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「研磨。携帯鳴ってんぞー」

無造作に放られる知らせ。
それでも研磨は横たわったまま起きない。
何せ年越し以前から一つ年上の幼馴染みである鉄朗の部屋にあるこたつに魅せられてすっかり虜なのである。
毎年のことといえば毎年のことだが、テレビ見てたりする部屋の主と一緒に何かをしようという姿勢は一切見せず、ひたすら横になってぬくぬくしながら寝正月だ。
辛うじて年が明けての遅い朝食には参加した。
一階に降りて鉄朗の家族へ挨拶し、そのまま今度は鉄朗を引き連れて自分の家へ戻ると自分の家族へ顔を見せる。
ついでに鉄朗が彼らに挨拶をし、黒尾家でもそうだがお年玉を回収してまた部屋に戻ってから暫くは二度寝の時間だ。
研磨は二度寝だが、鉄朗はそのままテレビをかけては雑誌を読んだり漫画を読んだりと起き出している。
そんな中、マナーモードになっている研磨の携帯が鳴った。
正確には震えた、のだが。
そして、更に正確にいうのなら、震えたのは研磨のものだけでなく鉄朗の携帯もだった。
同時に鳴った段階で予想がつく。
あけおめメールだ。

「…お。夜久だ」

先にメールの中身を確認した鉄朗が送信者を告げる。
一通り見て、こたつの上に放置されていた研磨のスマホを掴むとぐりぐりと持ち主の背中に押しつけた。

「おら、研磨。メール」
「…ん~…」
「夜久から。あけおめだとよ」
「うん…」

ぐりぐりするも、無地の黒いクッションを枕にしたまま曖昧に返事をするだけで目も開けない。
そもそも、二年の研磨にとって、三年生である夜久は先輩であまり個人的な接点はない。
現に、研磨は新年の挨拶を送る気は更々無かった。
同じく三年である鉄朗と仲がいいのは元からであって、それ以外の先輩は彼にとってはまだ微妙に人見知り発動中の相手なのだ。
取り敢えず返信を返すことにした鉄朗は、メール作成中にふと思い立って、今さっき諦めて置いた研磨の携帯を持ち直すと、勝手にカメラを起動させる。
スマホの方が画質はいい。

「研磨、起きろ」
「えー…。なにぃ~…」

寝ている研磨の体の下とこたつ布団との隙間に片腕一本無理矢理入り込ませ、ぐっと力任せに研磨の体を起こす。
心底鬱陶しそうに眉を寄せているも、力業で起こされればぼんやり意識は浮く。
無理に起こされた研磨の体はくたりと力なく、そのまま鉄朗の片腕の中に収まった。
収まったら収まったで、今度はそこに寄りかかることにしたらしく、右腕に額を押しつけてぴたりとくっつく。
まだしぶとく目は開けない。

「ねてるのに…」
「写真撮るから。夜久に。年賀状代わり」
「…なんで写真」
「俺がそーしたいから」
「…」
「ハーイ。撮りますよーぃ」

携帯を持った左腕を正面に伸ばして撮影体制に入る鉄朗についていくつもりのない研磨は、顔を隠すように尚更鉄朗の胸に額を押しつける。
写っていようがいまいが結局どうでもいいのか、そのままフラッシュがたかれた。
研磨はフラッシュの音が好きではない。
更に鉄朗の脇に引きこもる。
彼の服に顔を押しつけたまま、また嫌そうに眉を寄せた。

「…よし。撮れた。…おー。いーじゃーん」
「あっそ…」
「お前んとこから送っといてやるわ」
「…すきにすれば」

どうでもいい。
鉄朗に寄りかかったまま、研磨がまたうとうとしだす。
手早く自分が書いてるぜ的な文章を打ち、添付して送信する。
自分の右側に寄り添う幼馴染みの肩を抱いて支え、携帯を置くと鉄朗はさっき枕にされていたクッションの位置を片腕で直すと、研磨共々横に寝る。
再び頬に当たるクッションの感覚に気付いて、研磨が漸く薄目を開けて現状を確認してから、さっきと同じようにうとうと眠りモードに入り出す。
さっきと違うのは鉄朗がすぐ後ろで同じように寝ていることくらいだ。
片肘を支えに頭を支え、彼が少し離れた場所にある時計を一瞥する。

