一覧へ戻る


「ノールー!」

俺の名を呼ぶ大きな声を聞いて、読んでいた絵本から顔を上げた。
丘の上の一本杉。
まだお互い自分の存在すらよく分かっていなくて、それよりもただ遊ぶ方が楽しかった頃、待ち合わせは互いの家の真ん中辺りにある丘の上だった。
丁度今読んでる絵本の中に出てきてもおかしく無さそうな巨大な杉の下に腰掛け、木陰で読んでいた本を閉じずに顔を上げる。
俺の周囲に広く浮いて思い思いに遊んでいた妖精たちは、向こうからぱたぱた走ってくるデンへ、逃げるように左右へ道を開けた。
赤いマントとその下の白い衣を風に長引かせ、両手一杯に白い花を持っていた。
勢いに任せて走るもんだから、一つ二つと風に持ってかれて後ろに流れて落ちるが、たくさんあるからか気にした様子もない。
抑も、そんな些細なことを気にするような繊細な神経は、この阿呆にはその頃から無かったのかもしれない。
傍まで駆けてくると、その手は遠くで見るよりもずっとたくさんの花を抱えていた。

「ほれ、見ちみろー。綺麗だっぺー?」
「…なん、そら」
「エルダーっつんだ。おめも知ってっぺ? …っと。そだ!髪に差してやっかんな~」
「…」

許可無く片手を伸ばすと、俺の左髪へ、そのちっともしゃもしゃしたような純白の花を挿す。
差した後でちょいと角度を整え、その後で髪を撫でられた。
いつものことではあるが、そのいつものことがガキ扱いされてる気がして気に入っていなかった。
…とはいえ何も言えず、小さく首を竦め、袖の中に入れた両手を軽く口元に添える。
撫でていた小さな手を離すと、奴は満面の笑みで笑いかけた。

「よっしゃ。そろそろ帰っぺ」
「…」
「あ、帰るっつーか、俺げんとこな。勿論おめも来な。折角これこんなゲットできたしよ!」

そう言って、デンは両手一杯の花を前に突き出した。
丘を下り出す彼を見て、読んでいた大きめの本を閉じてその背中とあんま距離が開かないよう付いていく。

「…それ、何すん。飾ん?」
「んー?これけ? 酒作んに決まってっぺな~」
「…酒」
「おめにはジュースな。…待っとけよ。すんげえ美味ぇもん作ってやっかんな!」

デンの三歩分後ろを歩きながら、彼がぽとぽと落とす花を拾える限りで拾っておく。
やはり当初から、抱えていた量に無理があったのだろう。
奴の家に着く頃には、全体の三分の一は俺も持ってる状態になり、高いテーブルの左右にイスを引っ張ってきてはそれに乗り上げ、二人で両手一杯の花をキッチンのテーブルへ広げた。
ふわりと花の甘い香りが部屋中に広がり、俺の連れてた友達は思いきりはしゃぎ回る。
順番に端から水で洗うのは手伝ったが、レモンを切るのは俺じゃ危ねえだとかでやらしてくれなかった。
横でナイフをくるくる回して見せられ、素直にすげーなと思って拍手したらかなり大技をやってのけ、誤って床に落としたナイフがぶすりとフローリングに音を立てて刺さってからは、大人しく途中だったレモンを再度切り始める。
洗った花とレモンを大きな瓶に入れ、たっぷりの砂糖と甘味料みてえなのをいくつか入れて、最後に上からお湯を口いっぱいかけていくのを、テーブルの顎と両手を乗せてじっと見ていた。

「これでおっし…と。数日待っとけな。できたら、おめに一番にご馳走してやっからよ」
「…ん」
「一人でそっから降りれっけ? …ちっと待ってろ」

当時はイスと言えど、ガキの背丈には高さがあった。
先に向かいのそれから飛び降りて、テーブルをぐるりと周り、デンが俺の乗っかってる横へ来ると両手を差し出す。

「ほれ。手ぇ貸してみ」
「…」

その手を握って、少し躊躇った後で、ぴょんと俺も飛び降りた。
その日は、それから俺んちよりも書物の多いデンの家で絵本を読みあさって終わり、一瞬一瞬がそれなりに楽しくて、帰る頃にはジュースのことなど忘れていた。

