一覧へ戻る


「ウィー。ただいまー」

ノックせずバターンとドアを開けると、案の定研磨は部屋の中にいた。
安定のベッド上。
俯せに寝転がりピコポコゲームやるのはいいが、もう夕方で暗いっつーの。
夏の終わりだがまだそこそこ暑いし、研磨の家に一歩入った瞬間から涼しいと思ったが、特にこの部屋はクーラーがんがんでエコ精神はまるで無し。
ゲーム機から顔もあげず、ぼんやり研磨が口を開く。

「おかえりー…」
「電気着けろ。目ェ悪くなんだろ」

ドアを閉めて部屋の中に入り、テーブルの上にあるリモコン掴んで照明を着けた。
ついでに、その横にあるクーラーのリモコン掴むと設定温度がかなり低くなってたんで、2,3度上げて体に優しい温度に戻す。
そのままテーブル傍に腰を下ろし、背中をベッドの側面にあずけた。
帰り道にコンビニで買ってきたスナック菓子を取り出しながら、後ろで寝転がってる研磨を振り返る。

「エアコン下げ過ぎんな。言ってんだろ」
「クロ、今日来ないかと思ったから」
「まあな。俺も来る気なかった。…っつー話じゃねえっつーの」
「…早かったんだね。梟谷の人と買い物行くと、夜帰ってくるのに」

振り返った先がなかなかいいアングルだったんで、片手伸ばして研磨の穿いてるハーフパンツの裾を指で抓んで横に引っ張ってみたりしていると、ぺちっと片手が伸びてきて俺の手を邪魔そうにしながら引っ張ってたパンツの裾を撫でて直した。
片手退かされたことは残念だが、顔を上げれば俯せになってゲームしてた研磨が横向きに体勢を変えて、背中を丸めるようにして足下の方にいる俺を見ている。
研磨の言葉に、はあ…と露骨に溜息をついてやった。

「まあな。今日は別の奴に会いに行かせた」
「クロが?」
「そー」
「ふーん…」
「俺今日スゲーイイコトしたわー。…おら。食う?」

よく分からないような顔というよりは興味のない顔をしている研磨の鼻先に、プリッツを突き付ける。
期間限定、アップルパイ味。
普通のやつはそこまで好きじゃないが匂いに引かれたか、ぱくっと一口食い付くと、そのまま奪ってもそもそ食べ始める。
ゲームはどうやら中止したらしい。

「うまい?」
「うん。…おいしい」
「座って食え、座って」
「これだけでいい」
「遠慮すんな。…ほらよ。あとこれ土産」

横に置いてたゲーセンの袋から、猫のぬいぐるみの首根っこ掴んでずるりと取り出す。
二頭身のぬいぐるみは何かのゲームのキャラらしい。
俺は知らんけど。
その辺何でもいいが、ぱっと見案外可愛い。
ぶらりと垂れ下がっている捕まえた猫を、研磨の方に突き付ける。

「やる」
「え、いらない」
「んん~? いーのかな~、そんなこと言って。これでもいらねえ~?」
「…」

にまにま笑いながら、ぬいぐるみを胡座かいた足の間に下ろすと側面についてるジッパーをジー…っと勿体振って下ろす。
中に入ってる保冷剤的な袋を少しひっぱって見せてやると、ぴくっと研磨が興味を示した。
ベッドに横向きに転がったまま、背中丸めて小さくなりながら、じっと俺の持ってるぬいぐるみを見る。

「…。つめたい? それ」
「キモチー程度に冷たい。しかも布地は冷感素材ですってヨ、奥さん」
「…」

研磨が両手を伸ばして、ほしいとジェスチャーする。
その手の中に、ぽんと放ってやった。

「ほら」
「…」

与えてやると、一応猫の形をしたその頭にてしっと片手を乗せ、じっと凝視した後で、目を伏せてぬいぐるみの頭に頬をくっつける。
気に入ったのか、そのままぎゅうと引き寄せると抱きついて気持ちよさそうな顔をする。
緩みきったその表情と仕草に満足して、ベッドに片肘をかけた。

「どーよ?」
「つめたい。…きもちいい」
「だろ? やるよ。まだちょっと暑ィしな」
「どうしたの、これ」
「UFOキャッチャー」
「ふーん…。すごいね」
「だろ?」
「うん。もらう」

今度はあっさり受け取る。
現金さに苦笑しながら、俺も腰を浮かせてベッドに座り直した。
そのまま横倒しになって、ぬいぐるみ抱いてる研磨の上に覆い被さる。
耳にキスすると擽ったそうに身動ぎする。
見慣れたそんな仕草もぐっとくる。
何やったってされたって、何なら匂いだけでもまだまだ興奮する程度には可愛い。
…あー。
この可愛さが分からないなんてなー。
他の連中が哀れでならねえ……が、俺以外の誰かが知ってるっつーとそれはそれで息の根止めたいくらいには嫉妬心が出てくる。
甘ったるい、何なら早速さっき食ったアップルパイ味プリッツの匂いがしてる体を抱く。
両脚で足を挟み込み、右腕を研磨の肩に回し、左腕でカチャカチャ研磨のパンツの金具やらジッパーやらを下ろしていると、鬱陶しそうに研磨が呻いた。

