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死んでも口にしないが愛してた。
海上で一戦交えた時から焦がれてた。
口数少ないのはお互い様。
だからこそ飾らなくて良かったし相性は二重丸に思えた。
それなりに親しいつもりだった。
誰よりも親しいつもりだった。
けど、とある野蛮な隣人が乗り込んできたその時に…。

「ひ…っ!?」
「フィン…!」

寡黙な彼が真っ先に身を挺し、その両腕で庇ったのは俺ではなかった。
…俺ならひとりで大丈夫だろうと、力を信用して庇わなかったのか、それとも危機的状況において無意識に彼の中の優先順位が出たのかは定かではない。
聞いてないから。
理由は今更だ。
どうでもいい。
…ただ、その時はそれが酷くショックで。

「ちょっと!止めてよ!!お兄ちゃんに触らないで…!」
「だーもー。うっせえな。あんましごちゃごちゃ言ってっとぶん殴んぞ」
「もう殴ってるじゃん!最低!最悪…!!もう何でもあげるから勝手に取って出てけば!?」
「…」

立つ気力もなかった。
俺の胸に額を寄せて声を上げる氷島が震えて泣いているのは分かったが、庇ってやることすら思いつかない程だった。
最低だと思う。
…ぼんやり床に座り込んでいた所を不意に上から片腕を掴まれ持ち上げられたが、全く身体に力が入らなかった。
糸が切れた人形のように座り込む捕虜は連れ出すには厄介だっただろう。
二言三言立つように促されたがよく理解ができなかった。
頬を叩かれたが、少し前まであったはずの恐怖心すら消えていた。

「…ったく。しゃーねえなあ…。ほれ。おめえも退けな、ええ加減」
「…っ!」

暴力的な隣人は一度頭を掻いてから、氷島を突き飛ばし、左手で俺の首を掴んでから右腕を引いた。

「止……!」

氷島が止めてと言い切ったかどうかは分からない。
肋骨の真下をに的確に拳を入れられ、そこで暗転した。














整えられた一室。
煌びやかな衣類に装飾。
毎日変わる部屋の端に生けられた花々、香水と細かい模様が彫られた砂糖菓子。
Mのつもりはないし、博愛主義でもない。
我が儘で傲慢で強欲で野蛮で心の底から嫌いだった。
好きになんてなる訳なかった。
心動くとか有り得ないが、躾け込まれた躯が疼く。
虐めの趣味が悪い。
どうかしてるとしか言い様がない。
服を脱がされるのが嫌で自分から脱いだ。
別に好きにしてくれて構わないが唇にキスされるのだけは嫌だった。
全く必要ない。
無論愛などないし気分を盛り上げる必要もない。
ただ暴力的な隣人が溜まった時に来てその処理に付き合ってやればいいだけだ。
頻度なんて気にしたことがなかった。
心からどうでもよかった。
相手に不自由しているらしい哀れな彼に勝手に触れさせて、言われたことをすればいい。
それが氷島の無事と繋がるのなら尚更だ。
心を殺すとかそんな必要ないくらい淡々とできたのは、よっぽど相手のことがどーでも良かったからに他ならない。
そんなことよりも失恋だ。
…彼は今どうしているだろう。
別に心の底からって訳じゃないが、それなりに愛してた。

「…疲れっけ?」

シーツに伏してぼーっとしてると、隣で頬杖着いて笑ってる隣人がぽつりと言った。
首から提げた大粒の飾りはこの間と違う。
今度はどこから奪ってきたのか。
さっきまで垂れ下がるトップの飾りがこつこつ首筋に当たって鬱陶しかった。
取れよという話だ。
…じっと首飾りを睨んでいると何を勘違いしたのか、両肘着いて自分の首からそれを取ると俺の首にかけ、額にキスされた。
投げ出していた片手を持ち上げ、その顔をやんわり拒否する。
大概のこういった反応に嬉しげに笑うあたりが気に食わない。
続けて首筋を軽く吸われ、深く息を吐いた。
…一晩に一度交われば十分だろうに、品のない。
げんなりしてくる。

