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「新年って言ってもさ…」

テーブルの向こうで、ノルの隣に座ってたアイスが目に見えて退屈そうに肩を竦めながら口を開いた。
あんま自分から話し出すようなことはないタイプなんだが、さてはテレビを消して以降の沈黙にいよいよ耐えられなくなったか?と予想すると思わず苦笑が漏れそうになる。
…が、笑うと怒られっから素っ気なさを装って、足を組んで読んでた本から顔を上げた。
ぼーっと窓の外を眺めていたノルも似たような感じで顔を上げて弟の方を一瞥くれる。
俺もノルも沈黙は平気だが、いっつも傍観者決め込んでるくせに思いの外駄目だったりするのがこのおチビさんだったりする。

「花火上げちゃうともう何もないよね。…カレンダー変えるくらいで」

洒落にするつもりはないが、ついさっきノルが俺たちの分の珈琲のおかわりを淹れて持ってきた際、珈琲代わりに持ってきたバニラアイスにテーブルの端にあったナッツとリコリスを散らして混ぜて一口ぱくついた。
テーブルの上に丸まっている飼い鳥が主人に同意するようにグヴォーと牛みてぇな声で短く鳴き、アイスはそれの首輪代わりにしてるリボンを結び直してやることにしたらしい。
ちょいちょいと弄っている彼の言葉に取り敢えず何かしら返さなないことには拗ねそうなんで、読みかけの頁を折って栞代わりとし、本を閉じる。
それを軽く上下に振りながら頬杖を付き、アイスへ向けてやった。

「いーべな別になーんもなくてもよー。まったりする時間ってのは貴重だぞ~」
「…て言うかあんたいつまでいる気。本読むなら自分家で読めば。何で居座ってるのか意味分かんない。超迷惑」
「うおう。なんだなんだあ、冷てぇなぁ。おめん家じゃなかっぺな、ここは」

言葉を返した途端、嫌そうな目でアイスが俺の方を睨み、矛先が向けられたところで冗談交じりに眉を寄せ、今度こそ苦笑しておく。
むっとした顔で一瞬黙った後、彼は隣に無言で座っていたノルへくりっと顔を向けた。

「…迷惑だよね?」
「迷惑」
「ほら」
「あーへいへい。そーけそーけ…」

呟くだけだがしっかりとした兄の同意を得て、改めてこっちに非難の視線が飛ぶ。
ぱっぱと片手で払ってから、片腕をテーブルに乗せ身を乗り出して訪ねてみる。

「そっちこそいつまでいんだい?」
「は? 何でそんなのあんたに言わなきゃなんないわけ」
「あははは。いや、別に言いたくねんならええけどよ。ここもおめん家みてぇなもんだかんな。こーやって3人でいれっとえれえ落ち着くしよー。何か昔に戻ったみたいな気ぃすっよなー。なるべく長い時間一緒にいてぇべな。…なあ、ノル?」
「…」
「何一人で浮かれてんの。馬鹿じゃない。…付き合ってらんない」
「お?」

両手をテーブルに着いて、アイスが席を立つ。
飼い鳥がばさりと翼を広げてその肩に留まってすぐ背を向けてしまった。
ちょっとばかし弄りすぎたか。
不機嫌になった訳じゃないのは見て分かるが、恥ずかしくなって逃げ出す気になっちまったらしい。

「おーい、アイス~?」
「知らない。…もう寝る。遅いし」
「ええけど、そんなら兄ちゃんにちゃーんとお休みさしてかねーと。もう寝んだっぺ?」
「…」
「……」

言ってやると、少しの沈黙の後むすっとした顔でのろのろと歩き出していた数歩分戻ってきた。
背を屈め、ノルの頬にキスしてさっさとそっぽ向いて離れる。

「やすみな~!」

ぱたぱた遠くなっていく足音に本を持った方の手を軽く挙げ、振って見送った。
足音が聞こえなくなって俺が片腕を下げると、それまでも大してうるさくなかったが、更に場に静寂が降りてくる。
アイスがいなくなった方から正面に視線を移し、ちょいっと本を持ち上げてみせた。

「おめはどーする?」
「…何が」
「寝るんか?って。もう結構時間遅ぇぞ」
「……も少し」
「そけ?」
「ん…」

さっきから延々何考えてんだか知らないが、大体予想は付く。
…やっぱいいもんな、こーゆーの。
噛み締めたくなる気持ちは充分すぎる程よく分かる。
去年の年末はCOPでごたごたしてたり落ち込んでたりしたが、年始めまったりできてかなり嬉しい。
なーんも無くていい。
不景気だ何だって色々政策も追われてるが、何だかんだで取り敢えずこうやってぼーっとする時間があるってのは何よりも尊いことだ。
俺もも少しぼーっとすっか、と、テーブルの上から肘を離し、足を組み替えてから再び本を開いて膝に乗せた。
そこではたっと思い至り、顔を上げる。

「…なあ、ノル」
「…?」
「Jeg elsker dig」

いつまで経っても見慣れてなんかない蒼い双眸と合ったところでにっと笑いかけてみる。
傍に速攻飛び道具になりそうなカップやら雑誌があったが、今は不思議とそれらが飛んでくることはないだろうという自信があった。
たいした反応は臨めず、綺麗な目は同じ色した窓の外の夜空へ向いてしまう。
…んで、反応を諦めかけた頃に本当に小さく一言、いつもの、知らん、が返ってきた。
顔緩めると流石に何か飛んでくるだろうから、会話はそこで終わらせて本のページを開くことにした…が、2ページ程読んだ所で手持ちぶさたに負けて顔を上げ、ぱたんと本を閉じてテーブルにちっと勢いよく両手を着くと、イスから腰を浮かせ、顔を寄せてキスしておいた。

Jeg elsker dig



昔、まだ俺が悪ガキだった頃。
神鏡と呼ばれる北の海の海角に座る姿を見て本気で女神かと思って神具を捧げていた。
夕刻のフィヨルド。
朱と紫の世界になる夏の白夜。
虹色のオーロラ。
高い高い冬の星空と紫の世界、極夜。
透度の高い海はそれらを絶えず写し揺らめき、全てを2倍にして美しい絵画とする。
彼一人眺めているだけで、世界の美しさの大半を見ているように思う。
そんな親友と一緒に過ごせる新年は、どんな不景気だって良い年始めと言えるだろう。
…ってことで。

Happy New Year,Min lovers & bedste venner.



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いちゃいちゃらぶらぶ。
2009年は丁さんちでCOPがありましたね。
2011.11.23






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