数日後。
確かに奴は花のジュースを俺にくれた。
味はよく覚えていないが、美味しかったと思う。
それよりも印象的だったのは、奴がジュースを注いだ二つのグラスのうち自分の分の方にだけ、どぽどぽ景気よく炭酸とアルコールを足していたことだ。
同じグラスにしっかり同じ水量。
とはいえ中身は全く違う、二つの花の飲み物。

「落とさねーで飲めよ?」
「……俺も」
「あ…?酒け?? あははっ、ダメだってえ!おめえにゃまだ早ぇかんな。もちっとでっかくなったらな~」
「…」

ちょっと覗き込む程の体感サイズであるグラス。
その中にある水面が、静かに揺れていた。



Når en nydelig blomst uegnet til meg



…などという昔の夢を見た。

「…」

ベッドの上で横向きに寝転がったなったまま、くしゃくしゃになった掛け布団の中でぼんやりと枕とシーツの皺を眺めていた。
…暫くそのままでぼーっとしていたが、短く静かな息を吐いて、のそりと漸く身を起こす。
特別早起きでもなければ、特別寝坊助でもない。
休日を無駄にしない程度に睡眠を取ったような、そんないい時間帯に起きた。
両足をベッドから下ろして伸びをする。
寝間着のまま立ち上がり、目を擦りながらシャワーを浴びようと一度はドアへ向かったが、その前に部屋のカーテンを開けることを思い出し、最寄りの窓際へぺたぺた素足を進める。
シャ…!と音を立ててカーテンを開けると、弱い朝日が部屋へ差し込んだ。
…ええ天気。
今日は何すっかな…。
ぼんやりそんなことを考えながら、片手でカーテンを掴んだまま暫く行動停止していると、ふと屋敷下の庭で歩いている人影が見えた。
誰かと疑問を持つまでもない。
あの癖の強いツンツン頭と長身と…つか、こんな早朝にびっしり仕度整えて、朝っぱらから休日満喫するような奴はこの家では…。
…。
いや、あいつしかいねえ訳じゃねえか。
ここんちの連中はあの阿呆臭ぇ一応の主人を始め、バトラーからメイドからガーデナーに至るまで早起きだ。
お陰で、まるで泊まりに来てる俺が寝坊助に見える。
…少し考えたが、窓を開けて狭いテラスへ出た。
季節は夏なんで、今の時期、ハーブの多い庭でも花があちらこちらに咲いている。
まめに手入れしてるからか、それなりに綺麗ではあった。
テラスの手摺りに両腕を乗せ、うち片方で頬杖を着く。

「…♪」
「…」

気付かねえで、片腕に小振りの何ぞメルヘンチックなバスケット通して鼻歌なんぞ歌いながら歩いてる阿呆が来た方へ視線を投げると、屋敷の傍にある森の方から歩いてきているようだった。
…まさか朝っぱらから森へ散歩へ行ったんだろうか。
そしてこの時間に帰ってくるような早い時間に散歩へ出たのだろうか。
ようやる…と思いながら、旋毛の上からじっと睨んでみるが、一向に気付かない。
そのまま通過して裏口から屋内に入りそうなんで、仕方ねえから一旦部屋へ戻り、ぐるりと周囲を見回した。
手頃なものは無いかと探したが、あんま無くて、結局ベッドの足下に蹴り退けていたクッションになる。
むんずと右手で握ると、再びテラスへ戻った。
裏口は奇遇にも、俺が泊まっとる部屋の真下にある。
クッションを両手で持ち直し、手摺りから腕を伸ばして標準を合わせ、じっと下を見て待ちかまえること数秒。
阿呆が裏口へ続く数段の階段を上りきるタイミングを狙って…。
ぱっ、と手を離した。
…当然、クッションは重力に従って落下をし、

――ぼこっ。

「あでっ!」

阿呆の脳天に命中した。
…胸ん中で短く口笛を吹いておく。
タイミングバッチリ。
ん…。流石俺。
命中したことに満足し、両目を伏せて身体の力を抜くように一度小さく息を吐く。
突如頭の上からクッションが落ちてきたってんで、阿呆はまず頭を撫でながらその辺に落ちたクッションを一瞥し、それから真上を見上げた。