「…重い」
「抑えとかねーと逃げるからな、お前。夏は」
「暑いんだってば…」
「その為のコレですよ」

研磨の下に回した右手で、抱いてるぬいぐるみを更に鼻先に押しつけてやる。

「下におばさんいるからな。挿れはしねーけど、暑けりゃ今日はそれ持ったままでいろ。気持ち良くしてやるよ」
「…。クロって時々変態だと思う」
「馬鹿野郎。男は大体こんなもんだぞ」
「そーかな…」

半眼でじと目している顔に、にんまり笑いかける。
研磨は少し考えてから、ふう…と諦めるみたいに息を吐いた。
俺の腕の中で体の向きを変え、こっちに向くと首のところに擦り寄ってくる。
ぐっとくる。
堪らない。
ぬいぐるみにしがみついて喘いでる姿が見たかったが、こーなるともう間に入ってるぬいぐるみが邪魔くさくて、何なら何故かブツ相手にワケ分かんねー嫉妬心みたいなのも出てきて、掴み取ってブン投げたくなってくる。
研磨を閉じ込めるみたいに俺も背中丸めてくっつく。

「…あークソ。本番ヤりてー」
「親いる時はやめるっていったよ」
「分かってるっつーの。けど最近お預け長ェっつーの。お前もヤりたいだろ、そろそろ。いーかげん」
「おれはしたくないよ。べたべたするし筋肉痛になるし」
「マジか」
「うん。…クロがほんとにつらいならやってもいいけど」
「軽く言ってくれんな…。毎日辛いっつーの。…ったく。特に今日は午後微妙に損した気分だわ。暇だとか抜かすから誘ってやったら、とんだ出歯亀だっつーの。木兎なんかほっときゃよかったぜ」
「…」

やれやれと研磨の頭に顎を乗せて溜息を吐くと、研磨がひょいと顎を上げて真上の俺を見上げた。

「…あのさ」
「あ?」
「今日はクロ来ないかと思ってたから…。こうできてるだけで、おれは嬉しいよ」
「…」
「…」
「……研磨っ!!」
「え、わっ…」

じっと俺の懐見詰めながら指先でカリ…とシャツを引っ掻かれ、堪らず全力でハグした。
冗談めいた全力ハグの後で、笑いながら腕を緩め、多少ぐちゃぐちゃになった研磨の髪を撫で直しながら改めてキスしまくった。



REST with you




…まあまあ。
赤葦も可愛い奴だとは思うわ。
少なくとも木兎にゃ勿体ねー感はあるが、面白いのは木兎じゃなくて、アイツが木兎に惚れ込んでるっぽいところだ。
あのメンドクセエ鈍感俺様のどこがいいのか知らんが…。
…いや、いい奴なんだが、アレ相手は相当疲れんぞ。
特に赤葦みてーな視野広くて色々見えちまうし考えちまうタイプは一番疲れるだろう。
木兎があのクールな二年のカワイイ所をちゃんと引き出せてるもんなのか、他人事だが心配になる。
今日もここに来るまでに何度かLINE送ったが、返信全然こねーし。
どーなったのやら。
…まあ、赤葦が大人だからな。
アイツが木兎に惚れてる分にはどーとでもバランス取れるんだろうが、無理させてちゃ本人辛いだろう。
上手くいっているといいが。
…とはいえ、如何に赤葦が可愛かろうと、限度というものがあるであろう。
そんでそれは、研磨の上を行くものじゃない。
あと方向性も随分違う。
赤葦の可愛さを見てみたい気もする――が、

「負けるワケがない」
「…?」

横たわったベッドに片肘着けて枕代わりにしつつ、反対側の腕で研磨のシャツの中に手入れて背中撫でながらきっぱり断言する。
あんま興味無さそうな顔をしつつも、違和感くらいは持ったらしい研磨が寝転がりながら不思議そうに俺を見る。

「絶っ対ェお前のが上だ。リアルに当社比2.5倍くらいで」
「何が?」
「ん? べっつにー?」

抱くのに丁度良いサイズ。
研磨の頬に鼻先をくっつけると、擽ったそうに身動ぎする。

やっぱり、俺にはコイツが一番いい。



一覧へ戻る


黒研バージョン。
クロさんには本当に研磨君だなあとしみじみです。
そこまでじゃないけど、木兎さんがいるとクロが取られちゃうので何となくもやもや。
2016.3.22





inserted by FC2 system