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「――ちょっと待って!赤葦いなくね!?」

放課後の体育館。
気付いてしまった俺は、バレーボール両手で止めていよいよ言ってみた。
実のところ練習開始十分前くらいから気付いてはいたが(さすが俺)、日頃時間に律儀な後輩のたまのちょっとした遅刻くらい許してやろうとか寛大な心で思ってみたワケだ。
だがだがっ、三十分の遅刻は流石に!
そろそろダメだろ!
何かあったんじゃね!?
向かい合ってアップ半分の基礎の対面していた木葉が、急にパス止めした俺を面倒臭そうな顔で見る。相変わらず人相が悪い。

「馬鹿木兎。止めてんじゃねーよ」
「なー。赤葦いねーって今日」
「二者面談だろ? 今日から随時やってくじゃん」
「そーそ~。部室に誰が何日どこ抜けるって貼ってあったぞ~」
「てゆーかお前、今更赤葦いねーの気付いた? おっそ」
「ちっがーう!!気付いてたしっ!練習前から!」

左右で同じメニューやってる猿杙たちがパスしたりバシバシボール打ち合いしながら会話に参加してくる。
気付いてたかんね俺!
ソコ重要!
…が、部室に貼ってあったとかゆーのは見てねえ。
てゆーか連絡ボードとかまず見てない。
バシッ…!と片腕でボールを床に打ちつけながら、何となく体育館の出入り口の方へ視線を投げる。

「んじゃー今日来ねーの?」
「来るだろ。遅れてるだけだって。今日の三番目とか言ってたか? いーからやれ。ホラ」
「"アカアシ"じゃ、名前順だと最初の方だもんな~」
「木兎はまだ先だろ?」
「ウン」
「ウンじゃねーよ!早くヤレっつーの!!手ェ動かせ、手ェ!」
「う~ん…」

木葉にせっつかれ、ぽーんとボールを放る。
再びメニューを始めつつも、もやもやとした感じが体の中に煙みたいに広がる。
…つーか赤葦来ないとスパ練がつまんねーんだけど。
そりゃ、あげるだけなら誰だってできんだけどなー。
やっぱアイツじゃねーと的なもんがあるのよ、俺的に。
違いの分かる男だから!
腕の柔軟にバシバシ軽く打ち合いながら、木葉に聞いてみる。

「スパ練までには来る?」
「知んねーよ。来んじゃね?」
「まあ、でも大概長引くよな。この手の類は」
「ね~。いーじゃん。たまにはゆっくりさせたげれば。いつも子守で忙しーからさ~」
「えっ、何何!赤葦子守してんの!? 誰のコ!?」
「集中しろォッ!!」
「ンギャア!?」

急に木葉がガチで打ってきたんで、反射的にさっと膝を曲げ腰を落としてアンダーで構える。
バシッ…!と完璧に受けれたボールは孤を描いて高く上がった。

 

 

 

そんなこんなで色々やって、結局スパイク練習の時間になってしまう。
そして赤葦はまだ来ない。
遅…。
バラバラと打ち側と受け側に分けてネットの左右に移動するが、そんな移動もたるい…。

「…なー。赤葦こねーけどー」
「うっせーなお前は…」
「ほら、木兎。しんなりしないの~」
「むー…」

勢いよく背中を叩かれるけど、やっぱちょっとやる気出ねーし。
…つーか、そもそも本番の試合じゃ赤葦のトスなワケだし、結局アイツいねーとスパイク練習とか効率半分じゃね?意味なくね?
一応並んでやってみるけど、別の奴が上げたボールじゃいまいちノりきれない。
打つ度にやる気が削がれていくカンジ。
だってなんか、全然違うし…。
いつもだとあがったボールに"今打て!"みたいな目に見えないタイミングみたいなのが見えるけど、別の奴があげると全然そーゆーのなくて俺がタイミング取って打たなきゃいけない気がする。
そりゃ、決まるは決まるけど、なんかもやっとする。
…。

「ウガーッ!!」

三球程打ったところでうずうずが堪って、着地したネット傍で思わず天井に吠えた。
びくっとする一年二年を気にせず、くるりと振り返ると猿杙たちが何故か半眼でこっちを見てた。
何か木葉とかは溜息吐いてるし!
分かる!俺も吐きたい気分!