「んお!ノル、起きたんけー? おっはー!よく眠れたけ?」
「…ぼちぼち」
「そーけ!」

へらへらと右腕を伸ばして振ってくる奴を頬杖着いて見下ろし、半眼で一度こくりと頷いておいた。
伸ばしていた腕を下ろして腰に添え、嬉しそうに笑う笑顔に小さくため息を吐いて、ちっと手摺りから身を乗り出した。

「…散歩?」
「おう!酒作ろうと思ってよ。夏だしな。…ほれっ。エルダー見えっけ?」

そう言って、阿呆が片手に提げていたバスケットの上から布を除き、底を右手で掴んで軽く持ち上げた。
バスケットの中には確かに白いくしゃくしゃした、夏の代名詞たるエルダーがわんさか詰まっている。
ほぼ毎年のことだが、去年は奴が忙しいとかで作らなかったらしくお裾分けも無かったんで、花自体はその辺の木に咲いているが、ちゃんと見るのは随分久し振りな気がした。

「待ってろよ~。今作ってやっかんなー♪」
「…」

馬鹿みてえに笑うと、上げていたバスケットを下ろしてその上に布を被せ、その辺に転がっていたクッションを拾い上げると軽く叩いて土を落とし、端っこ抓んだまま裏口から屋内へと入っていった。
パタン…とドアが閉まる音の余韻が完全に消えてから、視線を上げる。
のどかなこの家の庭の夏は、俺んとこよりもちっとだけ長い。
…。
正夢…か。
何となく億劫になり、再度小さくため息を吐いた。

 

 

 

シャワーを浴びて着替え、髪を梳かし、いつもの場所に髪留めを差して香水を付けてから階段を降りる。
メイドに朝食を勧められたが、断ってキッチンの方へ向かった。
キィ…とキッチンのドアを開けると、無駄に広めの調理室のうち、シンクんとこでこっちに背を向けてた阿呆がすぐに気づき、振り返る。

「お、ノル~。降りて来たな。朝飯食ったけ?」
「…いんね」
「駄ぁ目だっておめ、しっかり朝飯食わねーとよー。…何か作ってやっけ?」

阿呆の疑問文を無視して、壁際にあったイスを引き寄せると調理台の横に置いた。
そこに腰掛けながらざっと見回す。
台の上には大きな瓶がでんと置かれており、後は端っカスみてぇのがちらちら。
既にゴミ取りは終えて、綺麗な部分だけを洗っている最中らしい。
流しの方へ目をやると、丁度奴が洗い終わった花を詰めたザルを振っているところだった。
…いつも料理すっ時にするギャルソンエプロンも付けてねえ辺り、エルダージュース作りは奴にとって朝飯前レベルの料理なのだろう。

「よっ、…と!」
「…レモン切っとくけ?」
「あ?」

水で洗われしんなりした花の詰まったザルを、俺が頬杖着いてる調理台の方へと持ってくる。
奴がザルの底を着くと同時に、俺の方が両手を台についてイスから立ち上がった。
手を洗いに今まで奴がいた流しの方へ向かう俺へ、阿呆が肩越しに振り返る。

「危ねえべ? 俺やっからええって」
「…」

水で両手を洗い、包丁とまな板を用意する。
冷蔵庫からレモンを取り出してまな板の上へ数個頃がしたところで、阿呆が寄ってきた。
気にせず、レモンを一つ置いて左手で押さえ、右手で持つ包丁を差し込む。
あんま難しい切り方はできねえけど、スライスくらいは勿論できる。
…だっつーのに、横で片手を台の上に着き、もう片方を腰に添えて阿呆が横から曖昧な声で俺の手元を覗き込む。

「レモンって滑っぺや。だいじなんけ?」
「…」
「左手爪前に出さねーで、猫手にすんだかんな? な、ノル知ってっけ? 猫手!指切らねーよーにしろよ?」
「…」
「つか、包丁変えっぺ!それ俺が使ってるやつでよ、むっちゃ研いでて切れっちゃーから。ほれ、もっと鈍いガキ用のがどっか……ふぐっ!!」

