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小学校の頃、ある年のバレンタインでクロが「チョコ欲しい」って言った。
おれはあんまり気にしてなかったけど、ふと周りを見てみればバレンタインデーにチョコレートをもらえるかどうかはみんなにとって興味があることみたいで、たくさんもらえた方が一般的には嬉しいんだとか。
人にものもらうとか、面倒くさくておれは逆にいらないと思うけど、きっとクロは違うだろうと思った。
おれと一緒にいてくれるけど、クロはいつだって人気者で、たぶんおれよりは一般的な考え方をしているんだと思う。
だから、クロが「チョコ欲しい」っていうのはきっと普通のことで、女子からひとつももらえなかったら少し可哀想な気がしたから、その年はポッキーをあげた。
喜んでもらえて、一緒におやつに食べた。
けど、おれがそんなことをしなくても、クロはたくさん女子からもらっていた。
だから次の年はいいかなと思ったけど…。

「今年はくんねーの?」
「え…。何を?」
「チョコ」

クロが当たり前みたいに言うから、結局その年もそこから先もずっとあげることになった。
結局一緒に食べるし、まあいいかと思って続けていた。
何か嬉しそうだし。
一ヶ月後のホワイトデーには絶対お返しくれて、それも一緒に食べていたけど、クロがアップルパイを作れるようになってからは毎年それになった。
今年もそう。

「ヘーイ、研磨ー。できたてアップルパイ一丁お届けーぃ」
「食べる」

作りたての皿に乗ったアップルパイを片手に、クロが届けに来てくれる。
母さんに切ってもらって、三人で食べた。
クロは一切れで十分らしいけど、おれは二切れ目を小皿に取って、二人で部屋に移動した。
クロのアップルパイはいつも美味しいから好き。
部屋にある正方形のテーブルに皿を置いて、左手のスマホでゲームやりながら、右手に持ったフォークでもくもくと食べ進める。

「最近はホワイトデーも女のイベントだな」

おれの真後ろでベッドに寄りかかって座っていたクロが、開いていた雑誌の特集を見ながらそんなことを言う。
ホワイトデーの特集が載っているらしい。
デートスポットとか、女子に喜ばれる小物とか、なんかそんなの。
クロの両脚の間に座っていたおれは、振り返らずにぼんやり口を開いた。

「女子はパワーあるからね」
「てかもうこれほぼチョコでバレンタインデーその2って感じだろ。何でもいーのか」
「いいんじゃない? イベントなら」
「デートスポットねえ…。ふーん」
「どこも混んでるのにね。……?」

弄っていたスマホが突然手の中から抜き取られる。
当然抜き取った相手はクロで、返してもらおうと振り返る前にお腹に片腕を回されて引き寄せられた。
ぼすっ…と頭の上にクロの顎が乗る。

「よし。デートすっか、研磨!」
「…今更?」
「いや、今更じゃねーだろ。考えたらあんまデートしてねーわ、俺ら」
「これもデートなんじゃない?」
「いんや、違う。もっとこ~…絵にかいたようなやつだよ。分かんだろ?」
「全然」

絵に描いたようなデート…。
ちょっとよく分からない。
クロに捕まったまま、その手からスマホだけ返してもらう。
続きをやりながら聞いてみる。

「普通のデートって、なにするの?」
「んー…そうだな。まあ、王道は映画とかカフェ巡りとかだろうな。…ああ、プラネタリウムもアリだわ。随分見てねーな。見ろ、ほら」
「…」

雑誌をパラパラ捲りながらクロが呟き始める。
…なんか本気っぽい。
星とかあんまり興味ないくせに、これ絶対行かされるやつだ…。
まあ別にいいけど。
どこに行っても、クロとならそんなに疲れない。
クロとゲームとスマホがあれば、場所なんて別にどこだって変わらないし。
こういうのってクロが楽しければそれで、軽い自己満足の域だし。

「次の休みに行くか」
「…んー」

曖昧に応えながらスマホを続ける。
だって、大したことないと思っていた。



俺が好きだろ?




