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ここのところ、部活が楽しくて仕方ない。
直前の合宿がハードだったけどメチャ楽しくて気合い入りすぎて、帰ってきて数日の部活のテンションがヤバかった。
何かやっぱ気になる選手ってのが一人一人いるらしくて、自分のそれが誰だか教えあったり、「あの人がこーゆーのやってた!」とか「こーゆーボールをこーやって止めてた!」とか、話し始めると止まらない。
しかも、やっぱ見てるとウチの先輩たちとか超スゲーっス。
レシーブ強化練習とか、ビシビシ届くかぁ!ってトコにワザとボール放られたりを連続でやられると、夜久さん可愛い顔してマジ鬼!とか思ったし、クロさんとかも十球に一球はワザと顔面狙ってスパイクしたりとかしてきてブロック練習死ぬ気でやったりとかしてヘトヘトだったけど、試合中の先輩達は目付きが違うし雰囲気も違うし、一球一球を逃さない。
同じコート内にいると見惚れてる余裕は無いっスけど、ベンチからだと思わず口開けてぼーっと惹き込まれてしまう。
俺、やっぱエースになりたい!
今はコート入れたり入れなかったりだけど、先輩たちの中にナチュラルに混ざりたいっス!
"俺たちは血液だ"…とかっ!
ちょーカッコよくないっスか、何スかそれ俺も早く円陣に混ざってもっと言いたい!
合宿中は"ここは勝つぞ"というギリギリの一線になりそうな試合の時だけ、円陣組んで拳合わせたんスけど、ハンパなく血が滾ってヤバかったっス。
精神持ってかれてスゲーその気になったりして。
…それに、何と言ってもやっぱり研磨さん!
合宿中は寝泊まりするっすから、いつもは見れない先輩らの日常生活が相当見られた!

「じゃーん!寝顔!寝顔激写っスよ~!」
「わー。研磨さんだー」
「ホントだ。いつ撮ったの?」

我慢できずに結局自慢する。
合宿中、暗視&無音カメラで連写した研磨さんの寝顔の画像を犬岡と芝山に見せる。

「研磨さん、いつも先に寝てるもんな」
「すごく小さくなって寝るよね。背中丸めて大体布団の端っこ握って口のとこに持ってきててさ」
「そーなんだよ、そーなんだよな!」

やっぱみんな見てるもんらしい。
芝山の言う研磨さんの寝方はそのまんまで、寝る時は仰向けなのに、気付くといっつもかわいーく小さくなって寝てるんだ、あの人。
俺たちの会話を聞いていた猛虎さんが、少し離れた所で呆れた顔をした。
その隣で、招平さんも無言のまま興味深そうにこっちを見ていた。

「つーかお前、研磨の寝顔なんて撮ってどーすんだよ?」
「え? 抜きます」
「「エッ!?」」
「ハァッ!?」

犬岡と芝山がビックリした顔で俺を見て、猛虎さんはドン引きした。
…え、何で?
変スか?
猛虎さんが青筋立てて俺を見る。

「おま…。研磨で抜けんの?」
「え、抜けますよ。カワイーじゃないっスか、研磨さん。染まってない感じが」
「そうかぁ? アイツほど現代の病みっ子っぽい奴いねーと思うが。…つーかお前、野郎範囲内か!」
「あ、大丈夫っスよ。猛虎さんは俺が無理っス」

冗談っぽくはあったが、微妙にさっと俺に向かって構えた猛虎さんに、空かさず言っておく。
猛虎さんはカッケーっスけど、無理っスね。
性的な好みじゃないっス。さーせん。
確かに俺は昔から人を"いいな"って思う上で性別は個性の一つって感じで、同性だからを理由にアウトの基準にはならない。
んなこと言いだしたら、無条件で絶対数が二分の一だ。大損過ぎる。
…とはいえ、やっぱりキュンッとくるのは女子が多かったが。
研磨さんは珍しくドストライクっスからね。
基本クールで愛想無いけど、行動自体はスゲー的確だし無駄無いししかも可愛いし、自分勝手そうでも意外と人に気ぃ使ってるみたいだし。
あれは、何て言うか他人が苦手というよりも"他人に嫌な思いをさせるのも嫌に思われるのも苦手だから逃げとけ"みたいな感じっスよ。
んで、気ぃ許してもらって突き詰めればクロさん対応みたいになるわけっスよね?
挑み甲斐もあるってもんでしょ。
あんなドンピシャな先輩がいるとは思わなかった。
超可愛い。
膝に乗って寝て欲しい。
思う存分べたべたしたい。