「今神社だとよ。…どうする? 俺らも夕方んなったら初詣行くか?」
「んー…。どうでもいい…」

言いながら、もぞもぞ体の向きを反対にして研磨が鉄朗に擦り寄る。
パーカーの袖で半分隠れた掌ふたつで、ぎゅぅ…と隣に横たわる体を抱く。
前はそんなに変わらなかったのに、今では鉄朗の体は自分と随分さがつき、いかにもスポーツ男子っぽく筋肉質で広い。
抱かれ心地は上々だが、抱き心地は決して良くない。
とはいえ、匂いは昔から変わらない、気心知れた落ち着くクロの匂いだ。

「…眠い?」
「ねむい…」

ぼそ…と小声で尋ねる声に、素直に返事をしておく。
苦笑のような溜息が聞こえて、髪に鼻先を押しつける感覚があった。
うっとりと研磨は睡魔に身を委ねる。
…こたつプラス温かい要因が増えた。
益々眠れそうだ。

 

 

 

 

「………」

昼近く。
どっから湧いて出てきたと思うような長蛇な列も漸くじわじわ動き始め、初詣も済ませてたこ焼きとお好み焼きの袋を片手に、夜久はもう片方の手で持つ携帯を半眼で見ながら固まっていた。
一緒に初詣を済ませて同じようにいくつか買い込んだ屋台の昼食を片手にした海が、足を止めた彼に気付いて振り返る。

「どうかした?」
「…ちょっと見て、これ」

夜久が携帯を突き付ける。
けど距離があるのでディスプレイまでは見えない。
数歩分進んだ距離を戻ってきて持たせてもらうと、それはそれは見事にいちゃついた鉄朗と研磨の写真だった。
鉄朗が自撮りしたっぽい写真だが、小脇に研磨がいて彼に寄りかかって眠っているようだ。
送信名は孤爪研磨になっているが、勿論あのコミュ力低めな二年がこんな写真をこれ見よがしに添付してくる訳もなく、どー考えても鉄朗だ。
ははあ…と海は穏やかに笑って夜久に携帯を返す。

「いいねえ」
「いいかあ?」

海と違い、夜久は顔を顰めている。
もういい加減にあの二人の関係にツッコミ入れるつもりはないが、当初自分たちが思っていた黒尾鉄朗のイメージはあの幼馴染み君が来てから大幅な修正を入れざるを得なかった。
許容の広い海と違い、夜久には結構な衝撃だったのだ。
本人同士がそれでいいなら何も言うつもりはないし、反対のつもりもない。
だが、何というかそのベタベタっぷりが意外すぎてちょっと控えて欲しいのだ。
勿論、鉄朗は相手を選んで情報公開しているので部活中や生活上でこういうものを送ってくるのは珍しいのだが、年末年始でずーっと一緒にいられてアイツ絶対地味にテンション上がってやがる…というのが、夜久の見解。
本気で嬉しそうなのがまた腹立つ。

「…ったく」
「まあまあ。俺たちくらいしか惚気る相手いないんだろうから、温かく見守ってあげよう」
「迷惑千万じゃ」
「じゃあ、俺たちも写真送り返す?」
「いやいや…。そこ張り合うとこ?」
「あっ、クロさんと研磨さんだ!」
「…!?」「…!」

唐突な背後からの声にぎょっとして、弾かれたように二人して背後を振り返る。
携帯を遮るように胸に引き寄せながら振り返った夜久の目の前に、リエーフが立っていた。
普通ならば持っている携帯を覗けるような角度でもないのだろうが、身長190越えのリエーフと165の夜久の差によって画面までバッチリ見られてしまったらしい。
…ヤバイ、見られた。
内心バクつく夜久が驚いたて見上げる先で、リエーフはそんな彼の表情に不思議そうに首を傾げた。
それから、動じずに横にいる海へ視線を向ける。