「連日じゃ飽きっけ。 …まあ勘弁してくれ。また少し出てくっから、それまでな」
「…」
「何かリクエストがあんなら何でも聞いてやんぞ」
「…何でも?」
「ああ。何でも」
「抱くん止め」
「それ以外」
「…」

…使えな。
ため息付いて頬に張り付いてた髪を払う。
少し考えて…。

「…。…そんなら」

与えられるものは基本受け取らなかったが、その時返したのは何というか…こっちの心が落ちてたタイミングだったからとしか言い様がない。
弱さを見せてるようで今思うとかなり屈辱的ではあった。

「最中一言も話さんで。…そんで」

枕に鼻先を埋めて目を伏せ。

「…目隠ししてぇわ」
「…」

小さな声で主張してみた。
…隣人は、妙に遅い反応として身を起こし、それからいつも肩に提げているサッシュを持ってきた。
金銀の色合い。
細かい刺繍。
…。

「ほれ」

ベッドに横たわったまま動こうとしない俺を咎めない辺りが適当過ぎる。
黙って目を伏せて軽く顎を上げると、冷たい、少し厚手のサッシュが現実を覆ってくれた。
…夢くらい見たい。
現実じゃ無理なんだからそれしかない。
あまりしたことはなかったが、妄想の世界に入るにはコツがいるらしい。
階段を上手く降りていけず始めの頬へのキスは相変わらず不愉快だったが、一言も喋るなというのが良かったのかもしれない。
若しくはさっき軽く飲んだアルコールのせいかもしれない。
時間の経過と共にゆっくり踏みしめるように、一段一段降りて行けた。




変な話だが、“彼”が誰かを抱くという想像はそれまで全くできなかった。
正直、想像しようとしたことは何度かある。
何度かとか言ったところで実際3回程ではあるが…。
けど、何れも失敗に終わって諦めていた。
…眼鏡は取るのだろうが、キスくらいなら邪魔にはならない。
だからどのタイミングで外すのかとか、あの性格からして部屋は暗くするだろう、などといった、利己的な妄想にすら至らない想像・予想レベルの幼稚なものしかできなかった。
…相手がいるとかなり違う。
汚く酔えた。

「ん…。っ…」

鼻から甘い吐息が抜ける。
世界を黒で塗りつぶした状態で手を引かれ、ベッド横の床に膝立ちになった所で手を離された。
再び額に上からキスを受け、それである程度の予想をつけてそっと手を伸ばし、目の前にあるであろう相手の膝の位置を確認してその上に肘を置く。
両足間にあるそれに口付けて、少し舌を出し、先端をその上に乗せるようにして添えてから、ゆっくり口に含んだ。
臭い程の雄の匂い。
強めに吸うと一回目の残りが少し喉の奥に流れた。
香水も違うし完全には惑えない。
…けど十分だ。
欲情が何とかしてくれる。
途中何度か苦しくなって止まっては一息ついてまた呑み込む。
本当に品性の欠いた音であまり好きではない水音。
まるで幼児がくちゃくちゃ音を立てて食事しているようなその音が嫌いで、なるべく立てないよう気を配りながら口の奥へ進ませ、喉で擦る。
頭上での低い息遣いが背中を粟立たせた。
それでいい。
きっとそうだ。
日常であれなのだから、彼は行為の中でも何ひとつ喋るまい。
何も喋るなと言わなければ時折べらべらくっちゃべるどこかの煩く下品な馬鹿と違い、それは静かに甘受する。
もっと言うと、恋人にフェラなどさせないかもしれない。
相手に負担がかからない必要最低限を、時間をかけて進ませる。
きっとそんな感じだ。
けど毎回それじゃ退屈で、時には俺から強請って制止を振り払い押し通す。
それが実に愉快だったりする。
…馬鹿みたいな妄想に躯が疼き、苦みから口を離して顔を上げた。