「木兎、うるせえ」
「つーか遅ォォい!サボってんじゃねーの!?」
「はあ? サボるって、赤葦がか?」
「ねーわ」
「ないでショ」
「いや!絶対サボってる!!」
「…あそこまでやらせといて信用ねーとか」

断言する俺に、小見が遠い目をして言う。
何かもうみんなそんなカンジだけどいいのかそれで!後輩がサボっているというのに!!
びしっと連中に人差し指を突き付けた。

「後輩がサボってたら注意してやんのがパイセンってモンでしょー!」
「いやだから…サボってねーから、赤葦」
「絶対、単純に遅れてるんだって。100%ソレ」
「あ~…。んじゃもー交換する? 木兎落ち着かないし、メニュー前後させて~、スパ練は赤葦が帰ってきたらってことで…」
「見てくる!」
「「はあ!?」」

タッ…と駆け出し、体育館を飛び出す。
校舎なんてすぐそこじゃん。
この俺様の練習予定を狂わせるなんざ百年早い!
面談なんかしゃしゃ~!っとやっちまえばいいのに、何チンタラやってんだか!
カンカンッ…!と渡り廊下の板を鳴らせて、二年の教室へ向かった。

1.5ミリは厚すぎる




階段駆け上がったところで一応ダッシュは止めとく。
だが大股で足早にツカツカ二年の廊下を歩けば、確かに教室は殆どドアが閉まっていたが、開いてる教室もあるらしい。
通り際、ちらりとガラス窓から中を覗けばドアが閉まってるトコは勿論二者面談やってるが、開いてるトコは大概生徒が一人二人待ってる感じだ。
ぽつぽつ教室前の廊下にイスが出されてて、次の奴が待ってたり待ってなかったり…。
…てゆーか、

「六組遠っ!」

三組を過ぎた当たりで一人毒づく。
赤葦のクラスは六組で、廊下の一番端っこ。
学年違うから階の上下は仕方ないとしても、何かこーもちょっとクラス近けりゃ…例えば、階段降りてすぐ赤葦のクラスとかなら便利なのに、一組の俺のクラスから二年六組はメチャクチャ遠い気がして日中は行く気にもならない。
…つーか何で対象角だし!
体育館から来た今だって、六組は向こうの方で無駄に疲れる。

「一とか二組になれよー、一とか二組にぃ~」

ぶちぶち言いながら歩いていると六組の教室が見えてきた。
ドアは開いてる…ってことは、ここのクラスは教室が面談場所じゃないんだろー。
…ってことは、中には次の奴とかが待ってんのかも。
赤葦の名前呼びながらすぐ入ろうかと思ったが、万一別の奴がいても困る。
最初に覗いとこー。

「…」

ひょいっとドアのガラス窓から中を見ると、後ろの方の窓際に人影一人。
あの退屈そうにテンション低く頬杖着いてる感じは見間違いようが無い!
まだ制服のままだ。
待ち時間あんなら一度部室に着て着替えときゃいーのに。
机に座ってぼーっと何かを書いてるらしい赤葦へ、ビシッと人差し指を突き付けて飛び出す。

「赤葦見ぃーっけ!」
「…!」

俺の声で、ぱっと顔を上げた顔が一瞬だけ驚く。
ぱち…と目をいつもより少し開いて瞬かせるのはホント一秒にも充たない一瞬で、すぐにいつもの顔だけど!
他の奴は誰もいなそうだし、そのまま二年の教室に入り込む。
赤葦は頬杖を止めて腕を机の上に下ろした。

