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「おっこら…しょっと!」

そんな独特のかけ声一言で、ダンはここまで両腕で抱え込んで持ってきた衣類や装飾の類をリビングの広いテーブルの上へどさりと下ろした。
部屋の中でそれまで窓の外を見ていたり本を読んでいたり、ばらばらなことしてた僕らの視線が自然とそこへ集まる。
ネックレスやブローチの類が山から一部崩れ、ジャラジャラと音を立ててテーブルから足下へ落ちる。
それらは本当に山積みで、リビングに入ってきた時の彼の顔は埋もれて見えなかった。
…何も一度に運ばなくても分けて運べばいいのに。

「ぷー…っ! あ~やれやれ。流石にちっと肩凝ったかぁー?」
「…これ本物?」

左肩を右手で押さえて首の関節を鳴らしているダンへ、正面のソファに座っていた僕は、足下に落ちた金のネックレスを拾いながら尋ねた。
金の塊を円状に圧し伸ばして連ねたような、少し歪なネックレスは、鈍色の光を発していて、それが返って歴史を刻んできた本物であることを主張している。
それをぽいと目の前の山積みの上へ積むと、積んだ金のネックレスの変わりに今度は反対側が少し崩れて真珠のネックレスがダンの足下へ落ちた。
彼はそれを拾ってから、指先でくるくる回しつつ得意気に胸を張る。

「おう!クローゼットの奥っの方によ、やっぱ一式とってあったんだわ。…おう、スウェーリエ。フィン庭にいんだっぺ? ちっと呼んでくれっけ!」
「…」

室内不在のフィンは、少し前から庭で飼ってる子犬を遊ばせていた。
心配なのか何なのか、珈琲の入ったマグを片手にやたら窓際にいたスヴィーは、ダンの言葉にのそりと寄りかかっていた壁から背を浮かせるとマグを窓際に置き、そのまま部屋を出て行った。
僕が座っているソファセットとは別の、窓近くの壁際に置かれている小さなソファに座っていたお兄ちゃんも、スヴィーが正面を横切ってからゆっくり立ち上がってこっちに来た。
何気なくお兄ちゃんが歩いてくるのを横目で見ていたが、不意に顔面にぼふっと布が当たる。
ダンがヴァイキング時代のコートを広げて、僕の顔面近距離に押し当ていた。

「ほーれ、アイス~。これなんかどうだ!おめえ当時チビで着れなかったっぺ? 今なら袖合うんじゃねえけ?」
「…。それ僕も着なきゃダメなの?」

米国からハロウィンのイベント広告が着たのは数日前だ。
最近は僕らの所にも段々浸透してきた南のイベントだけど、まだ本格的に参加したことはない。
店先にオレンジ色のカボチャが並び始めて何となくオレンジとブラックのグッズが増え始めたと思っていると、大体10月31日は通り過ぎていることが多い。
けど、今年は広告が入ったということで、それじゃあ参加してみようということになったらしい。
お兄ちゃんやスヴィーがどうかは知らないけど、ダンとフィンは見るからに乗り気だ。
ダンは翌日、速攻で会場近くのホテルを押さえたらしい。
…お兄ちゃんたちも何だかんだで今日こうして付き合っているんだから、もしかしたらやっぱり乗り気なのかもしれない。
特にスヴィーはああ見えてお祭り事好きだから。

「ほれほれ。立っちみろって!」
「僕いいよ。似合わないし」
「いぐねーべな。全員合わしてやんだかんなっ」
「…ハロウィンって、悪魔とかの幽霊の仮装でしょ? 海賊じゃダメなんじゃないの」
「んお?そーなん? …あっれぇ~?独逸の野郎ぁことっしゃ戦士やるっつってたんだけっどなあ」

戦士…?
戦士ってどっちかっていうと味方じゃないの。
ハロウィンって悪いものに仮装して、悪魔とかに仲間だと思わせるイベントなんじゃなかった…?
よく分からない。
でも、主旨が時代で変わることなんてよくあることだ。
たぶんみんなで騒げれば、どうでもいいのかもしれない。