左肘でやがましい阿呆の横腹を打っておく。
…横でぎゃーぎゃーぴーぴーうっせえな。
手元狂うべ。
俺が一発入れたお陰で阿呆が数歩蹌踉けて後退している間に、改めて黄色い果実に包丁を入れる。
全然って訳じゃねえけど、確かにあんま包丁握ったことねえから、それなりに慎重に。
…つってもただのスライスだし、さくさく切れっけど。
最後んとこがちっと押さえんの難しかったが、トントンと一個目のレモンをスライスし終わった所で、復活してきた阿呆がいつの間にか再度俺の隣に立って手元を見下ろした。

「お。うめえうめえ!」
「…」
「偉ぇな~ノル。レモン一人で切れんけー!」
「うっせえ」
「ぐおッ…!?」

何か腹立ったんでもう一発入れておく。
それから、二個目のレモンをまな板の上へ置いた。
数個のレモンを切り終わる頃には、包丁で板を叩くトントンという音が気に入り始めた。

 

作り方は何十年経っても一緒だ。
この先何百年経っても一緒だろう。
大きな瓶に花とレモンを敷き詰め、砂糖と甘味料や香り付けを足す。
それからお湯を回すようにかけて…。
このまま荒熱を取る必要があるが、取り敢えずした準備は完了だ。
最後の甘味を入れてから両手を洗った所で、パン…!と阿呆が大きく手を打った。

「よっしゃ!後は待つだけだな!」
「…数日だったべな」
「そ!できたら、おめに一番に飲ませてやっからな」
「酒を?」
「あ…?」

毎年毎年、耳にタコが出来るくらい聞き続けたそのフレーズ。
そこで意図的に尋ねてみた。
調理台挟んだ向かいのイスに腰掛け、再度頬杖着いてた俺の呟きに、阿呆が一瞬瞬く。
それから、当然という顔でくしゃりと笑った。

「なーに言ってん!酒なんか飲んだら酔っちまうっぺ。おめえにはまだ…」
「もう平気だべ」
「う?」
「…ガキじゃねんだから」

笑顔すら無視して、務めて気怠くさり気なく呟やくと、阿呆は再度一瞬瞬いた。
体格に似合わず大きめの双眸が、満面の笑みを引っ込めてはたりと俺を見たのが分かったが、敢えてその目と合わないよう、台の上に転がっていた調味料ケースの中のガラス瓶を、無意味に指で弾いてみる。
…暫くそんまま沈黙だったんで、いい加減ちろりと視線を上げると、右手を顎んとこ添えてじっと俺の方を見たまま動かなかった。
反射的に、半眼で睨む。
…。

「…。そーいやぁ…」
「…なん」
「おめえ最近、すんげえ別嬪になっちったもんなあ」

などとほざいた瞬間、右手が無意識に指で弾いていたガラス瓶を掴んだ。
そのまま軽く振りかぶり、正面の眉間狙ってぶん投げる。

「ぬおっ…!?」

スコーン…! と、気持ちの良い音を立てて、ど真ん中に命中した。
瓶はどっかその辺に転がり、速攻赤くなりつつある眉間を両手で押さえて阿呆がよろりと二歩ほど後退して前屈みになる。
その間に、調理台に両手を付いてイスから立ち上がった。

「ぐぉぉぉおおおおお~…!!」
「…馬鹿じゃねえの」
「あ? …あ、おい!ノルー!?」

吐き捨てるように呟いて、片手でイスの背持って元ある場所へ戻し、背を向けたまま振り返らず部屋へ戻ることにした。

 

人気の少ない、趣味のいい廊下を大股でざっくざっく歩いていくと、向かいからさっき朝食どうだとか言ってきたメイドが洗濯物の籠を抱えてこっちへ向かって歩いてきていた。
一歩脇に退いて軽く頭を垂れる彼女の傍を、別に何事もなく擦れ違おうとしたところで、彼女が不意に少し驚いたような顔を上げる。