「何だよー。まだ面談じゃねーの?」
「木兎さん…。どうしたんですか」
「お前が遅いからさー…って…」

赤葦が座ってる前の席のイスを勝手に借りようとイスの背に手を置くと、赤葦の机の上に広げられているノートだとか教科書だとかに目が行った。
…英語だ。
オレ、キライ…。
一気に気力が削がれたみたいにしゅんとなる。
英文とか見てるだけで無理…。
赤葦と向かい合うようにして前のイスに座ってみる。
二年の教科書なのは分かってんだけど、それでもニガテなもんはニガテでぱっと分からん。

「何でお前勉強してんの?」
「前の奴がちょっとクセある奴で、長引いてるんです。待ち時間勿体ないんで、明日の予習でもしようかと」
「ヨシュウ…!」

聞き慣れない言葉を普通に使ってる赤葦に感動する。
教科書とノートとペンに電子辞書…。
おお…っ。
空いた時間があっても俺絶対予習なんかしないわ。
確かに、よさげに見えなくもないっ。
…だが!

「勉強する暇があったら部活来なさーい!」
「いや、そこまでの時間は無いんで。…すぐ呼ばれますよ。面談のことはちゃんと予定あげましたし。終わったらすぐに行きますから」
「スパイク練習できねーの!赤葦いねーと!」
「先輩方があげてくれるでしょう」
「だって実戦じゃ結局お前じゃん!他の奴の慣れても意味ナッシン!」
「…ノート叩かないでもらえると」
「はっ…!」

いつの間にかバシバシ叩いていた目の前のノートが少しぐしゃっとなってしまった。
慌てて両手でシワを伸ばしてみる。
めっちゃ細かくて現国のセンセーみてーな赤葦の字が途中まで埋まっている。

「…。木兎さんはサボってていいんですか?」
「俺? 俺サボってねーよ。お前迎えに来ただけだから。お前引っ張ってかねーと」
「それはどうでしょう…。呼ばれたら呼ばれたで俺でも五分十分かかると思いますけど」
「え、んじゃー赤葦呼ばれたら戻る」
「…何しに来たんですか?」

ふう…と赤葦が息を吐いて、片手の指で目元を押さえて窓の方を向いた。
目が疲れてます的なその行動を見て、ノートのシワ伸ばし止めて思わず首を傾げる。

「あれ? お前目ェ悪いんだっけ?」
「ああ…いえ。ただ、最近妙に疲れる気がして…。今のとこ俺も裸眼なんですけど」
「マジで!? 目ェ悪いとボール取れにくくなるんじゃね?」
「そんなに差は出ないでしょう。最悪、眼鏡とかコンタクトでもいいですし。…木兎さんお気に入りの烏野のMBは、一人眼鏡かけてるじゃないですか」
「おー。眼鏡くんなー」

頭の中でぼわんと背の高い烏野のMBを思い出す。
ツッキーだろ、ツッキー。
名前なんだっけ。月山だか月島だかの。
まだひょろいけどタッパあるしセンスいいし、一緒にやってて楽しい。
でも生意気!
ブロック巧い奴いるとスパイク決まんないから相手チームにそういう奴いると苛っとするけど、そういうブロックを何とかして打ち抜いた瞬間が"ウオオオオ!"ってなるから、そこそこ巧くなっても眼鏡くんなら許す!
確かにスポーツレンズかけてやってる奴とかちらちら見かけるけど、俺自分でアレかけたくねーわ。
邪魔そう。
絶対集中できない。
あとコンタクトもヤだ。
目にモノ入れるとかコワイ!

