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抜くのも出すのも好きじゃない。
めんどくさい。
フェラとかも、されるのもするのも嫌い。
セックスもできればしたくない。
キスは時々したくなる時もあるけど、たぶんそう思うのはすごく希で、どうしてみんながそんことに執着するのか分からない。

でも、クロがしたいなら付き合う。
バレーと同じ。

そっとあしかせ



「…、けーんーま」

呼ばれて、ぴくっと耳を立てる。
今日は休日で、学校の事情で体育館使えるのが午前中だけだった。
午前の部活が終わって、ファミレスでご飯食べてから土手でみんなで少し遊んで、クロんちへ帰ってきた。
…"帰ってきた"って表現変かもしれないけど、小さい頃から出入りしてるから、何か半分家の気分。
クロのベッドでごろごろしながらスマフォ弄っていたけど、さっきまで机の方にいたクロがいつの間にか傍に来ていた。
ベッドの横に座って、手の甲でおれの髪をするりと撫でる。
その手はすごく気持ちがよくてくすぐったくて心地良い…けど。
嫌な予感がして半眼になる。

「…。えー」
「何で。嫌か?」
「んー…」

良くはない…。
めんどくさいし。
熱いし。
べたべたするし。
前後不覚になるし、おれ。
何してるか言ってるか分かんなくなる。
髪とか首を撫でるクロの手に目を伏せながら、日々の持ち主の妙な寝癖のせいで変な形に曲がってる枕の上で身動ぐ。

「明日、部活あるし」
「午後からだろ?」
「疲れるし、ベタベタするし」
「ちゃんと拭いてやってんだろーがいつも」
「…。なんか、わけわかんなくなるし」
「そこが俺的にはイイから気にすんな」
「…」

ようやく真顔だったクロがにやりと笑って、内心ほっとする。
知ってる笑顔じゃないと、ちょっと怖い時あるから。
横向きになってた体の上のラインを撫でていたクロの手が離れて、ぺしぺしっとおれの頭を軽く二回叩く。
首を引っ込めて片腕を上げ、ぺちっとクロの胸を叩いて反撃しておく。
…でも、反撃し終わった手は捕まって、クロはおれの指のとこにキスした。
当然だけど、指が湿る。
あったかいっていうより、熱い。
キスされたり触られたとこが、本当に熱くなるから困る。

「…おばさんとか帰ってくるよ」
「残念でしたー。今日は遅ェんだとよ。証拠隠滅する時間ありまくりますぅー」
「…」

にやにや笑うクロにむすっとして数秒。
…だめた。
諦めてくれない気がする今日は。
さっと目を反らして、いじけるように枕に頭を埋める。
クロは一頻り苦笑するように笑った後、膝をベッドに乗せて乗り上げてきて、腕を伸ばしてすぐそこの窓のカーテンをシャッと閉めて、おれのうなじのところに噛み付くようにキスされた。
歯は立てないけど、ばくって噛まれる。
…ああ、もう。
熱い…。
…。

 

 

 

「…。う~…」

鼻のとこがむずむずして、ぼんやり意識が覚醒する。
目閉じてるけど、顔を顰めて鼻をすすって…そうしたら喉が乾燥してて咳が出た。
開けたくないけど、それでふ…と瞼を上げる。
相変わらずベッドだった。
横向きに寝てたせいで、下になってた右肩がちょっと痛い…けど、服は着てて、しかも布団かぶってちゃんと普通に寝てた。

「…あつい」
「お。起きた」

布団が熱くて、ぺっと片腕で払うと声が聞こえた。
電気が消えてたから、逆に目が闇に慣れててすぐにクロが見えた。
部屋の真ん中にある低いテーブルに頬杖着いて、ノート開いてて、ペン持ってた。
こっち見てにっと笑うクロと目が合ったけど、無視して右手で目元を擦る。
…眠い。
あと、やっぱり熱い…。
体、ぺたぺたする気がする。
中途半端に払い除けて下半分だけかかってる布団の中で、ごろんと寝返ってクロに背を向けて丸まる。

「…いま何時~?」
「まだ九時」
「んむー…」

丸くなったけど、横向きになったまま両手両足を一回前に伸ばす。
体幹が、ぐー…!ってなる。
それから、また丸くなった。

「因みに、研磨のかーちゃんには電話しといてやったかんな。今日泊まるーっつって」
「んー…。泊まる…帰るのめんどい」
「寝起きのチューするか?」
「しない。やだ。あつい」

身動ぎして更に丸くなる。
二度寝しようとしたけど一度起きちゃったせいで眠れなくて、手探りで眠る前に弄っていたはずの携帯を探して、枕の下で見つける。
ロック外すと、ゲームアプリの更新情報がいくつか入ってた。
そのまま、もそもそとアプリを起動して始める。