それで休日。
同じ都内圏でも遠出は基本的に好きじゃないし、必要なことは学校と家の往復エリア内で極力済ませているから、活動圏外に出るのはこんな時だけだ。
最寄りの駅から乗り換えて、指定された駅へ向かう。
もうこれだけで面倒臭い。
「待ち合わせからがデートです」って言ってたクロは、あろうことか時間と場所を指定した。
家が隣だから、途中で合流とかでない限り、学校も部活もどこかに行くのも、今まで殆ど一緒に出て一緒に帰ることが殆どで、休日どこかに遊びに行くのにバラバラに出たことなんてあまりない。
…ていうか、意味がない。
それなのに時間と場所指定。
面倒臭いから一緒に行こうって言ったのに、聞き入れてもらえなかった。
それでも家を出るときに一度クロの家に寄ってみたけど、もう出たって。
ロンティの上にパーカーを羽織ったいつもの私服で、時間ぎりぎりに改札を出た。
ぽてぽて歩いて指定された場所へ向かう。
見上げると首が痛くなるスカイツリーの下、ソラマチ。
その入口右にある階段の辺り。

「…」

周りがすごくざわざわしてる。
人がたくさんいる。
カップルとか、女子の集団とか、おばさんの集団とか。
目線を下げて誰も見ないようにして、足音も殺して、なるべくこっそりと人の間を縫うようにして待ち合わせの場所へとぼとぼ歩いていく。
階段の近くになってようやく目線をあげると、端っこにいたクロはすぐに見つかった。
姓に合わせてるわけじゃないんだろうけど、クロは昔から黒っぽくて邪魔の少ない色の服が好きだから、今日もなんかそんな感じ。
黒とかグレーとか灰色の強いやつとか。
あとジーパン。
夜久が言うには中二病の延長らしくて、虎が言うにはダーク色の似合う大人のセンスらしい。
どっちもちょっとよく分からないけど、とにかく見付けるには分かり易い。
背が高くて黒い人を見つければいいから。
知らないざわざわした人の中でクロを見付けるとちょっとほっとする。
近づいて行くとクロも気付いたらしく、ある程度まで行ったら手を上げて寄りかかっていた場所から背を浮かせた。

「…クロ」
「よう」
「ねえ、もう帰ろうよ」
「イキナリだなオイ。違うだろーが。そこは"待った?"だろ。時間オーバーしてんだから」
「クロ星とか興味ないじゃん」
「会話しとけ。"待ったー?"」

ぶにっとクロがおれの左の頬を抓んで言う。
…それ必要?
クロの手首に手を添えて離してもらいながら息を吐く。

「……"待ったぁ?"」
「んーん。"今来たトコー"」
「…」

半眼で、軽く背を屈めて笑ってるクロを見上げる。
何がそんなに楽しいんだろ…。
正直、茶番だと思う。

「…で、帰る?」
「帰るか。プラネタリウムだっつってんだろ」
「だから、クロ星とか興味ないじゃ……あ」

話ながらスマホのアプリを立ち上げていると、ひょいとそれが抜き取られた。

「今日はスマホ禁止」
「え、なんで」
「デートだから」

携帯をマナーにしてから、おれのパンツのポケットにすっと入れた。
意味わかんない。
…けど、クロが歩き出すから、仕方なくおれもついていく。
総合施設だから、色々なお店が入っている中にプラネタリウムの施設もあるのは知ってるけど、勿論行ったことはない。
妙に悪ノリが入っているクロは、予約していたらしいチケットをおれにくれた。
時間になってプラネタリウムに入る。
映画館みたい。
本当に、最後に見たのが小学生とかの時だったと思うから久し振りでそれはいいんだけど、映画館と似ているっていうことはどのみちプラネタリウムも好きになれそうにない。
ものそれ自体がイヤってわけじゃないんだけど…。

「…」

座った席の隣に、若い女の人が男の人と一緒に入ってきて座った。
それが何となくいやで、す…とクロの方へ少しずれる。
イスひとつひとつは肘掛けで分けられてはいるけど、直接距離がそこまで開くわけじゃない。
真隣に全然知らない人っていうのは落ち着かない。
通学電車くらいごっちゃだともうどうにでもなれと諦めるけど、それだってイヤホンが必要でゲームやってるから気が紛れて耐えられるって話だ。
映画館とか新幹線とか、きらい。
ましてプラネタリウムじゃイヤホンもできない。
前後左右に知らない人がいっぱいいる。
ざわざわする。
…すっと避けて何気なく置いた肘掛けで、クロの指とぶつかった。
パンフレットを見ていたクロが顔を上げる。