「…何。仮装なら何でもいいわけ?」
「たぶんえんだっぺ!」

両手を腰に添え、軽い調子でやっぱり得意気にダンが断言する。
適当…。
読んでいた本で口元を隠して、露骨にため息を吐いてやる。
テーブルの上の山積みから船長服を一着取り上げ、ダンは広げて見せた。
…百年とか千年単位で昔の服だ。
やっぱり随分ぼろぼろで薄汚れているけど、装飾品の名残とかは当時の煌びやかさを遺している。

「そんならよ、幽霊海賊船にしちまえばえがっぺ!んだったらボロボロのまんまでいけっしよ~。…んなっ、ノール♪」
「触んな」

隣とまでは言えない距離にお兄ちゃんが寄ってきて、丁度テーブルから服の裾を抓んで伸ばしていたが、その頭にダンがぽんと海賊帽を被せた途端、間髪入れずその帽子を叩き落とした。
いつものことだ。
完全な拒絶に見える態度もこの2人の間では日常なので、ダンの方も特に機にした様子はなく(それもどうかと思うけど)払われて絨毯の上に落ちた帽子を拾い上げてまた山積みの天辺に乗せた。
幽霊船か…。
それなら、確かにイベントの主旨に合ってるのかも。

「ふーん…」
「んま、修繕が必要だけどよ。…つっても、袖合わせな!どの服着っかだけ決めといた方がえがっぺ?」
「うわあ!海賊の衣装にするんですかぁ?」

庭から戻ってきたフィンが、足早にリビングに入ってくる。
小さな子犬も彼に付いてちょこちょこと彼の後を駆けてきた。
やっぱり乗り気らしい彼はテーブルの上に積み上げられている海賊の衣装や小物を見て、目を輝かせた。

「格好いいなあ~!これ皆さん昔着てましたよね。僕も海賊服って着てみたかったんですよ。…あっ、スーさん!これこれっ、覚えてますよ。スーさんの服ですよね!」
「…ん」

ごてごてして重そうな一着を山から引っ張り出し、フィンが広げてスヴィーに見せる。
丈が長く黒い、見るからに船長服だ。
僕は小さすぎて流石に服までは覚えていないが、フィンは覚えているらしい。
上機嫌ではしゃいでいる彼に、子犬を抱き上げてからスヴィーは小さく頷いた。

「結構重いんですね。はぁ~…すごいなあ。前に貰ったコートも重かったけど、これ着て戦ってたんですもんね。僕にはちょっと無理っぽいかも」
「気に入ったんなら借りて着てみりゃえがっぺな、フィン。なあ?」
「…」

見るからに憧れ全開のフィンの様子に笑いながら、ダンがそう提案してスヴィーに同意を求めるようにアイコンタクトをする。
彼からの提案ってところが少し嫌だったのか、妙な一呼吸を置いてからスヴィーが頷く。

「え…。い、いいんですか…?」
「ん…。…着ちみ」
「あ、でも…」
「んじゃおめえこっちのモブクルー服な」
「…」
「あ、待ってください、スーさん…!」

船長服と比べると随分ラフな古着をダンがスヴィーの顔面狙って投げつけ、それが当たる前にスヴィーは右腕を振るって投げられた服をキャッチした。
船長服を抱えたまま、フィンが所在なさそうにスヴィーを気にしているようだが、彼が腕時計を外しながら古着を持って隣の部屋へ歩き始めると、フィンも慌ただしく付いていく。

「んで、ノルのは~…っと」

がさがさと山を漁り、いくつかの小物と古着を引っ張り出す。
白を基調にしたインナーとマフラー。
やっぱり丈が長くて、刺繍とか装飾の強いコート。
それから、さっき払った海賊帽とは別の、左の所に汚れた薔薇の造花が着いている海賊帽を片腕にかけ、まとめるとダンはそれをお兄ちゃんへ手渡した。
同じように見えても、さっきフィンが持っていったスヴィーの服は裾が派手だったし、個性があるらしい。