「お二方、明けましておめでとうございます!」
「おめでとう、リエーフ」
「お、おめでと…」
「リエーフ一人?」
「いや、家族と来ました」
「…」

海が話を振ってくれて、リエーフがそれに応える。
会話を聞きながら夜久はすぐに携帯をポケットにしまい込んだ。
このまま話が反れるかと思いきや、空気が読めず察しも悪いリエーフは単刀直入に夜久を見ては尋ねる。

「今の、クロさんからのメールですか? 写真、スゲー仲いいですね」
「え、や…。どうだろうな。寝てる研磨無理矢理撮った感だけど…」
「いいなー。クロさんは研磨さんとずっと一緒にいられるんスよねー。そりゃあタイミングも意思疎通もできますよ。俺だってもっと研磨さんと阿吽的なことしたいです。…あ、そうだ!俺らも写真撮りませんか?」
「え…」
「海さん、お願いします!」

言うが早く、リエーフが自分の携帯を取り出して正面に立っていた海に差し出す。
流れについていけない夜久を置いてけぼりにして、海はにこにことそれを受け取った。

「いいよ。…はい、じゃあ撮りまーす」
「イエーイ!」
「対抗して、もっと仲良しさみたいなの出した方がいいんじゃない?」
「おい…」

海の思わぬ言葉で、夜久の隣でピースしていたリエーフが「おお…!」みたいな顔をする。

「そーっスよね。…あ、じゃあくっついてみますか?」
「ぶっ…!」

さっきの写真を見たせいか、右腕で夜久の腰を取ってぐっと自分へ引き寄せる。
顔面からリエーフのコートに突っ込み、夜久は慌てて腕で後ろ腰に回っている後輩の腕を取り払った。

「お前な!止めろよ!」
「え、何で?」
「海も!」
「あははは」

面白がっている海と違って、リエーフは本気でピンと来ないらしい。
普通、先輩と新年に会ったからといって写真撮りたいとか言い出さないだろうに、この人懐っこさはリエーフ独特の感性なのだろう。
夜久はムキになって片腕でばしっと後輩の腹を叩く。

「止めろ、横に並ぶな。俺が小さく見えるだろ」
「横駄目っスか? …あ、じゃあ俺後ろに回ります?」
「…うん。写る写る」
「…」

一歩下がって後ろに背後に立つリエーフ。
それでも、海の持つスマホには二人の顔が問題無く映るらしい。
それはそれで大変不本意な事実だ。
むす…とした顔をしつつ、もう何も言うまいと思っていた夜久だが…。

「じゃあ撮るね。3,2,1…」
「…たあっ!」
「はあっ!?」

シャッターを切る直前、いきなりリエーフが夜久に抱きついた。
情け容赦なく写真は撮られ、海がにこにことチェックしている。

「…うん。よく撮れてる」
「ホントっスかー?」
「ば…っおいちょっと待て。消せよな? つか何でお前今抱きついた!」

ぽいと夜久から離れて海の方へ寄っていくリエーフに出遅れ、慌てて自分もついていく。
携帯はリエーフの手にあり、嬉しそうにチェックしていた。

「おおーっ」
「おおー、じゃねえよ。見せろって俺にも」
「あー。ちょっと待ってくださーい」

片腕を上げてみる夜久だが、更にリエーフが両手に持っている携帯ごと腕を上げてしまえば届く奴などそうそういない。
虚しくなるしみっともないので、彼が腕を上げたらすぐに伸ばしていた腕を引っ込めた。
何やら上で操作してから、夜久の手元にやってきた。
…で、マナー違反御免で画面履歴をタップすれば、既にLINEに画像が載っていた。
入りっぱなしらしく、ぱっと見メンバーは犬岡の名前と柴の名前と、あと知らない二人がいた。恐らくは一年の友達だろう。
確実に漏洩している。