「ふ~ん…」

座っているイスの背に両腕をかけ、背中を丸めてそこに顎を乗せる。
本当に邪魔じゃないのかね。
俺が目悪くねーからそう思うのかもだけど、やっぱ間にレンズってゆー異物がある分、裸眼よりはちょっとだけ損な気がする。
耳にかかってるビミョーな重さとか、曇っちゃったりとか、なんかそんなん色々。

「…」
「…」

…赤葦に眼鏡かー。
まあ眼鏡って言っても色々あるけど、あんま似合わなそーだな。
それっぽいけど実は似合わなそー。
じーっと凝視してると、赤葦が軽く肩を落とした。

「何ですか」
「赤葦眼鏡かけんの?」
「悪くなったらかけるかもしれませんって話です」
「眼鏡ってさ、厚さどんくらい?」
「レンズですか? …さあ、詳しくは。けど、レンズ中央は1ミリとか1.5とかで薄いらしいですよ。端と中央で薄さが違うとか聞いたことあります」

勿論モノによって色々変えるんでしょうけど…なんて、大した興味なさげな本人。
丸めていた背中を少しだけ浮かせて、さっきの赤葦みたいに机に片肘付けて、今度は俺が頬杖を着く。
眼鏡かー…。
うーん…。
…眼鏡ねー。

「…よしっ。赤葦、眼鏡禁止!似合わなそうだから!」
「今禁止令出されても困ります。悪くなったらって話です。買うんだったらそこそこ似合うものを探しますし。…コンタクトにしろってことですか?」
「コンタクトも禁止!」
「…」

コンタクト禁止令も出すと、赤葦が何とも言えない顔で俺を見る。

「よく分かりませんけど…。かけた方が見えるんだったら、そうした方がいいでしょう。ミスが減らせます」
「けどよー、俺と赤葦の間にモノが増えるワケだろ? 邪魔なモンが。こー、向かい合った時にサ」

反対側の指を立てて、俺と赤葦を交互に指差す。
机イッコはさんでるが、腕を真っ直ぐ伸ばせばもう余裕で指先で目玉ぶっ刺せるような、そんな近距離。
ここに俺がいて俺の目があって、そっちに赤葦がいて赤葦の目ン玉がある。
せっかく間に何もないのに、この空間に何か入ってくんのは、スゲー邪魔な気がする。

「1.5ミリでも、何かヤじゃね? 邪魔くせーじゃん」
「…」
「…お?」

いつもスパスパ返してくる赤葦の返事が遅くて違和感。
じっと間にある俺の指先を見てぼーっとするんで、これが気になるのか?と、ちょいちょいと指の先を折って動かしてみたら喜ぶんかなとか思って試したが、試したのとほぼ同時に、急に興味失ったみたいに顔を上げてふいと俺を見た。

「…。木兎さん」
「おう!」
「肘、ノートの上に置かないでもらっていいですか。余計に寄れてしまうので」
「ぅおおおお!? 先に言って!?」

バッ…!と置いていた肘を浮かせる。
無意識に置いた肘はさっきくしゃくしゃにしたノートの上だったらしく、伸ばした俺の苦労が水の泡に…!
再び撫で撫でしてみるものの、そこそこキレーだった赤葦のノートの上の方は軽く切れ目が入って微妙にくしゃってる!

「おおお…。スマン…」
「まあ、別に構いませんが。所詮ノートですし、内容が分かればそれで…」


「おい、赤葦!次――…」


俺らが話してると、前に面談やったらしい赤葦のクラスメイトがドアの方から声をかけてきた。
…が!上級生たるこの俺がいたからか、最後まで言い終わらずに打ち止め。
俺の顔を見て、一瞬おろっとうろたえる。
今は学年が分かるもんを付けてはいないが、きっと溢れ出る上級生オーラに気付いたのだろうっ。
ふはははっ。敬え、後輩!
キリッとした顔をしていると、赤葦がまた軽く息を吐いてそいつの方を見た。
軽く赤葦に挨拶だけして、そいつはそのまま教室を出て行く。
寄れたノートは仕方ないということで、シワを伸ばすようにそのままパタリと閉じられ、教科書や辞書も閉じて机の端にまとめて置くと、赤葦はゆっくり立ち上がった。