「ほれっ。裾ちっと直せばまだ着れっぺ」
「…」
「僕はいいから」

ちらりとお兄ちゃんが僕を一瞥したが、さっと右手を上げて制しておく。
確かに、当時は僕は小さすぎて参加もできなかったし着られなかったから、興味がないって言えば嘘だけど、だからって人のものまで取ろうとは思わない。
それに、さっきも思ったけどたぶんあんまり似合わないだろうし。
…て言うか、そこまで気合い入れて参加する気もないし。

「余った服でいいから。注目されるの嫌いだし。…後ろから付いていけばいいんでしょ」
「そーけ? んじゃあ、俺げんとこの古着貸してやっから。ちっと緩いかもしんねえけどよ。きゅっと締めりゃいけっぺ」

ソファに座っていた僕に、ぽいぽいと山からいくつかが選び出されて投げられる。
的確に膝の上に投げられる衣類と装飾のうちベストみたいな一枚を取って広げてみた。

「…これ、インナーは?」
「それで全部!」

胸を張ってきらりと断言するダン。
…。
…何。インナーないの?
素肌出せって?10月の末日に?
今年の会場って南半球じゃなくて米国の所じゃなかった?
まあ寒さには強い方だとは思うけど…。
眉間に皺を寄せて、服を持ち上げていた腕を膝に下ろす。
元々ないけど、なんだかとってもやる気が削げた。
無言のままちらりと自分の腹筋当たりを見下ろしてみる。
腹筋…なさすぎて笑われたら気分悪い。
今晩からちょっと運動してみようかな…。

「隣の部屋はスウェーリエらが使ってっから、あっちで着替えてこな。俺ぁここで替えっちまうからよ」

ぴっとダンが自分の後ろにあるドアを振り返らないまま親指で示す。
別室なのは有難いけど…。
改めて押しつけられたらしい衣類を見下ろす。

「…着方分かんない」
「ノルが知ってっから平気だって。んなっ?」
「…。…来ちみ」

笑いかけるダンの馴れ馴れしい態度に一瞬うざそうに彼を見返してから、お兄ちゃんが僕へ目線を向けて自分の服を片腕に抱えたまま片手でちょいと着いてこいというジェスチャーをした。
仕方ないから、僕もそれらを持って立ち上がった。

 

場所を隣の部屋に移して、着替えを始める。
下着以外一端脱いで着方を教えてもらったけど、留め具が多い船長服と違って、下っ端の服は布を身に着けて縛るくらいの簡単な着方だった。
…上は素肌にベストだし。
一枚布とかを緩く着る服は昔着てたから好きだけど、これは最低。

「…変じゃない?」

全て着終わって、最後にダン曰く本物らしい、今から見れば随分雑でごつごつしたネックレスを首にかけてもらう。

「んなことねえわ。…似合っとるべな」
「…。…そうかな」

ネックレス付けてもらってるから当然だけど、いつものぽつりとした小声がすぐ後ろから間近で聞こえてちょっと吃驚した。
何か、妙にぞわぞわする。

「…ん」

数秒後。
ネックレスを掛け終わって、ぽんとお兄ちゃんが僕の左右の肩を軽く叩いた。
終わり、という合図に振り返る。

「ありがと…」
「先出とってええど」

言いながら、今度はお兄ちゃんが着替えを始めるべく襟元のタイを外し始めた。
ちらりとリビングへ繋がるドアへ目をやってから、改めて自分の格好を見下ろす。
…あんまり一人で出たくないような気がしなくもない。

「…待ってていい?」
「ん…?」

袖のボタンを外してシャツを脱いでたお兄ちゃんの背中にぽつりと聞いてみる。
肩越しに振り返った彼が肯定の返事をくれたから、僕はドアの隣の壁に寄りかかってぼんやり待っていることにした。
…僕の服と違って、お兄ちゃんの服はしっかりしている。
シャツにスカーフに張り付くようなパンツにボタンの多いベストに装飾にコートに帽子…。
やっぱり袖と裾が少し短いけど、できあがる頃にはすっかり映画に出てきそうな海賊船長のできあがりだ。
サーベルと短銃を持ったらもっと格好いいだろう。
きらきらして見える。