「…」
「次、海さん一緒に撮りましょう!」
「ああ。いいよ」

思わず遠い目になりつつも、のろのろと横に並んで腕を組んでポーズつける二人を撮っておく。
改めて海のその平常心に感嘆しつつ、夜久は溜息を吐いてリエーフに携帯を返した。
あざースとか言って、また画面を少し弄る。
恐らくは、海の写真もアップしたのだろう。
満足したのか、リエーフはにんまり嬉しそうに笑う。
丁度そのタイミングで、少し離れた場所から彼を呼ぶ声がした。

「じゃ、俺そろそろ行きます。今年も宜しくお願いします!」
「こちらこそ。気を付けてね」
「…じゃあな」
「あ、写真、後で俺にも送って」
「ハイ!それじゃ、さよなら!」

飄々としている海と、振り回されてぐったり疲労した夜久。
二人に理不尽なほど元気よく手を振り、リエーフは去っていった。
相変わらず嵐のような存在感。
一区切りついた感を味わいながら、ふと片腕に下げたままの屋台の昼食を思い出して再度歩き出す。
近くの公園のベンチにでも座って食べようかという話だったのだが、リエーフの登場で微妙に冷めつつある気がする。

「ほんとうるさいな、あいつ…」
「まあまあ。可愛い後輩じゃない」
「…何でウチの後輩って個性が過ぎるんだろう」
「どこでもそんなものだよ、きっと」

そんな会話をしながらてくてく歩いている途中で、ポケットに入れていた海の携帯が鳴る。
取り出して画面を見て、少し操作する。

「…リエーフ?」
「うん。画像くれた。よく撮れてる。夜久がびっくりし過ぎだけど」
「だって不意打ちじゃん。…何だよアイツ。俺の写真までお前に送ってんの?」
「いい青春の一ページ的な」
「いらん一ページだから。…はー。つーか何であいつあんな背ぇ高いんだー。ちっくしょー!」
「…あ。息白いね」
「ん? …ああ。そこそこ寒いもんなー」
「まあ、この辺で寒いとか言ってたら烏野に笑われそうだけど。…スガくんとかって初詣行く派かな」
「さあ…。…ていうか、何で急にスガくん?」
「今メール送ってみたからさ。写真付きで。なんか前に合宿で話した時、ウチの雰囲気いつもどんな感じかとか聞いてたし、さっきの写真よかったから二枚とも」
「え?」
「え?」

足を止めて海を見上げる夜久に、きょとんと海も見返す。
空気は冷たいが、風はない。
寒空の下で寒い寒いと言いながら屋台の昼食を食べるにはもってこいの正月午後。
何でもない風に、すっかり有り難みが薄らいできた初日は空の天辺で輝いている。

 

 

 

「旭さん!豚汁貰ってきました!」
「ちょ、走らなくていいからノヤ!溢したら火傷するから!」

屋台の方から駆け戻ってくる西谷と、それを焦りつつもほんわか嬉しそうに迎えるちょびヒゲ強面の東峰。
境内で顔を合わせて何となく一緒に行動しているその二人を、澤村は遠い目で見詰めた。

「…父親と子どもだな」
「え? 何が?」

澤村の隣で携帯を見ていた菅原が顔を上げる。
何でもない、と応える澤村を気にする様子はなく、代わりに自分の持っている携帯を彼に向ける。

「てか、見て見て。音駒」
「ん?」
「海くん」

にこにこと差し出された携帯には二枚の写真が添付してあった。
東京の音駒高校メンバーだ。
一枚目は海と背の高い一年が腕を組んでピースしており、二枚目はリベロである夜久にその一年が後ろから抱きつかれて捕まり慌てている写真だ。
一枚目はともかく、二枚目は醸し出される雰囲気から夜久が苦労しているのが分かる。