「…」
「…? っ…!」

手探りでシーツに着いてた相手の手を探し、甲に掌を重ねて膝立ちのまま背を伸ばし、相手の心臓へ下から唇を寄せてキスすると、相手の息が詰まったのが分かった。
止めろ、そんなことはしなくていいという幻聴が聞こえ、思わず口元が緩んだ気がしたが実際端から見てどうだったのかは分からない。
とにかくその幻聴に得意気になり、膝を床から浮かせると相手の両端間に片膝を乗り上げ、肩に両腕を回して喉仏を狙って吸い付いてやった。
困り顔が目に浮かぶ。
…いつの間にか闇の中、幸せの絶頂にいた。
困惑する寡黙な恋人をその気にさせようと誘い散らす。
喰い付いてみろよと煽ってやる。
ここに来てどれ程自分が彼のことを愛しているのかの認識を改めなければならなくなった。
ただの隣人でなく特別になりたい。
別に頬の筋肉が凍り付いてる訳じゃないだろう。
笑顔ができない訳じゃない。
現に口端を緩める程度なら過去2回くらいは目撃したこともある。
いつでも、ちょっとしたことで俺だけにそれを見せてくれるような、そんな特別になりたかった。
同じ隣人なら、東隣より俺の方が些か魅力的だと思うのだがどうだろう。
上司に言われてたからとか、そういうのではなくて本当に俺は昔から…。
…。

「…Sverige」

堪らなくなって、そっと名前を呼んでみた。

「…」
「Jeg elsker deg…」

名前を呼んで愛してると囁いて、頬に片手を添えてそこにキスしようとした瞬間。

「…!!」

が…っ!と左の二の腕が掴まれ、真横に勢いよく放り出された。
ベッドヘッドに後ろ肩をぶつけ、咳き込む間もなく今度は逆に強く腕を引かれ前のめりになったところに、正面から右肩を押さえつけられ、仰向けにベッドへ縫い止められた。
軋むどころじゃない。
あまりの強引さにベッドが揺れて悲鳴を上げ、痛みに顔を顰めたと同時にば…!と。
目を覆っていたサッシュが掴み取られた。
前髪も少し巻き込まれ一瞬かなり痛かったが、掴み取られたサッシュが背後に勢いよく投げ捨てられてから顔を詰めてキスされるまでのその間、何か面白い表情を見た気がした。
…が、直後のキスの嫌悪感にそんなことはどうでもよくすぐさま忘れる。

「こん…っ、ざけ…!」

口へのキスは本当に嫌だった。
上から強引に寄せられる唇から逃れようと何度も顔を横へ背けて暴れたが、片手に顎を捉えられ無理矢理なキスが続く。
入り込んで中を犯す舌に吐きそうになった。
後ろに挿れられるのとは比べものにならないくらい拒絶反応が出る。
両目を力一杯瞑って顔を顰め、必死になって押し返そうと相手の肩に手を添え藻掻いた。

「っ…、…!」
「…」
「ッ…っぱ! …ぁは…はっ……」

漸く唇が離れ呼吸が戻ってくる。
顎を上げて深海から浮き上がったかの如く酸素を求めたのも束の間。
顎を捕らえていた片手が離れるのではなく持ち直され、ぞっとする間もなく2度目のキス。
両腕を曲げて顔の前を覆ったが無駄だった。
あっけなく手首を取り上げられる。
…夢と現実の格差に泣き叫びたくなる。
何でもいいとか言ったくせに、これだから嫌いだ。
誠実さに欠けすぎている。
詰まる所は「大嫌い」というやつだ。
せめて目隠しをしたままキスすればこいつ相手でもそれなりに悦くできそうな気がしたがもう遅い。
喉を掴まれ、躾をくらう犬のようにシーツに押し伏せられて後はもういつも通り。
途中から早々に諦めた。
まず俺が動く気などさらさら無いので当然といえば当然だが、よくもまあ人の躯で勝手に遊んでくれる。
きわどい場所を素手で触れられれば感じるのは当然だし、濡らされれば勃つのは当たり前で何の不思議もない。
正面は角度キツイし顔も見たくないからできればバックが良かった。
…今は俺の首にかかってる首飾りが垂れ落ちてこないだけ先程よりはマシだが。