「…似合うね」
「どうだべ」

今は仮装扱いだけど本人からすれば昔の服ってだけだからか、感慨も何もなさそうな素っ気ない態度で脱いだ私服を畳んで簡単にまとめ、僕の私服と重ねると脇に抱えた。

「それでダンと喧嘩してたんでしょ?」
「喧嘩っつーか…。まあ、喧嘩もしたし一緒に南のガキどもぼこったり…」

曖昧に濁しながらも僕の方へ歩いてくると、そのままドアノブを握ってリビングへのドアを開けた。

 

 

 

リビングに入ると、既に着替えを済ませた他の三人がソファセットの周りに立っていた。
海賊が三人…。
服が違うだけで、随分と印象が違う。

「ふぉおおおおおおおおっ!!」

お兄ちゃんの背に隠れるようにしてこっそり様子を窺っていると、ドアを開けた瞬間にこっちに背を向けていた船長服のダンが振り返り、これでもかと言うほど目を輝かせた。
パン!と音を立てて両手を喉の前で組み打ち、満面の笑みでラブオーラを飛ばす。
見ているだけで暑苦しい。

「ぅおお!ノルめちゃんこ可愛え~っ!!やっぱおめえそん頃のカチーってした服、すんげえ似ぶっ!」
「あんこ寄んなうぜえ」

両手を広げて飛びついて来ようとする海賊のふにゃふにゃした顔面を鷲掴み、お兄ちゃんは腕を思い切り伸ばして拒否った。
予想通りのダンの反応に呆れていると、横からつつつとやっぱり船長服のフィンが寄ってくる。

「うわあ。ノル君もアイス君もすごく似合うね。格好いいよ~」
「…そういうフィンは袖長いね」

服自体は似合っていなくもないけど、スヴィーの服だからか袖が少し長いようだ。
掌は愚か、指の第二関節くらいまで隠れている。
あと、帽子もぶかぶか。
ぶかぶかの帽子を指先で持ち上げて、ふんわり笑う。

「えへへ。やっぱりちょっと大きいみたい。でも、スーさんが後で直してくれるって」
「…ん」

フィンの後ろでこくこくとスヴィーが頷く。
彼もきっとすごく似合うんだろうけど、今回はフィンに船長服を譲るみたいだ。
彼が着ている服は船長服と違って露出の多いクルー服。
今僕の着ている服と一番近いのはスヴィーの服だけど…。
…。
服は似ているのに、似合うか似合わないかで言ったら僕は断然似合わない。
やっぱり、ちょっと腹筋しよう…。

「これなら、優勝狙えちゃうよね。さっきパンフレット見て三人で話してたんだけど、やっぱり団体参加で当日もうちょっとメイクして出ようって。もうちょっと幽霊っぽくしてさ」
「…やる気だね」
「やっぱり参加するからには目指せ優勝でいかないとね!」

両手でガッツポーズをするフィンはすっかり参加意欲に満ちている。
彼がやる気満々ということは、必然的に愛妻家らしいスヴィーも極力に協力的であるということだ。
どうも僕の周りには凝り性が多いから、この二人が嵌ると本当に本格的になってしまいそうだ。

「…むお? おう、アイス。それちっとネックレス違ぇなあ」

スヴィーとフィンと話していると、お兄ちゃんに顔を押し退けられたままの状態で、ダンが僕の方を見て声をかけた。
指摘されたネックレスに手を添えて聞き返す。

「これ…? あんたから投げられたやつ普通に付けたんだけど」
「あれま。んじゃ俺間違えちったか? もっと他にあんだわ。ちっと待ってろ~?」

離れる時にお兄ちゃんの指先にキスして一発音立てて左頬叩かれてから、ダンがテーブルの上の服の山へ両手を突っ込み、がさがさと漁りだした。
僕らが着替えた分さっきより山は低くなったけど、それでもまだコートとか帽子とか、ネックレスとかサーベルとかがごろごろしている。