「仲いいな…。後輩と一緒に初詣行くんだ?」
「なんかたまたま会ったみたいだよ」
「ふーん。…というかやっぱり背が高いよな、この一年」
「いいなー、190越え」
「そうだな。後ろに立って顔普通に見えるってすごいよな」
「…」

澤村が何気なく言い、菅原がす…と一歩後ろに下がって彼の真後ろに並んでみる。
当然だが、正面から見て菅原の顔は出ない。
背伸びしてみるも、意味ない。
澤村が呆れたような顔で背後を振り返った。

「…無理だからな?」
「あはは、だよな~」

澤村の方が背が高いので当然だ。
妙な縦列で並んでいる二人を見て、ある程度落ち着いて戻ってきた東峰と西谷が不思議そうに首を傾げる。

「何でスガ、大地の真後ろに立ってるの?」
「ん? ほら」

尋ねられ、菅原がさっきと同じように写真を見せる。
おー…と二人から妙な感嘆の声が上がった。

「身長差ー」
「俺と旭さんだったらできますよ」

湯気立つ豚汁の器を持ちながら、西谷が東峰の前に立つ。
なるほど、しっかりと東峰の顔は見えていた。

「おお。待って、撮るから」

持っていた携帯をそのままカメラモードにして掲げ出す菅原に、西谷がえへんと胸を張る。
誇らしげな後輩の様子に、さっきの音駒リベロとはえらい違いだ…と澤村は感心した。

「じゃあ撮るよー」
「あ、じゃあ…。こうする?」

シャッターを切る前に、西谷の背後に立っていた東峰が豚汁を持っていない方の片腕を前に立つ後輩の肩にかけた。
さっき見た写真のリエーフが夜久に抱きついているのを見たからだろうが、それを自然にやろうとする東峰の神経が分からず、澤村は眉間に皺を寄せる。
彼と違って気にしない菅原は肯定的だ。
勿論西谷は好意的。
ビシリと空いている手でピースサイン。

「あ、いいねいいねー」
「かっこよく撮ってくださいね!」
「はーい。いくよー」

パシャ…!とシャッター音が響いて、東峰と西谷が菅原の携帯を覗き込む。

「撮れました?」
「撮れた撮れた。いい感じ。海くんに送っていい?」
「スガ、俺にも回して」
「俺にもください!」
「…もういい加減移動しないか?」

盛り上がる三人を見守っていた澤村が移動を促す。
誘導され、四人は写真を確認しながら鳥居をくぐった。

「東峰たちはもう帰るん?」
「いや、何かゲーセンに行こうって話で…。スガたちも来る?」
「ボーリングもできますよ」
「んー。俺はいいかなぁ…。流石に寒くなってきたし」

笑って腕をさすりながら菅原が断るので、東峰は澤村に向く。

「大地は?」
「俺もいい。三箇日のゲーセン混むしな。楽しんでこい」
「そうか。じゃあ、また部活で」
「ああ。じゃあな。風邪だけは引くなよ。張り飛ばすぞ」
「恐いよ!」

ひらりと手を振って歩き出す澤村の行動を機に、お互い手を振る。

「スガさん、写真送ってくださいね!」
「うん、送る送るー。じゃあな~」

元気に手を振る西谷に振り返し、菅原も少し先を進む澤村に追いつく。
二人には言わなかったが、一応この後澤村の家で勉強する予定があった。
勉強してる雰囲気を出すと進学組でない東峰が地味に落ち込むので、言うまでもないと思ったのだろう。
澤村は特に隠すつもりはなかったが、先に発言した菅原の対応で自分も伏せることにしたらしい。
神社や大きな道、街中から離れていくうちに段々と人気も寂しくなってくる。

「相変わらず仲いいな~、旭と西谷」
「そうだな。親子にしか見えないけどな」
「親子って!」

最初に思った印象を伝えると、菅原が横で吹いた。
言い得て妙だ。
くすくす笑っていた菅原だが、ふと視線を上げて後ろを振り返った。
通行人もいなそうだ。
視線を正面に戻しててくてく数歩歩いたところで、菅原が言う。