「んー…。やっぱ女子にヤられることのが多いっスけど、野郎でもいけるなって時はありますかね。あんま性別で考えたこと無いっスけど…研磨さんは平気っスね。可愛いっス。抱いて寝たいっス、あのサイズ」
「サイズ…」
「ああ、身長的な意味かよ…。まあ、確かにフィット感あるけどな。こー…後ろから捕まえる時とか、頭んトコ顎乗せるのにピッタリだしな。なぁ、招平?」

猛虎さんが研磨さんを廊下か何処かで捕まえる時のモーションをその場でし、最後に隣にいた招平さんに同意を求める。
今まで黙って傍観していた招平さんが、こくりと一度頷いた。
うわもぅそれ羨まし過ぎっス。
猛虎さんたちの話を聞いて、犬岡もうーん…と思い出すように顎を上げた。

「あー。確かに、抱きつくにはピッタリかも…」
「だろ? んで、芝山までいくとちょっと小さすぎて腰痛くなるんだよな~」
「そのうち大きくなるんですー!」

芝山に笑いかけると、むっとした顔で言い返してくる。
うんうん。
芝山もきっともう少ししたら可愛くなるかもしれない。是非頑張って欲しい。
因みに、夜久さんの寝顔は撮れなかった。
三年組は何だかんだで忙しいみたいで、俺らの方が先に寝てたからだ。
翔陽のもできれば撮りたかったんスけど、寝る場所違うんじゃそれも無理だし、流石に夜に忍び込もうとまでは思わない。

「寝顔撮るの面白いっスよね~。プチコレクション」
「リエーフ、悪趣味ー」
「けど、先輩で抜くとか考えたことなかった。やっぱ男だし。できるものなの?」
「案外出来るモンっスよ。人間、誰だって可愛いとこの一つ二つあるじゃん? 今時、男女なんてカンケーないっしょ。昭和かって話」
「つーかそれ、マジで研磨で抜いてんのか? サイズだけで、妄想は女子になってね?」
「してないっスよ~!」

失礼なこと言う猛虎さんの言葉に、むっとする。
ちゃーんと研磨さんでオナってます。
そんな会話をしながらみんなで部室を出て体育館へ行こうとして開けたドアの先に――。

「あ…」
「あ?」
「…?」

クロさんと研磨さんがいた。
今来たばっかりっぽいが…。
さっきの会話が会話のせいか、俺でも分かるくらい、みんなの視線がザッと研磨さんに向いた。
例えばこれが、俺ら全員知らない奴とかだったりしたら、きっと注目されるのが嫌いな研磨さんはすぐにクロさんの影に隠れるんだろうけど、同じ部員の俺らには流石にそこまで警戒はされない。
自分に集まった視線に気付いたのか、研磨さんが不思議そうに少し瞬き、同じく俺たちの視線に気付いたクロさんが、そんな研磨さんを一瞥してから再度俺たちの方を向く。

「何だお前ら。研磨がどうかしたか?」
「え、いや…!別にっ」

クロさんに聞かれ、猛虎さんが一瞬ぎくっとしながらもぶんぶん片手を振る。
他のみんなも、こくこくとそれに同意した。
…そんな慌てなくてもいんじゃないっスかね?
俺だけが普通だったのを冷静に見ていたのか、研磨さんが上目に俺を見た。
…つーか、俺くらいの身長からすると研磨さんとかいつも上目遣いっスから。
常にいい角度ですから。
近距離に立って見上げられるともう最高。

「…。なにかついてる?」
「…!」

そう言って、手のひら半分指定セーターで隠れた片手を、無表情にぺそ…と自分の頬に添える。
心臓が暴れ出すその仕草。
…やばい、駄目だ。
キュン死する。
可愛い。
へにゃへにゃ緩みそうな顔を何とか耐えて…みるけど、声が黄色くなる。

「何もついて無いっス!」
「…。クロ、なにかついてる?」

あ、信用ない…!
クロさんに聞き直す研磨さんに軽くショック。
研磨さんに聞かれ、クロさんがその顔を覗き込むように少し背中を屈める。
片手で、目元が陰っている研磨さんの前髪を軽く一度掻き上げた。

「んー? …いや? 別に何もねーよ?」
「…じゃあいい」
「でも今、なーんか一斉に研磨見たよなァ?」

屈めていた背筋を直し、探るようににやりと笑うクロさんに、その場にいた全員に緊張が走る。
けど、違和感を持つ長さの沈黙になる前に、猛虎さんがスチャ!と片手を上げた。