「…何してんの?」
「あー? 俺?」
「そう」
「ベンキョー」

立ち上げる途中の些細な空き時間、ふと気になって背中を向けたままクロに聞くとそんな答えが返ってきた。
勉強…。
おれ、あんまり家でしないや。
クロえらい。
そう言えば受験生だったっけ。
でも…。

「暗くないの? 目悪くなるよ」
「テメーが寝てたからだよ。…つーかまァ、俺夜目利く方だから別にいーんだけどな」

思い出したようにテーブルの上にある照明のリモコンを取って、天井に向かってぽちっと押す。
甲高い音を一つ立てて、一気に光が部屋を充たす。
眩しくて、また目が痒くなって、また擦った。
ついでにまた小さく咳をする。
喉、へん。
がらがら。

「何か飲むか?」
「んーん。別にいらない」
「お前ちゃんと息しとけよ」
「してる」
「してない。途中途中で止めてっからヒューヒューすんだよ」
「…? 覚えてない」

万歳して服脱いだところまでは覚えてるけど、そこから先はいつもぼんやりしてる。
寝て起きて振り返ろうとすると全然覚えてないし、ぶっちゃけどうでもいい。
思い出しても疲れるし、恥ずかしいだけだし。
クロが満足ならそれで全部。

「…。クロ、ちゃんと終わった後体拭いた?」
「あ?」
「なんかぺたぺたするしまだ熱いんだけど」
「何で。どこが」
「全部」

言ってからちらりと肩越しに背後を振り返ると、ペンを片手にクロが呆れた顔でおれを見ていた。
たれた様子で頬杖を着く。

「何だお前そりゃ。もっかい脱がせて拭いてほしーってか?」
「拭いてほしい」
「…」
「え? 何で。だめ?」

だめなのが不思議で、携帯を一時放り出して背中向けてた体を仰向けにして、今度はクロの方へ向いた。
クロは溜息を吐いて、ペンの後ろで自分の頭をとんとんと叩いた。
…何か不機嫌になった。
何で?

「どーせなら風呂入っとけ」
「あー…」

それもそうだ…。
時間的にそういう時間…というか、お腹空いた。
なにかないかな…。
ベッドの横のフローリング見ながらぼーっとしていると、カツカツカツと音がした。
何だろうと思って視線を上げると、クロがペンの先でテーブルを叩いてた。
明らかに"こっち見ろ"って言われてる気がして、音がしていたペンの先から、クロの目に視線を移動させる。

「…。なに?」
「お前さ、俺のことナメてんだろ」
「なにそれ。別になめてない」
「加減してくれ、マジで。プッツン来るだろ」
「…? もう一回やりたいの? …今、何かそーゆー流れとかあった?」
「あっただろ。ありまくり」
「ないよ」

不機嫌なクロから早々に視線を外し、携帯へ戻る。
クロのツボはよく分かんない。
おれが一番仲いいのはクロだけど、十年以上一緒にいてもまだクロのこと全部は分からなくて、だから絶対他の人とかもっと分かんなくて、無理だと思う。
それにどのみち、もう一回とかしない。
せめて三日は空けてほしい。
じゃないと死ねそう。疲れる。
再度アプリを始めるおれのところに、クロの呆れた声が届く。

「つーかマジ、どーしてお前そんなに欲ねーかなァ…」
「…欲?」
「俺と寝んの嫌なんだろ?」
「んー。別に、嫌じゃないけど、疲れるからあんまりしたくない。疲れなかったらしてもいい。…けど、なんでそれが欲がないことになるの?」

尋ねると、クロが不思議そうな顔をした。
アプリを続けながら横目でそれを見て、またディスプレイに戻る。

「おれ、強欲だよ」
「は…。お前が?」
「うん」
「どこが?」

半笑いでクロが聞いてくる。
…どこが?
どこがって…全部だと思うけど。最初から最後まで。
でもそれは直接言えなくて、ごろごろしながら場しのぎにタップしなくていい画面を指先でつつく。

「え…。おれが、クロすきなとこ?」
「はァ? そーかそーか。ありがとよ。俺もだ。…けど、意味分かんねー。何でそれが強欲なんだ?」
「んー…。だって、クロは友達多いし女子によく告られてるけど、おれがいるから、いつも他の人とそこまで仲良くならないじゃん」
「まぁな。当然だろ」
「何で。全然当然じゃない。…おれは元々他の人苦手だからいいけど、クロは違うし。おれのこと優先してくれるけど、それって、クロの行動範囲めちゃくちゃ制限してるし。クロ、本当はもっとたくさんのことできると思うし、色々な人と合うのに。いつもおれのせいでストップかかってる」
「…」
「みんな言ってるし。ポジションと一緒。"何でアイツなんだろ?"って、いつも言われる。…でもおれ、クロが一番一緒にいたいし、クロと離れたくないから。ダメなの分かってて、ずっと足止めしてんの」