「……」

…耳元で荒い息が続く。
獣みたいな息遣いが心底果てしなく耳障り。
無視して一方的な律動に身を任せつつ、ぼんやり天井を見る。
…この部屋の天井の模様は、実を言うとあまり嫌いではない。
その分、俺と天井の間にいる影が邪魔でしかたない。
霧散した夢の代わりに嫌な顔と屈辱的な現実。
あそこまでノってた気分が瞬時に冷めるあたりが我ながら凄い。
まあ、それでも2度目は躯が敏感になっていることもあって早く終わりそうなので助かった。
…早くシャワーを浴びて口を濯ぎたい。
腐りそうだ。
感覚を思い出すだけ喉が震えて胃液が出そう。
なるべく唾液を飲むのを控えた。

腰を掴まれ引き寄せられて深く挿り、絶頂が来て腹の中に熱い液体が流れ込む。
俺のも同時に果てはしたが、連日のお陰でそんなに量もない。
深く息をして疲労を訴えると、天を覆っていた隣人がぬっと顔を寄せた。
またキスされるのではと顔を背けたが、背けた顔に左右の頬を合わせ、形式のキスで留まったらしい。
数秒経ってすっとその身が離れ、横に仰向けに寝そべった。
片腕で目元を覆い、俺と同じように深く息を吐いて呼吸する姿を一瞥し、背けていた顔を向ける。

「…。…もう…降りてええべ」
「…おー」

間延びした許可を得て、両足をベッドから降ろして身を起こす。
…腹の中で液体が揺れたのが分かってもう最悪。
前髪を掻き上げ、片手で口元を押させた。
吐き気がする。

「…。なあ」
「…?」

声をかけられなければ一度として振り返らず、広い広い部屋の端。
バスルームへ続くドアへぺたぺた向かう所だが、珍しく呼びかけが飛んだ。
肩越しに今出てきたベッドを振り返る。
…少し待ったが。

「…」
「……」

結局、何も言い出さないので、ため息を吐いて再び歩き出した。
何も言われなかったから、どうせ大したことじゃなかったんだろう。








そんな関係は暫く続いた。
それが劇的とまではいかずとも6.6度くらいの角度を付けて変化したのは、とある静かな夜だった。

隣人は外出も多かったが、パーティの類がある時以外は大概俺の部屋に来ているらしかった。
繰り返しになるが、余り頻度など気にしたことはなかったので数える訳もなく、ただ、意識して迎えてみると確かに連日だった。
余程娯楽がないんだろうと呆れ果てつつ侮蔑しつつ、ストライキもせず真面目にやってくる夜を恨む。
…が、その日奴は来なかった。
時間もかなり遅く、人によっては明け方と呼ぶ時間帯に突入する。
時々あることだが、その日はたまたま眠れずに閉じこめられた一室で天窓を見上げ、月明かりを見詰め続けた。
美しい月光。
高い星空。
それらを見詰めてると時間が止まったように思う。
…氷島は無事だろうか。
何もされてないといいが…。
そんなことをぼんやり思っていた最中。

  __ばだんっ!!

と、勢いよくドアが開いた。
その音があまりに大きかったので、一体どんな不機嫌だと顔をそちらに向けたが、予想に反して例の暴君は不機嫌ではなさそうだった。
ただ、酷く…草臥れていた。

「…」

開いたドアを開けっ放しで、ふらりと一歩部屋に入ってくる。
俺が腰掛けるベッドに来るまで倒れて死ぬんじゃないかとも思ったが、怪我をしている訳でもなさそうだった。
よたよた左右にふらつきながら寄ってくると、目の前でぴたりと止まった。
服もマントも随分薄汚れていた…と言うか、何でマント羽織ってるのか意味不明。
式典でもない以上、室内では脱げよと思う。
両手をぶらりと足れ下げ、目は何というか…死んでる。

