボディ"があるVOCALOIDはまだ試作品だから、それぞれ一体ずつしかいないしね」
「…そーなの?」

店の外の情報には疎いけど、俺も含めたVOCALOIDって、その辺にいるんだと思ってた。
…そう言えば、基本的にVOCALOIDってボディ無いんだっけ。
俺自身あるから考えたこと無かったけど。
ある方が珍しいのか…。
俺も他の"VY2"に会ったことないけど、それって単純に絶対数少ないだけかと思ってた。
どちらにせよ俺は、CDやネットで聞いたことはあっても、ボディ無しのVOCALOIDにも、ボディ有りのVOCALOIDにも会ったことは無かった。
ボディあるのが珍しいのなら、今俺の目の前にいるこの人は相当レアキャラなんじゃないだろうかと考え、思わず凝視してしまった。

「…? 何か付いてる?」

じっと見下ろしてしまった俺に気付いて、KAITOさんが首を傾げる。
慌てて片手を軽く挙げた。

「あ、ごめ…。じゃあ、おにーさんとかマジレア過ぎなんだろうなと思って」
「ええ~? あはは。それを言ったら、勇馬くんもだろ?」
「…そーなんかな」

自分じゃよく分からない。
…確かに、絶対数多い"KAITO"よりは俺のがレアなことには代わりないかもしれないけど。
でもま、所詮マイナーだし。
俺の個体数とか誰も気にしてないだろう。
なんせ、まず俺が気にしてない。

「じゃ、取り敢えず、俺がマスターといつもぶらぶらするコースを巡ろう!」
「うぃっす」
「ゲーセン行って買い物ね。CDとか本とか」

歩き出すおにーさんに付いて、俺も昼間の町へ足を踏み出した。
歩き始めてすぐ、一歩分くらい前あるいてた彼が俺を振り返る。

「この間は暗くてよく分からなかったけど、勇馬君って髪色ピンクなんだ?」
「え? …あー、うん。変でしょ」
「そんなことないよ。春らしいね」
「…」

…うーん。
駄目だな、やっぱこの人の発言面白いな。
予測不可能で。
春らしいとか…いや意味わかんないっす。
思わず口元が緩んでしまう。

「それに、前会った時と何かイメージ違うし」
「あーうん。抑え気味で来た。…おにーさんの傍歩くんなら、オチツイテないと浮いちゃうからさー」

てか、実際正解だった。
KAITOさんの服は案の定さっぱりしてて小綺麗で、本人の趣味なのかこの間の例の地味なマスターの趣味なのかは知らないが、落ち着いている。
それに日中は、ああいう服着てると目立つのかもしれないし。

「この間も格好良かったけど、そーしてるとまた別な感じで格好良いよ。少し可愛めが入るよね」
「…俺?」
「そう」
「…。俺、おにーさんより身長あるけど」
「でも、何となくそう思うんだって。雰囲気柔らかいからかな。…あっ、気に障ったらごめんね!」

ばっと身体ごと振り返り、突如謝罪される。
…雰囲気柔らかいとか初めて言われた。
緩んでる時は緩んでるけど。
やっぱ、変な人。
…と思ってると、道の向こう側から携帯弄りながら人が歩いてきて、半ば後ろ歩き気味のKAITOさんにぶつかりそうになってたんで、反射的に左手でKAITOさんの肩を引いた。

「…っとと」
「後ろ歩き危ないっしょ」

KAITOさん退かせてできた隙間を、通行人が歩いていく。
…つーか前も見れねーよーな狭視野で歩きながらスマフォとか弄ってんじゃねーよ。うぜ。
って、今回は後ろ歩きしてるこっちも悪いか…。
浅く息を吐いて、肩から手を放す。

「悪いね。ありがとう」
「いや…。てか、おにーさん悪いけど、俺の左側歩いてくれない?」
「ん…? いいけど、何で?」
「右側フリーじゃないの、気になんだよね。…いざって時、動けないじゃん」

今日は刀持ってきてないけど。
てか、昼間そんなん持って動けないけど。
それでも、やっぱ右腕が瞬間的に動けないと気分が悪い。
首を傾げながらも、KAITOさんは左側にずれてくれた。

「ありがと」
「どういたしまして。他にも気になることあったら、言ってね」
「…何か、生意気でゴメンね。俺」
「ええ? そんなこと思ってないって」

明るい笑顔で応えてくれるKAITOさんに連れられて、そのままゲーセンへ向かった。

 

 

