玄関の開く音。親に挨拶してる声。それから、階段を上ってくる音。次はノックなしで部屋の扉が開くって知ってるから、おれはゲームをスリープにした。いつもはクロが来ても続けてるけど、今やってるのはやりながら話したらゲームオーバーになると思う。
近づいてきた足音はおれの部屋の前で止まって、予想通り遠慮なく扉が開いてクロが入ってきた。
「よ」
「クロ、おかえり」
「おう」
おれが持ってるゲームの画面に光が無いのを見てちょっと驚いてたけど、クロの行動はいつも通りで定位置になってるおれの横に陣取ってくる。
「研磨、今日はどんな一日だったんだ?」
そしてやっぱりいつも通りにおれが一日どうしてたかきいてくる。何も変わったことはないよって言ってから、おれはいつもはそこで終わる言葉を止めずに続けた。
「クロは、なんでおれが一日どうしてたか気になるの?」
ききたかったことを、きいてみた。ら、なんかクロはすごく複雑な顔になった。嬉しいのと不満そうなのと不思議に思ってるのが混ざり合ってちょっと面白い。
「おれ、そんな変なこときいた? それとも、先にもっとちゃんと答えた方がよかった?」
「……いや、いい。ちょっと予想外で驚いただけですー」
「何が?」
おれがいつもと違ったから予想外だったってだけじゃなさそうで、おれはクロに何が予想と違ったのか教えてくれるよう促してみる。
「研磨は俺がどう過ごしてるのか気にならねーのかなーって思って、ずっと訊かれるの待ってた。答えた後俺と同じこと訊き返すだけだしな。だってのに、飛んできた質問が予想外だったから驚いただけ」
「へー」
クロに話してもらったけど、ちょっと促すんじゃなかったかなって思う。これ、聞いたら面倒になるやつだ。聞いてしまったから、もう逃げられない。興味無さそうな返事をしてみたけど、クロに逃がしてくれそうな気配がない。
「なぁ、研磨は俺が一日どうしてるのか気になんねーの?」
正直な気持ちをそのまま言ったら、どう答えてもクロがへこむに決まってる質問が飛んでくる。
「別に。そもそも、同じ学校にいたって学年が違うんだから、何してたか知りたくて仕方ないならその時からきくし」
「……そーだったな」
けど、クロに嘘はつきたくなかったから、全部正直に言った。予想通りにクロはへこんで、そんなに一喜一憂することかなって思う。おれと一緒じゃない時にどうしてるかよりも、一緒にいる時にどんな風なのかの方が、おれには大切なんだけど。
そして、一緒にいる時にこんなことでへこまれているの、あんまり嬉しくない。から、早く元気になってもらうことにした。
「で、クロ。おれはクロがなにしてたかきいてもいいの?」
「え?」
クロが予想外って顔をしておれを見る。目に隠し切れない嬉しそうな色が浮かんでて、クロがどれだけおれに関心を持たれたかったのかがわかった。クロにとって結構重要なことみたいだから関心がないなんて誤解されないように、わざわざきくほどのことじゃないけどまったく知りたくないわけじゃないことをこれからはきいてみようって決める。
「毎日答えるのけっこうめんどうだったから、クロがめんどうなことする必要ないかなって、おれはきかなかったんだけど」
「あー、めんどかったか?」
「かなり。わざわざ何があったか覚えてなきゃいけないし」
一日どうしてたか全部きかれるってわかってたから、なるべく詳しく覚えてたけど結構大変だった。それをクロも体感すれば、おれがクロのためにどれだけのことを毎日していたのかわかると思う。
「じゃあ週一くらいにするかー。一週間で何か印象に残ったこととか教えてくれ。その時に俺も言う」
「いいけど……、大丈夫なの?」
けどクロはおれの訴えだけで大変だってことがわかったみたいで、週一、しかも覚えていることだけでいいって譲歩してくれた。おれはそれでもいいけれど、毎日おれがどう過ごしてたかあれだけ知りたがってたのに、急にそんなに密度低くしてクロは満足できるのかなってちょっと不安に思う。
「お前も俺のために大変なことずっと続けてくれてたの分かったからな、週一でいい。なんとかする」
「ふーん」
本当になんとかできるのかなって思う。すごく知りたがってたし。けど、たぶんクロはこう言ったからにはもう週一でしか聞いてこない。なら、知りたそうにしてたら、何があったかおれから教えよう。わざわざ言ってくれたってクロも気付くだろうけど、気づかれて困ることじゃないし。そっと心に決めて、おれはスリープモードを解除してゲームを再開した。
出羽嬢から、HQの黒研小説をいただきました!
かわいい…研磨君…
そしてクロさん。
愛し方というか想い方がそれぞれ違うけど芯は繋がってるところが黒研だなぁ…って。
お互いしか選択肢がもうとっくに無いのが萌えます。
出羽さん、本当にありがとうございます。
2015.7.19