「…」
「…」
「…なん。どしたん」
「……………………………ねみい」
「あ? ……っ、ちょ…!」

一言言うなり、大木が倒れるように俺の方に倒れてきたので、ばっ…!と横に身を引いて横に飛び退いた。
コンマ違いで俺が座ってた場所に隣人が頭から倒れ込む。
ぼっふん!とベッドが揺れ、速攻だ。
鼾ではないんだろうが、それにしたって大きな寝息が立ち始める。
…呆気に取られ、少しの間ベッドの横に立ったままそれを見下ろしていた。
驚愕が消えてきた頃に舌打ちして背を屈め、マナーのなってない隣人のブーツを脱がせる。
勿論、これが俺のベッドでなきゃ捨てて置いた。
寝るだけなら自分の寝室行け。
殴ったり抱いたりしないんなら俺の部屋に来る意味なんて…。
…。

「…」

そこでふ…っと気付いたのは誤算でしかなかった。
気付かないままの方がどんなに良かったことか。
暴君の豪華絢爛な寝室は別にある。
疲れて眠るだけならそちらに行くのが普通であって、ここへ来る意味は全くない。
…行動を止め、俯せで眠ってる隣人を見下ろしながら、片手に持っていた重いブーツをぺっと横に放り捨てた。
2人入っても優に余裕のあるベッドだが、その日は隣にいたくなくてソファで寝た。







「…なあ」
「あー…?」

切り出すまでに3日かかった。
その夜も一方的に抱かれて疲れて眠くなって、お互いとろんとしてた時を狙ってみた。
身を起こしていた俺の隣で、隣人が枕を抱いて顔を埋めたままくもった返事をする。
相手の視線がこっちを見てないことを確認して、ちらりと隣を見下ろした。

「おめぇもしかすっと…。会いに来てん…?」
「あ?」

気怠げに隣人が顔を上げ、その目と合わないうちに顔を反らしておく。

「言ってる意味が分かんねえぞ」
「んだから…。俺に会いに来てんかって」
「はあ?? 何言ってんだ。当ったり前だっぺな。それ以外に何があん?」
「んなことと違ぇ」
「…?」
「…。んだから」

両肩を竦め、思いっきりため息を吐いてやった。
…少し間を開けて、選択肢を出す。

「“やりに”来てんか、“会いに”来てんか」
「へ?」

提示してやると、間抜けな顔が返ってきた。
数秒間の沈黙の後…。
短い小さな苦笑を機に、隣人の間抜け顔が真面目なそれに変わる。
再び枕に横頬を預け、投げられる視線が刺さる。

「…“逢いに”来てんだよ」
「…」
「何だ。知らねかったんけ。… 冗談だろ?」
「無理」

その言葉は脳に届く必要はなかったらしく、速攻で唇が否定を反射してくれた。
隣人が笑う。
それから、仰向けに返って何となしにシーツに置いてた俺の片手を取る。
柔らかく取る。

「んなこたあ知ってる。おめえが誰好きなんかも知ってる。…つーか、あすこまでやられちゃあ気付かねえ振りも無理だっぺな」
「…」
「けど駄目でよー…。愛してたし愛してるし、愛してく気満々で……ん。何かな、駄目なんだわ。…嫌悪でもええから取り敢えずこっちっ側見て欲しくてよー…」

取られてるだけだった手が握られ、シーツに肘付いた隣人がもう片方の腕を伸ばして俺の肩を抱き引き寄せた。
中途半端に体勢低くしてるのが辛くて、ぱたりと俺もシーツに落ちる。
懐はお互いもうある程度冷めてて、冷たかった。

「…Norge」

喉仏狙ってキスが来る。

「Jeg elsker dig…」

喉から顔を離した隣人と近距離で目が合い、突然呼吸が苦しくなった。
浅くしか息を吸えないその状態で、両肩に冷たい手が触れ、改めて顔が詰まり…。

「…」

目を瞑ってしまった。
一生の不覚だった。
俺のこれまでの一生の不覚ランキングを出したらぶっちぎりでトップを取るだろう。

forste kyss



ディープキスなんか今まで何回もしてきた。

けど、その時の触れるだけの幼稚なキスが、丁抹と初めてしたキスのように思う。



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ちょっとスパイス多めな感じで。
両想いじゃないうちはただの強姦だったでしょうからね。
2011.11.29






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