ゲーセンとかなら昼も夜も大して変わらない。
平日だけあって人少なくて楽だし。
音ゲー中心に遊び抜いたけど、一番嵌ったのはダンスのやつ。

「…ごめん。もう一回やらせて」

ダンスゲームの盤上でぜーはー言いながら前屈みになりつつ、再々々リベンジくらいを狙ってせがんでみる。
隣で、俺と同じく上着一枚脱いだ格好で、KAITOさんが少し呆れ気味で苦笑していた。
こんなゲーセンの片隅で汗だくとか…。
健康的過ぎでしょ。
何やってんの俺…。

「結構諦め悪いねー、勇馬君」
「ってか…俺これ初めてプレイするし…。大丈夫。もうさっきの曲は覚えたから…次はたぶん俺もクリアできる…」
「初プレイで追いつかれちゃ堪らないんだけどな…っと」

背後に並んでる人がいないのを確認してから、KAITOさんが機械にカードを通した。
小銭の音がして、コインが機械に吸い込まれていく。
区切るように一度短く息を吐いて、前屈みになっていた身体を起こした。
後ろ腰に手を添え、背筋を伸ばす。
…制汗剤が欲しい。
スプレー吹きかけてえ。
横で、同じように多少ぐったりしてるKAITOさんは袖で顎下を拭っていた。

「…ストール、取れば?」

その下の首周りには未だにストールがかかっている。
上着脱ぐより先に、そっち取ればいいのにと思うが、KAITOさんは苦笑するだけだった。
違和感を感じたが、突っ込まないことにする。

「…てか、おにーさん動くねー」
「折角ボディがあるんだもん。踊らなきゃね」
「…」
「汗かくのも好きだよ。発汗性能は人間と比べると低いらしいけど、ボディが無いとかけないんだってさ」

他愛もない一言だったけど、何だかそれが胸に来た。
シャツの袖捲りながら、両肩を下ろす。

「…。カッコイイね」
「ん?」
「…うん」

聞こえなかったっぽいけど、別に聞いて欲しかった訳じゃないから繰り返さなかった。

「はーい。選曲どうぞー」
「さっきのさっきの」

ばしばしボタン叩いて、さっきクリアできなかった曲へすっ飛んでいく。
ローディング中、邪魔な髪を耳にかけて気合い入れに両手をぱんと叩いた。

「っしゃ。来い」
「あははは!」

すっかり火が着いて、夢中になって踊った。
たかがゲームに。
いつもなら全然興味無いけど。
…馬鹿みたいだけど、楽しかったから不思議。

 

 

 

「おにーさんおにーさん」

CD兼本屋。
程々に疲れ切った身体もいい加減冷えてきて、だらだら物色してる中でそのコーナーを見つけ、少し離れた場所にいたKAITOさんを呼ぶ。
何か見てたみたいだけど、すぐ来てくれた彼へ、目の前のコーナーを指差す。

「ボカロコーナー」
「あ、ほんとだー」

CD並ぶ片隅。
アニメコーナーの横にボカロジャンルが固まっていた。
新作がパッケージ見えるように並んでおり、旧作はそのまま歌い手順に並んでいた。
分かりやすいようにタイトルプレートがあり、下の方に名前を見つけ、人差し指でそれに触れる。

「"KAITO"」
「あはは。少なー」

ころころ他人事のように笑ってるけど、照れてるようにも見えた。
確かに、殆どは初音さんだ。
歌い手ごっちゃなアルバムなんかもあるけど、それだと並んでる冒頭のプレート無しの部分に含まれるから、"KAITO"のプレートに並んでいるものは本当に少なかった。
それでも、やっぱすげーなと思う。
俺なんか名前すら無い。

「すごいね。CDだってさ。住む世界違うなー」
「どうして? 一緒だよ。それに、それは俺じゃない"KAITO"たちだし。…寧ろ、俺なんかより勇馬君の方が歌い手として立派だと思うけどな。あんなステージで毎晩歌ってるなんて羨ましい」
「なんだ。じゃ、また歌いにおいでよ。大歓迎なんだけど」

つかマジで大歓迎なんだけど。
あんなアングラのステージで良ければ、毎晩だって歌って欲しいくらいだ。

「あー…。うん、でも…マスターに聞いてみないと…」
「…。何か、この間も言ってたけど、マスターに歌うの禁止されてたりすんの?」
「うーん。何かうざいみたいで…」

ははは…と笑いながらKAITOさんが困り顔をつくる。
…はあ?
どんなマスターだよ、それ。
んな心構えでマスターとかやってんじゃねーよ。
超迷惑じゃん。
…ていうか。