「まあ、Norge公。どうなされました?」
「…?」
「お顔が赤いですよ。熱でも……あ、Norge公!?」

尚も大股で廊下を歩き、一段飛ばしで階段を上がることにした。
部屋に戻ってソファに腰を下ろしたり鏡を見るその前に、厳重に鍵を掛けることを忘れはしなかった。

 

 

数日後。
シャワーも浴びて、さて寝るかというタイミングで部屋のドアがノックされた。

「眠ぃんだったらええんだどよー。折角おめが飲めるっつーんなら、付き合ってもらっちゃーかな~ってな、思ってよ!」

ドア開けてまず無邪気な笑顔を突き付けられ、半眼でため息を吐く。
日中と違って、タイ無く適当に留めたボタンと寄れた背中のシャツの皺を追って、あんま足を伸ばしたことのない最上階へと階段を上っていく。
最上階の奥にあるドアが小さなスペースのテラスへ繋がっていることを、この日初めて知った。
いくつかの植物プランターがその辺に趣味良く並んでおり、雨に濡れないような場所に、本当に小さな、数冊しか入らねえような本棚もある。
その真ん中にアンティーク調の小さなテーブルセットが鎮座していた。
クロスの敷かれたテーブル上には、空いたワイングラスに移された例のエルダージュースと、普通のワイン、炭酸水、チーズやサラミなどが行儀良く並んでいる。
明るくもなく濃くもない藍色一色の空に浮かぶ月が、星が、割り当てられた部屋の窓から眺めるよりも、随分近い空にあった。
見るからに完全なプライベートテラスだ。
…ぼんやり斜め上の月を見上げていると、隣で阿呆が両手を腰に添え、ふんぞり返って胸を張った。

「どーだ!えがっぺー? 俺の秘密基地なんだわ!」
「…」
「おめだけ特別だかんな♪ …ほれ。こっち来ちみろ」

ドアから離れ、一足先に阿呆がテラスへ踏み込む。
二脚あるイスのうち、片方のイスを引いて示されたんで、たらたら歩いてそこへ腰掛けた。
向かい合うもう一脚へ腰を下ろし、空のグラスへエルダージュースを控えめに注ぐ。

「どんくらい飲めるん?」
「…さあ。…おめえと同じでええわ」
「そーけ?」

グラスに半分くらい注いでいたエルダーに、ワインを足していく。
遠慮無くぶっこむその感じにちっと内心入れすぎだべ…と思いもしたが、口に出すにはプライドが邪魔をした。
阿呆に飲めんだから、俺に飲めないわけがない。
たぶん…。
マドラーで軽く混ぜてから、グラスの一つを俺の方へ差し出した。
俺が受け取ると、そのまま片腕をイスの背にかけ、自分もグラスの下へ指を添えたまま小さく笑う。

「まさかおめえと酒飲める日が来るとはな~。…って、当然け。ずっとガキのまんまじゃねーもんな」
「…当然だべ」
「…」
「なん…。ガン垂れんな」
「いや、何かアレだな…。ホント、いつまでもガキだガキだと思ってたけっど、何つーか…。…」
「…」
「んー…。……ま、えーか!飲んべ!!」

唐突とも呼べるテンションで、デンがグラスを持った右手を上げる。
小さくため息を吐いて、俺も軽くグラスを上げた。
…次の言葉を期待しなかった訳ではないが、それでも正直、今はまだそれが得体の知れない恐怖心と釣り合う程度には不安でもあった。

「Cheers!」
「…Cheers」

カン…と小さくグラスを打つ。
思った以上に澄んだ音が、鈴の音のように夜空に響いた。

可憐な花を髪に差すような歳では無くなった。
白い花を飲んで酔うような、そんな存在なのだと気付いたならばそれでいい。




一覧へ戻る


カウント3333番取得者様へ。
リクエスト「丁諾」、ありがとうございました。
早速書かせていただきましたー。
いつもとはちょっと切り口の違う丁諾のお話をお楽しみ頂けましたでしょうか?
初めてのリクエストでしたので楽しく書かせて頂きました。
リクエストしてくださった方のみお持ち帰りOKです。
また狙ってくださいね( ´艸`)
2012.9.19

 






inserted by FC2 system