「…お!これだ、これ!」

やがて、ごつごつした丸い形の大粒ネックレスを取りあげた。
今首に落ちているものよりも長さが長めで、その分鎖骨よりも下にかかりそうだ。

「それだとちっと苦しいべ。ほれ、こっち来ちみ」
「…変わらなくない?」

あんまり変化はないように思うけど、海賊の衣装については詳しくないからいつもよりも強気には出られない。
ダンが片手でばしばし叩いているソファに歩み寄り、腰を下ろした。
ソファの背の後ろに回り、ダンが僕の首に手をかける。
僕じゃ今しているネックレス外せないから、任せることにした。

「当日ぁ、頭に布も巻くべな。すっげかっこくなんぞー。俺も眼帯でもしてみっかな~」
「止め所失うから程々にしておいたら」
「でもほれ。いつもと違う服ってのはそれだけで楽しいべな? おめえもめちゃんこ可愛ぇし、ノルもすっげえ……」
「…?」

そこで不意に言葉が止まった。
ちらりと肩越しに背後を振り返ろうとした途中、そこまでいかずに彼の言葉を止めた原因が視界に入る。
ソファセットから離れた窓際の方で、丁度今の僕と同じように、お兄ちゃんがネックレスの金具をスヴィーに取ってもらっていた。
一人で金具は取れるはずだから、きっと留め具の部分が壊れていたか何かして見てもらっているのだろう。
両手で少し長めの後ろ髪を持ち上げる姿は…弟の僕が言うのも何だけど…すぐ後ろの窓からの日光で妙に美しい絵画のような透明さを持っていた。
…遅れて、今度こそ肩越しに背後を振り返る。
僕の首にかかる外した留め具の左右を両手に持ったまま、ダンが眉を寄せてそっちを見ていた。
さっきまでの笑顔は何処へやらで、ターコイズブルーの双眸が細く暗く濁っている。
いつもへらへらしてるから忘れるけど、顔立ちは決して悪くはないから、彼はその分真顔になると別人のように冷徹な印象になる。
…。

「…目」
「…!」
「恐いよ」

ため息吐いてからぽつっと呟くと、ダンの双眸に瞬時に光が入った。
急に我に返ったみたいに瞬きをして、顔の向きをそのままに、目線だけで僕を見る。
その頃には生来の垂れ目の、どこか甘さが残るあっけらかんとした目に戻っていた。
僕は両肩を竦めてから、再び正面を向いて目を伏せた。

「止めたんでしょ。そういうの」
「…。…んー」

僕の問いかけに、ダンは呻りながらネックレスを外した。
その後、ぽとりと膝に新しく着ける筈だったネックレスが真上から落とされる。
直後。

「わ…!」

ぐわしっと大きな掌が僕の頭を覆うように掴み、わしゃわしゃと髪を撫でた。

「ちょっと…!」
「ははっ。…わり。後で付けてやっかんな」

両手で頭上の片腕を払い除けたタイミングでにぱっと笑うと、ダンは軽く手を振って窓際の方へ爪先を向けて、お兄ちゃんとスヴィーの間に割り込んでいく。

「どしたどしたあ!ネックレス取れなくなっちったん!?」
「…」

明るい声色と仕草と背中。
その足下に深い影。
…全然ダメじゃん。
器狭すぎ。
膝の上に落ちたネックレスを見下ろしてため息を吐き、僕はソファに背を預けた。
明確な優劣。
決定的な優劣。
倫理的に無謀な初恋よりも、二番目の恋の方が希望がないとか、いっそ面白い。
…まあいいんだけどさ。
好きな二人が互いに幸せでいてくれるなら、それがやっぱり一番だと思う。

「…」

窓際にまとまる四人に背を向け、両足をぶらぶらさせてまた目を伏せる。



Pleasant dag



僕は一緒にいられるだけでいい。
ダンがお兄ちゃんを褒めちぎり、スヴィーがフィンに衣装を譲って整えてあげるのなら…。

当日は、きっと楽しくなるだろう。




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氷君は普通に感情が育まれていればそれだけでもう失恋2回。
大丈夫!君にはろさまがいるから…!
丁さんは素知らぬ顔してて今も嫉妬や感情の起伏とか激しいんだと思ってます。
2012.8.30

 






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