「何。手でも繋ぐか?」
「つながないよ」

外だよ。
笑うクロからも手を避けて、結局両手はぶらりと膝の上に垂らした。
気分が悪い。
周りが気になる。
どうして人間ってこんなにいるんだろう。
こんな狭いところに押し込められて知らない人と隣に座って、昼なのに部屋暗くして夜にして、授業でもないのに偽物の星空見て満足って……なんか変。
…ゲームやりたい。
ゲームやると周りとかあんまり気にしなくなるから好き。
ちょっとやろうかなとチラッと思ってポケットから携帯を取りだそうとした瞬間、

「ゲームやんなよ?」
「…」

隣から、パンフ見ながらクロがすぱっと言った。
…。
取りだそうとした携帯をそっと戻し、ずる…とイスに沈む。
けど、他人が座ってる側には近づかないようにクロ側に寄っておく。
早く終わって帰りたい。
開演のブザーが鳴った時も、そんな気持ちで聞いていた。

 

 

 

結果的にいえば、プラネタリウムはきれいだった。
けど、それだけ。
見ている間は割と楽しかったけど、終わって明かりが着くと周りの人達が一斉に立って出て行くから、これもまた映画館みたいで好きじゃない。
人気が随分無くなってほっとした終わりの頃にクロがようやく席を立って、それについて行く。
もう見たから帰るかと思ったら帰らなくて、その後もクロが雑貨を見たり男二人のお客さんは珍しいような気がするカフェに寄ったりおばさんに頼まれたお土産を買ったりしていたけど、おれは段々疲れてきて、いよいよ足を止めてクロのアウターの裾を握った。
クロが振り返る。

「クロ」
「あ? どした?」
「帰ろうよ」
「まだ早ェだろ」
「ざわざわしててうるさいし疲れる」
「俺がいんだろーが。もう少し我慢しとけ。次は――」

そう言って歩き出そうとするクロ。
けど、おれは歩かなかったので必然的に握ったままのクロのアウターだけがべろんと広がった。
おれが歩かないと気付いて、クロが一歩踏み出したところで振り返る。
少し面倒臭そうに振り返られるけど、だってほんとにもうここにいたくない。

「…」
「…何。そんなヤか」

不機嫌そうなクロの声。
クロが困るのはおれだってやだけど、おれだってもうやだ。
たぶんクロはますます機嫌が悪くなるんだろうけど、無理して一緒に付き合うのも何か違う気がするから、言いにくいけどクロを見上げて言う。

「クロと一緒にいるのはいいよ。…けど、ここじゃなくてもいいじゃん」
「…」
「その他大勢がそれで楽しいからって、おれとクロに絶対ハマるわけじゃないし。一緒にいて楽しいことなんて人それぞれで、おれはクロと部屋にいる方がいい」
「んじゃ何か。お前、俺と外には出たくねーって話か」
「そういうことじゃないけど、ここじゃなくてもいいでしょって話」
「デートっぽいのしたいんだっつってんだろ。付き合えよ」
「他人とか、いなくていいじゃん」

クロと外に遊びに出るのは別にいい。
けど、いい場所と悪い場所があると思う。
もっと人がいない場所がいい。
部屋がだめなら、河原で日向ぼっこでもいい。
学校近くのファミレスでもいいし、駅前くらいならいいけど、こんなざわざわして人が溢れているところにいても楽しくない。
何か、見える人達がたくさんいると、クロに視点が集まらないし落ち着かない。
クロの裾を掴んだままちらりと横を見る。
少し離れた所にタルト屋さんが見えた。