「俺らも写真撮る?」
「撮らない」

澤村が微妙な顔で断言する。
相当のテンションでなければ自分にあんな写真は撮れない。
周りにわいわいと他のメンバーでもいればそのノリで撮れるかもしれないが、少なくとも菅原と二人きりの時に撮れない。
防衛に入る澤村の返事を無視して、菅原がポケットから携帯を取り出す。
さ…と澤村が彼との距離を空けて道の端にずれるが、菅原がカメラモードにしながら何でもない風にその開いた差を詰めて二人して道の端を歩く。
右手に携帯。自撮りモードにして、菅原が澤村の片腕に左手をかける…というか絡ませ、携帯を持つ手を正面に掲げる。

「ほい」
「ほいじゃないだろ」

ぺい…と絡まれた手を放るが、慣れた様子で菅原がもう一度手をかける。
夜久とリエーフのような写真は難易度が高いが、せめて海とリエーフくらいは撮ってもいいような気がする菅原だが、大地はそれすらも避けたいらしい。

「イエーイ!」
「…」

がっつり腕を組んで顔を寄せ、写真を撮ってみる……が、パシャ!とシャッターが切られる直前、片腕を上げた澤村がぐいと携帯を持つ菅原の手を横に押した。
菅原が悲鳴を上げて携帯を確認する。
ぼやけにぼやけていて謎の写真だ。

「ちょおー、大地ブレたべー!」
「だからいいって…」

拒否発言だが、同じ事を流石に二回やらないことを知っている菅原は、さくさく二度目の準備をして今度こそしっかり写真に収めた。
澤村の顔が明後日の方向を向いているが、まあいいだろう。上々だ。

「~♪」
「…お前それ絶対誰かに送るなよ?」
「あはは。分かってる分かってる」

ホントかよ…と怪しい目を向けてくる澤村に笑いかけ、菅原は携帯をポケットにしまいこんだ。
しまうために俯いていた彼の顔がぱっと上がると、それだけで未だにぎくりとしてしまう澤村だ。
東峰など見ていると凄いなと思う時が多々ある。
自分が本当に素直に菅原に寄りかかれるのはいつの日になることか…。
情けないなとしみじみ思うが、まあそれだけ本気だということの裏返しでもある。
さっさと普通の空気に持っていきたくて、当たり障りのない会話を振ってみる。

「年末、勉強やったか?」
「ぼちぼち~」
「へー…」
「あっ、主将たちだ!!」

唐突に背後から声。
二人揃って振り返ると、道の向こうから白い息を弾ませ、日向がまるで主人でも見つけた犬のごとく尻尾を振りながら駆け寄ってくる。
彼に一瞬遅れて、更に追ってくる影山までいる。
影山が日向を抜いたところで、突然二人が互いを意識してグッ…と猛ダッシュに切り替えた。

「「明けましておめでとうございまああぁぁ……――」」
「…」
「…」

そのまま横を通過して、何処かへと駆けていく後輩を呆然と見送る。

「…何だアレ」
「あはは。頼りになるねぇ……て、あれ?」

笑っていた菅原の足下に、紫色のお守りが白い袋ごと落ちている。
慌てて拾って駆け出した。

「おーい!二人とも止まれ止まれ!落とし物ー!!」
「ほっとけ、スガ。どうせ部活で……おい!」

気付いた頃には二人を追って走り出してしまっている菅原に声を張ってみるが、もう届かなそうだ。
舌打ちして、結局澤村も走り出す。

Happy New Year




宮城の澄んだ山々の麓で、四つの影がそれぞれ走って見えなくなった。



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お正月小説。
それぞれのCPな感じです。
深く考えると三年の一月とかまた違う感じになると思うので敢えて考えませんでした。
哀しくなるもんね。
2015.1.3





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