「…じゃあ、俺行ってきます」
「ほいよ。行ってら~」
「木兎さんも戻った方がいいですよ。流石にそろそろ怒られると思います」
「え、何で?」

赤葦が席を立ったんで、俺も立つ。
怒られねーと思うけどそろそろ戻りたい気もする。退屈だし。
赤葦サボってねーし、それが分かればいいわ。
連中に"サボってなかった"って教えてやんねーと。
そろって教室から出たとこで、左右に分かれる。
なんでも赤葦のクラスは端っこだから、廊下をもちょっと進んだ先の用具準備室という名の空き教室でやってるらしい。

「長そう?」
「いえ。そこまで問題は無いと思うので、スムーズに行けば進路確認だけして終わりかと」
「早く帰って来て!そんで俺にトスあげて!」
「ああ…。ハイ」
「んじゃ、先行ってんぞー」

片手を軽くあげて、元来た廊下をてくてく満足して歩いてく。
あと五分十分で赤葦来るなら、ちょっとだけやる気が出るってもんだ。
赤葦いねーと楽しさ三分の一マイナスって感じだし、損してる気がする。
やっぱバレーは楽しくないとな!

 

 

 

再び距離のある体育館へ戻って赤葦がサボってなかったこと報告してやったのに、何故か連中にボコボコに背中とか頭とか叩かれた!
何で!?

「あーもー!お前はああっ、ホンットにぃいいっ!」
「早く並べ!テメェがサボってんじゃねーかよ!」
「イタイイタイイタイよー!? え、つーか何でまだお前らスパイクやってんの!?」
「テメェがいねーとそれこそスパ練の意味ねーだろ!リベロだとか守備側も練習半減だろ!」
「そーなの。結局、木兎のスパイク取るのが一番練習になるからなー」
「練習メニュー前後させたんだよ~。ハイ、行って行って~」
「赤葦来たらまたやらせてやっから、とにかく今は入ろーぜー」

ギリギリと木葉に後ろから首を絞められてたが、猿杙がやんわり離してくれて背中を押される。
体育館出た時にやってたメニューを再び続きから始めることになってるらしい。
ボールいっこカゴから持ってネットの下くぐって向こう側に出て助走開始する辺りに向かうと、同じく持ってたボールで壁打ちしてた鷲尾がそれを止めてこっち見た。

「赤葦、サボってたか?」
「うんにゃ。サボってなかった!教室で待ってたっつーか寧ろ勉強してた!」
「だろうな」
「偉いなー」

先に並んでた尾長が笑ってネット前に立ってる奴にボールを投げる。
ぽーん…と孤を描いた取りやすいボールが、セッターによって再びネット前にあげられ、助走つけた尾長がスパイクを決めたり向こうコートにいる小見っちに取られたりする。
俺の前にいる鷲尾もそんなん。
…うーん。やっぱみんな微妙に打ちづらそうなんだよなー。
傍目うまく行ってるかもしんねーけど、手元にボール来た瞬間、全然違う。
ボールに指示が無いっつーか…俺のためのボールじゃないっつーか…。
"いつもと違う"のは、結構ストレス。
打ち終わった鷲尾が、腕をぐるりと回しながら反転する。

「お前の言ってることも分かるが…。赤葦以外も慣れとけよ」
「そーそー」
「えー…」
「赤葦が風邪引いたらどうするんだ、お前」
「え? フツーに試合に出てあげてもらう」
「阿呆。出てこれねーくらいの高熱ってこと。…あとは、ケガとか。捻挫とか突き指とか」
「あげてもらう」
「鬼がいるよ!?」

当然っしょと答えたのに、尾長が突っ込んでくる。
え、駄目デスカ?
いつもはクールな鷲尾までちょっと呆れ気味でこっち見るし。

「いや、安静にしてもらえってそこは」
「えー…」

まあ、そーなんだろーけどさー。
そりゃ、マジで病気とかケガしたとかならアレだけど、だって赤葦いんのにさ。
いないっぽくするのとか変じゃね?
何か違う気がすんのよ、ソレ。
鷲尾たちと同じようにセッターにボールをあげようとした直前、ガラッ…!と体育館のドアが開いた。
音に引かれて、一斉にみんなそっちを見る。
俺もそっち見て入ってきた顔見て、ぴくっと背筋が伸びる。