「あれ買って帰ろうよ。それで、家で食べれば。クロの好きな試合のDVD見ていいし。そっちの方がずっといいよ」

なんとかおれなりに伝えてみる……けど、クロは面白くない顔のまま。
それでも小さく息を吐いて肩を竦めた。
諦める時の仕草だ。
…爪先を、クロがタルト屋さんの方へ向けてくれる。
歩き出したクロにほっとして掴んでいた裾を離して、クロについていくことにした。
フルーツタルトを二つ買って、結局全然日が高いうちに帰ることにした。
それでも帰り道気まずい。

「…」
「…」

…まあいいや。
無理して一緒にいるのも変だし。
クロが怒るのはクロの自由だし。
クロは怒ってるけど、帰れることにほっとしながら後をついていった。

 

 

 

 

「オラ。お前のおうちですよー」
「…玄関からずっとおれの家だよ」

片腕でおれの首周りを掴まえながら、バターン、とおれの部屋のドアを開け、あからさまにクロが疲れたような声で言う。
そんな声されたって今更困る。
ぽいっと部屋の中に放られたので、よろよろとそのままベッドにあがった。
俯せに寝転がり、目を閉じてぐったりする。
頭の中に、まだ今日見て歩いてきた道とか景色とかのざわざわ感が残っていて、疲れる。
…けど、やっと部屋に戻ってきてほっとする。
息できる感じ。
はあ…と口で呼吸すると、長い間息止めて潜っていた水から出てきた感じがした。
クロがアウターを脱いで、ついでに上から引っ張るみたいにしておれのも脱がせて、一緒にハンガーにかけてくれた。
テーブルの上に買ってきたタルトの箱を置く。

「何飲む?」
「なんでもいい。…つかれた」

クロが一階へ下りていく。
飲み物はクロに任せて、そのまま顔を枕に埋めた。
…。
クロは、やっぱりいわゆる"デート"がしたかったみたいだけど……おれは無理。
知らない人と近距離で座るのもやだし、人が多いところも好きじゃない。
今日みたいなのだったら、バレーやってる方がずっといい。
けど…。
ぎゅっと枕の端を両手でそれぞれ握る。
人の好みなんてほんとそれぞれだと思うし、いくら幼馴染みだっていってもおれとクロだって違うことなんてたくさんある。
そんなの当然なのに、クロがそれが好きで、おれがそれに応えられないのが、何かちょっとショックかもしれない。
かといって、おれはおれの好みにウソはつけないし。

「…」
「そんな疲れたか?」

そのままじっと死んでると、いつの間にかクロが部屋に戻ってきた。
目線を枕からあげると、トレイの上にマグカップを二つ持ってきていて湯気が立ってた。
あとお皿とフォーク。
クロがそれらをテーブルの上に置いていく。

「紅茶にしてみましたー」
「…んー」
「DVD俺の好みでいいな」
「うん。…ねえ。ゲームもうやっていい?」
「おー」

もういいらしいので、携帯ゲームを始める。
ベッドに寝転がって聞き慣れたBGMを聞いていると、ようやく少しほっとした。
一度テレビの方に移動して、何故かおれのテレビ下のラック一角にあるクロの名試合DVDコレクションのところから一枚取り出すと、クロはそれをテレビ本体に入れていく。
テレビが読み取っている間にまた戻って来て、ベッドとテーブルの間といういつもの場所に座りながらリモコン片手に操作を始める。

「…おい」
「なに」
「どーせゲームやってんならココ来い」

片腕をベッドにかけながらクロが振り返り、もう片方の手で自分の膝を叩く。
元々クロの足の間に座るのはいやじゃないし、今日はデート止めてもらったから面倒臭いけどベッドから降りてそこに移動した。
タルトも紅茶もあるし。
クロの両脚の間に座って、クロに寄りかかってゲームする。
テレビからは映像が流れ始めて、都内で夏に予選あがったチームの見覚えある試合が流れている。

「そっち一口くれ」
「いいよ」

ちまちまフォーク差して食べていたおれのタルトを、クロが後ろから手を伸ばして一口取っていく。
そんないつもの感じ。
…。
…もうこれでいい。
もう一度、ふう…と静かに息を吐いた。
もうほんとこれでいい。
知らない人とか好きじゃない。
部屋の中でクロといるのが一番すき。
バレーの試合流れてて、おれはゲームやってて、甘過ぎない甘いお菓子があってちょっと熱いけど紅茶がある。