「気のせいっスよ。…んじゃ、俺ら先行ってまーす!」

その言葉を合図に、会釈と挨拶をそれぞれして部室を後にする。
体育館に向かって足早に移動しながら、猛虎さんが俺を叩いた。

「テメーのせいでクロさんに怪しまれただろーが!」
「ええー!俺のせいっスかぁ!?」
「研磨で抜いてるとかバレたら、お前クロさんにボコられるぞ。研磨の兄貴分なんだからな」

真顔で言う猛虎さん。
おお…。そこそーゆー認識なんスか。
見た目に反してぴゅあぴゅあっスね、猛虎さんて。
ちょっと感動する。
一歩間違ったら猛虎さんも可愛いかもしれない。
俺より身長下だし。
芝山や犬岡も、歩きながら溜息を吐いていた。

「あせったー。今、ちょっと怖かったよね、主将。笑ってたけど」
「そだな。…うーん、でもちょっと面白そうかも。なあなあ、俺たちは研磨さんで抜けると思うか?」
「えー。無理だよー。僕からすると可愛いていうより"カッコイイ"だからなー。ポジションも同じだし、憧れっていうか…」
「そっかぁ…。俺はちょっと分かるかも。リエーフの言う"可愛い"って」
「研磨さんは可愛いんだって!仕草がもー猫系過ぎる!可愛い!飼いたい!」
「えー。カッコイイだよー」
「芝山は背ぇ低いから分かんないんだ!あの上目でやる気無くお願いされたり擦り寄って来られたらそんな気なくても落ちるんっスよ!」
「リエーフひどぉい!背ぇ低くて悪かったね!!」
「んなこと言いだしたらウチの部員どんだけ研磨に落ちてんだよ…。平均身長考えろ。背ぇ高くても誰も落ちねーって。研磨の上目とか見慣れたし。なあ、招平?」

猛虎さんの言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、ゴホン…と招平さんが咳をする。
ちょっと珍しい。
…にしても、あーあ。
みなさんまだまだっスね。
あんな可愛い人の魅力に気付かず放置なんて、人生の二割ほど損してるっス。
…けど、誰にも渡さないっスよ!

「研磨さんは、そのうち俺が必ず落としてみせるんス」
「えー。無理だと思うなぁ…」
「幼馴染みなんだってよ。主将と研磨さん」
「知ってる。だからクロさんがいなくなってからが勝負だ!」
「ばっ…!テメ、リエーフ!止めろクるだろ!!」
「うわわっ、泣かないで猛虎さん…!」


未熟王の趣味と決意




「研磨さーん!さーせーん。よかったらサーブ見てく…」
「おい、リエーフ。お前レシーブ弱ェんだからコートん中入って夜久と拾う練習してろ」

サーブ練習中、チャンス!…と思って声をかけようとするところを、またクロさんにさり気なく邪魔される。
しょんぼりしながら、ぼとぼとボールが飛び交うコートの中に入っていくと、サーブの時間は常にコートの中で拾う練習している夜久さんが、半眼で俺を迎える。

「…つーかお前はいい加減懲りろ」
「じゃあ夜久さんが俺の恋人になってくれたら諦めるっス」
「…」

ぷいとそっぽを向いて練習に戻る夜久さん。
苦笑して、俺も足を開くと前屈みになって構えた。

 

ここはすごくいい場所だ。
あったかくてぽわぽわする。
新しい仲間はみんな俺より身長低くて可愛くて…。
だからこそ、一番タッパある俺がエースにならなきゃいけない。
スポーツは大概そうだけど、背が高いって有利でしょ。
それなら、主砲は俺だ。
俺がさっさと巧くなんなきゃ。
そうじゃなきゃおかしい。
先輩とか後輩とか関係ない。
仲間は守る。
敵は倒す。
シンプルだ。
だって、俺のいるこのチームが、絶対一番いい群だ。
このチームが一番スゲーってこと、証明しなきゃ、悔しいじゃん。
だから――。

「カンッッッペキに、守って攻めて攻めまくってやるっス!! …さ、来ーいっ!」
「お前なぁ…」
「リエーフ、うるせえ!!」

隣にいた夜久さんが呆れ顔で小指で俺側の耳を塞ぐ。
突然叫んだ俺に、反対コートにいた猛虎さんが早速こっち狙って弾丸サーブを打った。
膝折って、腕でアンダーつくって構える。

どぐっ…!と重いボールは、それでも何とか腕に当たり、目の前のネット下にあがっていった。



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リエーフくんは後半絶対化けてくる。
音駒は全て研磨君の為に尽くすのですよ。
早くさらさら血液になれるといいですね。
2014.11.12





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