ずっと前から、いつも思ってること。
クロはもっと色々な人と出会えるし、色々なことができる。
でも、いつもおれで足を止めてくれるから、その先に行けない。
クロがおれのとこで足止めちゃうなら、おれがクロの立ってるとこ行かないとって思って、クロがしたいこととかには面倒臭いけど頑張って着いていこうと思って、バレーとかも続けてるけど…。
その他のことは、なかなかクロに合わせるの難しい。
登下校とか、小学校の頃から今現在まで殆ど待っててくれたり待ち合わせしたりしてる。
でも俺とクロは一年違うから、小学校と中学校とか、中学校と高校とか、どうしても分かれる一年間、クロは別の友達と帰ってる。
…けど、そこにおれが上がってくると、今度はおれのとこに来ちゃうから、それまでクロと一緒にいた人はおれを見て絶対言う。

――"何であんなのと一緒にいんの?"

言葉は、結構な確率で刺さる。
クロの友達とかと擦れ違った時とかに聞こえちゃうと、いつもゴメンって胸中で謝っておく。
…ごめん。
ごめんなさい。
ほんと、ごめんなさい。ずっとクロひとりじめしてて。
けどおれ、クロすきだから、ずっと横にいてほしくて離れたくない。
人を好きになって付き合うとかって、なんか――"これ以上、セカイ広げないでね"ってことだと思う。
ここでストップしてね、って。
足とかに、鎖つけるような感じ。
どこにもいかないでね…とかって。

「…」

言ってて、ちょっと罪悪感。
胸がちくちくする。
何となく足を摺り合わせてシーツの上で身動ぎしていると、ぬ…と手元が陰った。
視線を上げると、いつの間にか音もなく近くにクロが寄っていた。
フローリングに座ったまま横まで来て、ベッドに横向きに転がってるおれへ手を伸ばす。
頭を撫でられて、携帯を持っていた手をぱたりとシーツに落として、目を閉じてじっとした。
…少しして、そっと目を開く。
怒ってるような、苛っとしてるような…そんな風に見えるクロの真面目な瞳と目が合う。
急に、すごくごめんって気になる。
胸がぎゅーっとすしてきて、謝らなきゃと思って、恐る恐る口を開いた。

「…。ごめん、クロ」
「何が。つーか謝んな。腹立つ。…逆に俺の方が、研磨のことスゲー閉じ込めてると思うけどな」
「おれは別にいい。他人とか苦手だから」
「俺だって自分の意思だっつーの」
「…。ごめんなさい」
「…おい。ちょっと待て。マジ泣きとか止めろ。キレんぞ」

欠伸のときみたいに、じんわり目元に水気が集まる気配がする。
言いながら、クロがおれの腕を引っ張る。
引きずり下ろされるように、おれはベッドからクロの腕の中に落ちた。
両足の間に降ろされて、片手で頭を押されてそのまま首のとこに頭を預ける。
…あったかい。
こーやって、特別なこと何もしなくてくっついてるのが、一番好きだ。
クロがあやすように背中の下の方に片手を添える。

「その程度、世間じゃゴーヨクって言わねーの」
「へー。そーなの?」
「そ。普通に嬉しいレベルだし」
「…? 今のが嬉しいの?」
「おう。途中まではな。ただし、お前に謝られると一転して悲しくなるわ。マジ止めろ。…つか、俺が感じ悪ィこと言って悪かったな」

ぽす…とおれの頭の上にクロが顎を乗せる。
適度な重みに押されつつ、おれは首を振った。

「ううん。おれも…いつも拒否っててごめん」
「お。んじゃー今日はこの流れ任せでもーいっ…」
「やだ。疲れる」
「ですよねー。ははっ。…んじゃーキス止まり」
「無理。今喉いたい」
「おい…。妥協がねーぞ、妥協が」

笑うクロの喉に額をぐりぐり押しつける。
クロの匂いがして、お腹空いてるけどそのままうとうと眠れそうだ。
クロはおれの匂いがすると抱きたくなるっていうけど、俺はクロの匂いがすると眠くなる。
クロすき。
このまま、ずっと傍にいたい。
クロのためにならなくても、一緒にいたい。
"好き"って、凶悪なキモチで、なんかやだなっていつも思う。

「…」

少し顎を引いて、目を伏せたままクロの腕の中で俯く。
…今までごめんなさい。
これからもたぶんずっと、ごめんなさいになる。

 

 

抜くのも出すのもフェラとかも、キスもセックスも基本はきらい。
他の人とは絶対したくない。するくらいだったら死ぬ。
でも、どんなに嫌なことでも面倒くさくても、クロがしたいなら付き合う。
一緒にいたいから。
いつまでもおれの方向いててほしいから――。

だから今日も、速く走れるその足に、そっと鎖を巻いておく。



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相互依存症。
溺愛且つ多少歪んだ関係の方が好きなので、ほんと萌えます。
2014.6.16





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