「そんな奴に歌って聞かせてやる必要ないんじゃない? それより、おにーさんの歌待ってる人っていると思うけど」
「うーん…」
「歌いたい時に歌えばいいし、聞きたい奴に聞かせてやればいいんだよ。この間の夜とか、おにーさんすごごく良かったよ。何か俺、楽しかったし。…俺、怠くて最近あんまり歌ってなかったけど、あの夜からまたマメに歌うようになったし。刺激された」

とんとん、と言いながら棚に並んでるおにーさんのCDをある種類だけ全部取る。
たいした量じゃないし。

「買って練習しよ」
「ええ…!何か恥ずかしいから嫌だ!」
「いや、俺の自由だし」

横から奪い取ろうとするおにーさんを軽やかにかわし、レジへ向かう。
チーン、と脳天突き抜けるような、久し振りに聞くレジの高音が小気味良くて、上機嫌のままショップを出た。

 

 

 

「はい。おにーさん」

CD買ってから譜面屋行ったり駅前で一休みしてたら、あっという間に夕方になった。
人も多くなってきた駅前。
さっき買ったCDのうち一枚を差し出すと、KAITOさんは疑問符浮かべながらも受け取った。

「え?何? くれるの?」
「うん。おにーさんへ"チョコ"」
「チョコ…?」
「あ、ごめん。通じないよな。ヤクの隠語」

アップテンポで、一番好きな曲が入ってるものをプレゼントする。
思わず頭に残るような。
口ずさんで踊りたくなって、カラオケに行きたくなるような。

「音楽無い人生って、やっぱ詰まらないと思うよ。おにーさん、いい歌たくさんあるし。CDとかたくさん聞きなよ。…いっぱい聞いて、うずうずして我慢できなくなったら、マスターの目盗んだり、理由付けておいでよ。協力するから。そのくらいいいでしょ」
「え…っ。困るよ…!」
「何で? プレゼント返したりしないでよ。傷つく」

突き返そうとするKAITOさんに追撃で言うと、押し返そうとしていた両手はぴたりと止まった。
いい人だなと思う。

「今日は楽しかったよ。ありがと。俺、マジで誰かとこんな風にぶらついたことなかったから。おにーさんと一緒だと時間が狂うね。…で、これ俺のアドレス」

KAITOさんの右手を掴んで、その掌に俺のアドレスを一つ一つ書いていく。
紙媒体とかじゃないけど、覚えられるだろう。
人ほど記憶力無くないから、俺ら。
特にぼんやりしたイメージや記憶でなく、記号や文字などの方が断然に覚えやすい。

「おにーさんのも教えて欲しい」
「え、あ…。うん、いいけど…」

直球で求めて、右の袖を捲って前に腕を出す。
さらさらと同じようにして、腕にKAITOさんの指が走った。
…青いマニキュアが綺麗だ。

「…と。これでいい? 覚えた?」
「うん。覚えた。…メール待ってるから。てゆーかするし。また一緒に歌ってよ。めちゃ練習するし、俺。…次来た時は」

開かせていた掌を、この間別れ際されたみたいにぎゅっと握った。

「俺の声でおにーさん引っ張ってあげるよ。おにーさんの曲でさ」

真似して、握った手を上下に揺らして、名残惜しいけど、別れた。

 

 

 

 

楽しすぎたから別に休む必要も無く、一度家に帰って着替えるだけ着替えた。
その間、CDをプレイヤーへ録音するも、時間が無くてそのタイミングだと一枚しか録れなかった。
…けど、まあ、良し。

「よっ」

いつものパーカーと帽子着けた後で、玄関に座って靴履く。
それから、首に掛けてたヘッドフォンを耳に当てて、ポケットの中でプレイヤーを再生した。
ごついヘッドフォンだけどコードレスなんで、そのままポケットに突っ込み、腰を浮かせて立ち上がる。

「さーてと。…行くかー」

歌詞覚えたら思いっきり練習しよ。
そんで、あんな風に軽やかに動いてみたいし、暇あったらダンスの練習とかもしてみようかな。
次あの人が来た時に、驚かせてやりたい。

ドアを開けると外はもう暗かった。
それでも、爽やかな朝風のような声を聞きながら、足下軽やかに俺のステージがある店に向かった。



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初デート話。
ぽやぽや兄さんと年下クールな勇馬くん。
勇馬くんは人間に対してもやり返せますよ。
2013.11.10





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