「…」

一旦ゲームから手を離して、マグカップを持つ。
そろそろ冷めてきたから飲めるようになっていて、わーわーしてるテレビをちらりと見ながらぬるくなった紅茶を一口飲んだ。
おいしい。
ぼーっとしていると、ぽすっとクロがおれの頭に手を置いた。
振り返ろうとする前に、背中と両膝の下に素早く片腕入れられて、少し持ち上げられるようにしてくるっと突然横向きにされる。
…紅茶が溢れそうになったけど、ぎりぎり溢れなかった。
相変わらず少しむすっとしたようなクロの顔を、様子を窺いながら見上げる。

「…。なに?」
「…なあ。最悪なこと言っていいか?」
「…」

「お前ワガママが過ぎる」とか言われるんだろうか。
別にわがままのつもりはなくて、単純に好みだと思うけど……けどまあ、クロには怒る権利があるのだろう。たぶん。
普通、好きな人と一緒にどこかに出かけるのは、嬉しいことらしい。
おれがちょっと変なのかもしれない。
クロはそれに巻き込まれているだけで…。
…手の中のマグに視線を落としながら、ちょっと覚悟して口を開く。

「いいよ。聞くよ、最悪なこと。…なに?」
「今日、やっぱ他人なんかいんねー、狭い場所で俺といる方がいーわー、クロだいすきー…って、再認識しただろ、お前」
「……え?」

さっきまで不機嫌そうだったのに、そう言った瞬間クロがにっと意地悪く笑った。
意地悪そうなのに、同時にすごく満足そうな顔。
クロの指先が、おれの鼻先をくすぐる。

「デートは為になりましたねえ、研磨クン?」

…。
ああ…。
そういうことか。
おれはもうぐったりして、クロの胸に寄りかかった。
一気に、クロの機嫌がいつものに戻った。
寧ろいい方。
今まで隠してて悪いフリしてたんだって、ようやく分かる。

「…デートの使い道間違ってる」
「そうか? あながち間違ってねーだろ。相手と一緒にいて楽しーわーってのが分かるのがデートなんじゃね?」
「…」
「焦った?」
「別に。焦ってないけど、クロが本気でああいう場所でたくさんデートしたいなら困るなと思った」
「俺は平気だが、お前がヤなんだろ」
「まあ…」
「他人はイリマセン、俺と二人でいたいとか。にやけそうになったわ、ガチで。かーわいー」
「やめてよ」

クロがおれの手から紅茶を取り上げてテーブルに置いた後で抱きついてくる。
頬に片手を添えて頬ずりしたり頭撫でたりぐちゃぐちゃにされれ、げんなりした。

「…クロめんどくさい」
「俺もそう思う。…んでもやっぱ、俺が好きなんだろ? 知ってる」
「きらいになりそうだよ…」

そう言ってもクロは笑う。
今日は本当につかれた。
他の人とかいらない。
やっぱり、部屋でこうやってるのが一番好きかもしれない。
クロの傍にいて、部屋は静かでゲームがある。
余計なものはいらない。

「疲れさせて悪かったな。マッサージしてやろうか?」
「いらないよ」

太股のとこ撫でながらわざと言ってくるクロの手をぽいと退かせる。
だって今日はやらない雰囲気。
何かそういうのじゃない。
だから首を伸ばして、クロの頬にちょっとキスしたら、クロも上からおれの耳にキスし返してきた。
くすぐったくて気持ちいい。
目を閉じて鼻先をクロの首のとこに添える。

「次の休みはどこも行かないからね」
「ヘイヘイ。俺と部屋でイチャイチャして過ごす?」
「デートよりはそっちの方がいい」
「いいねえ。素直なコにはイチゴやる」

おれの口に、ぐっと笑いながらクロがタルトに乗ってたイチゴを入れてくる。
少し齧ったところでクロがキスしてきたから、咥えていたイチゴは半分クロに持っていかれた。



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あの外見で甘え気味の中二ってところがクロさんのギャップですよね。
めんどくさいけどそこが可愛い。
たぶん研磨君にだけだし…やっぱり可愛い人だと思います。
2016.4.23





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