「おっ」
「面談終わりました。お時間ありがとうございます」
「キタキターっ!!」

肩にバッグ下げた制服姿のまま、赤葦が体育館へやってきた。
体育館入り口で、いつものように入ってくる前に一礼。
おお~!ようやく!
そのまま端にいたマネのとこ行って、何か話してる。
たぶん終わったことの報告みたいなの。
ぶんぶん腕を振るい、セッターが立つ位置を示す。

「赤葦おせー!ハイッ、ハイッ俺にあげる!!」
「って、いきなりだなオイ!」
「せめて着替えさせたげて!?」
「そーだよ木兎~。何もいきなり…」
「ヘーイ、赤葦~。パース!」
「「聞けよッ!!」」

「…」

かるーいアンダーサーブで、早速ぽーん…とコートの横にいる離れた赤葦にボールを送る。
マネと話してた赤葦がちらっとそれを見て、丁度バッグを肩から外してたとこだったし、すぐに顎を上げて両腕もあげた。
取りやすさ全開の、たかーく孤を描くボール。
それが天井までいって、落下始めると同時くらいに、俺の方も床踏んで腕後ろに開いて助走に入った。
赤葦が落ちてきたボールの下に入って、ト…と音にもならないような軽い仕草で床を蹴り、ボールへオーバーで触れる。
途端、そのボールが、見た目のゆっくりさとかそれまでの緩やかさを裏切る速攻みたいな速さで俺の踏み込んでたネット上に、ビュッ!っと届いた。
ネットスレスレを、ネット上の白ラインに添うようにしてほぼ真横に飛ぶ高速トス。
…で、俺が踏み込んで跳んで振り下ろした腕の先に来るボール!
指が触れる前に分かる。
直感。
ぞく…っと、悪寒だか快感だか何だかが爪先から頭の先まで疾走する。
――ド ン ピ シャ!!

「…ッ!!」

―ッ――バンッ…!!

 

大音量で向こう側に決まったスパイクは、構えていた小見も反応できない大砲になって床を打つ。
そのまま勢い任せに吹っ飛び、ワンバンっぽくない速度と威力で向こうの壁にブチ当たった。
…っ。

「ふ…ぉぉおおおおお~っ!!」

打った瞬間から感動。
スゲエ!
思いの外いいカンジ!
腕にびりびり余韻が残る。
完・璧っ!!
くるっとメンバーの方へ向き直って思いっ切り腕を振る。

「くぅぅっ…!見た見た見た!? 今の今のっ!さすが俺!?」
「す…げーな、オイ…。今の…」
「くそー!反応できなかったー!」
「速攻ロングバージョンみたいじゃん。…つーか、よくお前も反応できて打てたな!普通あんな速度でトスして来るとか思わねーだろ!」
「や、木兎の踏み込みが早すぎてたんで、腕振るのに無理矢理合わせたんだろ」
「ヘイヘイヘーイ!!見たかー!赤葦ナイ……あれ?」
「着替えてくるってさ~」

ハイタッチでもしようかと体育館端を見たのに、マネがぴっと両手で出入り口を指差して立ってるだけで、赤葦の姿はもう無かった。
おいいいぃ!マジかよ!?
喜び合おうぜ、そこは!
そゆトコどーなの!?
ばっと両手で頭を抱えて、天井に吠える。

「何だよーもーっ!」
「すぐ来るだろ」
「てかお前、ホント全然違うのな、そのテンション…」
「躾がね。行き届いているんですよ、躾が」
「赤葦がスゲーわ」
「チョット!違うでしょ!? そこ俺がスゴイんでショ!?」
「赤葦スゲーわ~」
「しかしその分休まらないのでした」
「デキル奴の損なトコね…」
「ホント、良くできた後輩だよなー」
「言うことはっきりしてるし、生意気にならない程度に礼儀正しいしな」
「なー」
「チョット!? 赤葦はいいから俺を褒めて!!」
「ハイハイハイ!そろそろちゃんとやるよ~!」

マネに手を叩かれて、流石にそろそろ一区切り。
赤葦来たし、ちゃんとやろ。
アップだと思えば、他の奴でもいーわ。
だってどうせ着替えるだけだろ?
すぐ来るし、アイツ。

「~♪」
「ゴキゲンですヨ…」
「こーゆーのがああいうクールな奴の心を擽んだよな…。世の中そんなもん」
「あー。なんか分かるー」
「…まあ、憎めないしな。木兎も木兎で」
「お前ら何サボってんだよ!ホラホラー、やりますよー!?」
「お前に言われたくねーよ!」

その後すぐ赤葦も来て、ようやくいつも通りの練習!
やっぱトスが全然違うしなー。
赤葦がいないとホント困る!
けどなんかその後の今日はすんげえ絶好調だった!

 

 

 

 

「…。ブルーベリーなんですかね、やっぱり」
「あん?」

帰り道。
マネに冷却スプレーとか買って来てとか言われて、薬局に寄ることにした。
学校最寄りの駅前のドラッグストアは品揃え悪いし高い。
そんで、生憎マネちゃんズの降りる駅にはそーゆーのが無くて、俺とか赤葦の方面は帰り道にあったりするんで大体部活のコレ関係は俺らで買いに出たりする。
ぽいぽい選んで赤葦の持ってるカゴの中に入れてると、サプリが並ぶ前で赤葦がぽつりと呟いた。
手にはブルーベリーの絵が描いてあるプラスチック瓶を持っている。

「ナニ。赤葦ブルーベリー好きなの?」
「いえ、別に…」
「サプリはカジョーセッシュがどーとかで好きじゃねーとか言ってなかった?」
「あんまり好きじゃないですね」

…とか言いつつ、何故か自前で買うというね。
ナンデ??
まあ、そこは気にせず、部費の方は何気にいつも多くなってしまう袋をそれぞれいっこずつ持って、夜道を分かれ道まで歩く。

「なー。さっき買ったヤツ後で俺にも一個ちょーだい。味見」
「どうぞ。明日持って行きます」
「おー!」

俺あんまサプリとか飲まないから微妙に気になるし楽しみ!
…だったのだが。

 

 

 

 

「…味、ねーのな。サプリって」
「でしょうね」

ちなみに、翌日もらったサプリに味は無かった。
でも赤葦はたまーに飲むことにしてるらしい。
何でも毎日取っても無駄だからどーとかこーとかで毎日は飲まないらしい。
その辺はどうでもいいが、味なくちゃ話になんねーだろと思うが。
美味しくないじゃん。
つまんなくね?
ガチの果実食った方がいい気がするが……時々ワケわかんねーことするんだよな、コイツ。
不思議クンなトコあるから。

「あかーし、ガム欲しい?」
「いえ、別――」
「欲しいって言って!もう出したからっ!」
「…。頂きます」

味ねーと可哀想なんで、昼に購買で買ってたタブレットのグレープ味のガムをやった。
ザラザラと掌に流した数粒を、どぱっと赤葦の差し出した両手に流す。
歯にいいやつね。
ブルーベリーと似てるし、こっちの方がいいだろう。
ガムをバッグにしまって、両腕上にして、ぐーっと背伸びをする。
体が気持ち良く伸びていく。
上履きよりずっと履き馴染んだシューズのベルトの爪先で、トントンと床を叩く。
ベンキョーとか、あんま好きじゃない。
学校の醍醐味はこっからの時間だ。

「行くぞうっ、赤葦!」
「行ってらっしゃい」
「着いてきて!?」

手に持ったガムを気にしてたらたらしている赤葦の背中のジャージ掴んで部室から引っ張り出す。
…さーて!
今日もバレーやりますよー!!



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木兎さん目線の可愛い後輩。
先輩の何気ない一言とかで赤葦君は結構動く子。献身的。
両想いだろうけれどどっちかっていうと木兎←赤葦っていうのが萌えます。
2016.1.15





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