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「う、わぁ…」

黒服さんが開けてくれたお部屋のドア。
その向こうを見てみのりがそんな声を出してくれたから、ちょっとほっとした。
この国での"ボクのおうち"はちょっとせまい。
でも、いつもホテルの人がきれいにしてくれて、布団ふわふわ、床も窓もぴかぴか。
だから、居心地、最高!
みのりも恭二も、きっとそうだと思うけど…でも、やっぱりせまいねってなったらどうしようかと思ったから、よかった。
隣にいたみのりの手を握って、もう片方の手で中を指す。

「みのり、恭二。どうぞ!」
「あ、うん。お邪魔します。ありがとう、ピエール」
「お邪魔します。…へえ。このホテル、未公開部屋があったんだな。知らなかった」
「エレベーターの段階で専用キーって…。すごい世界だ。…えーっと、靴のままでいいのかな?」
「うん」

事務所でたくさん打ち合わせして、練習して、ミーティング。
本当はもっと早く終わる予定だったけど、はくねつしちゃったから長くなった。
恭二とみのりのシューデンっていう最後の電車がなくなっちゃって、帰れないって。
ボクの車で送るのもいいと思ったんだけど、二人とものおうちに行くの、ちょっと時間かかる。
だから、お泊まりする?って聞いてみた。
最初はダメだったけど、恭二とみのりなら、黒服さんたちもいいですよ、って。
本当は、最初の頃は、ボクのこの国でのおうちには誰も入れちゃダメって言われてた。
どこに住んでるかも、教えちゃダメって。
…けど、恭二とみのりだけは、いいですよって。
お仕事でお泊まりはたまにあったけど、ボクのおうちに二人が来るの、初めて。
だから――、

「ようこそ、ボクのおうち!」


welcome my night




ドアを開けたら廊下があるから、その廊下を進むとリビング。
窓の外、夜の明かりぴかぴか。とってもきれい。
きっとみのりは好きだと思う。

「うわ~。夜景が綺麗だ。高いねえ。それにすっごく広い。おうち綺麗でいいね、ピエール」
「うん!お部屋、いつもみんなきれいにしてくれる。だから、ボク、いつも嬉しい。部屋、ぴかぴか。夜、窓の外、下のほうぴかぴか。…あ、みのり。こっち、ベッドある部屋。あっちはお酒飲むところみたい。お風呂も、窓大きいよ。泡、ぼこぼこする」
「え、本当に? 見せて見せて!」
「ピエール。ここにある食器使ってもいいか? ひとまずお茶淹れようと思うんだが」

みのりと各部屋を回ろうとしているボクに、恭二が声をかける。
リビングのはじっこにあるティセットは、何個使っても帰ってくると元通りになってる。魔法みたい。
今日も、ぴしって、食器棚の中に並んでいた。

「うん。いいよ」
「何飲む?」
「ホットミルク!」
「ミルク? …ああ。冷蔵庫があるのか。火は…これだな。分かった。…みのりさんはー?」
「あ、ありがと恭二ー。俺コーヒーで。…ピエールのベッド、大きいね~。天井付きなんて、俺初めて本物見たかも」

みのりはベッドのある部屋が気になるみたい。
ボクもそっちに行く。
ベッドのある部屋は、入るとすぐ折りたたみの小さな壁みたいなのがあって、その向こう、奥の真ん中にベッドがある。
いっぱいある枕を一つ取って、ぎゅーってみのりがハグする。

「ん~っ。ふかふかだ~。お布団がふかふかだと幸せ感じるよね」
「…ね、みのり。えっと……あのね、」

ボクのベッドは、みのりが言うみたいにたぶんちょっと大きい方。
いつもはカエールと二人だけで寝てるけど、まだ空いてる…から。
…みのりが気に入ってくれたのなら、いいって言ってくれるかも。
お泊まり、めったにないチャンス!
お仕事でお泊まりの時、同じ部屋で布団並べるのも楽しいけど、おんなじベッドで寝るのもきっと楽しい。

「みのりと恭二も、よかったら、ボクのベッド、一緒に寝る?」
「え?」
「四人、寝られるよ。きっと大丈夫。ボクとカエールと、みのりと恭二」
「うーん…。そうだね。確かに余裕かも。リビングのソファを借りようと思っていたけど…」

枕を元に戻してから、みのりがぱちんとウインクした。

「じゃ、四人で一緒に寝ようか!」
「…! やったあ…!」

みのり、いいって!
バンザイしてから、次の場所を案内する。
次、お風呂。

「お風呂も、広いよ」
「見せて見せてー♪」

みのりと部屋を出て、恭二が飲みもの淹れてくれてるリビングを通って、入ってきた廊下の方へ行く。
お風呂も、いつもぴかぴか。
白いお風呂。カラフルなシャンプーとかのビン。
窓が大きくて、曇らないガラス。
でも、向こうからはカガミになってる。あと、ボタン押すと曇る。

「音楽も流れるよ。映画も見られる」
「じゃあ、JupiterとかのライブDVD見ながらお風呂で熱唱できたりするってことだ…!」
「うん!Jupiterも見られる。ボクたちのも見られるっ!」
「う~…困った。それは楽しすぎて大人しく入っていられる自信がない…。絶対俺とか歌い出すかも…」

案内すると、みのりは楽しいって、あちこちボタンを押してみたりシャンプーを裏返したりした。
今はお湯がないから、濡れる心配はない。
みのりがお風呂のはしに座って窓の方を見る。

「窓の外が綺麗だねー。宝石みたいだ」
「三人入れるでしょ?」
「え? …ああ、うん。そうだね。…でもねえ、きっと恭二が――」
「…おい、二人とも。お茶淹れたぞ」

お風呂の入り口に片手をかけて、恭二が呼びに来てくれた。
ちょうどいいタイミング!
カエール持ってない右手を広げてお誘いっ。

「ね、恭二!今日お泊まり。だから、お風呂、一緒に入ろ? ボクとみのりと一緒」
「……は?」
「てことらしいんだけど…。一緒に入る? 恭二」
「いや、入るわけないだ――…あ、いやっ。そういう意味じゃなくて…!」

ボクとみのりのお誘いに、恭二がひくく片手をあげてお断りする。
お断りされると思わなかったから、ちょっとびっくりしていると、恭二がちょっと首を振った。

「誘ってくれてサンキュ、ピエール。…けど、さすがに三人は狭いだろ? 俺はいいよ。俺が一番でかいし、ピエールはみのりさんと一緒に入ってくれ」
「でも…。…あっ、分かった!二人入って、一人は体洗う!これで三人だいじょーぶ!」
「名案だねー」
「…」

みのりは賛成してくれたけど、恭二はむずかしい顔してる。
そのうち、はあ…とため息をはいて体の向きを変えてしまった。

「とにかく、俺はいいから。…ていうか、今はお茶。淹れたから。案内が一通りすんだらリビングに戻って来いよ」
「あ…」

話がまとまらないうちに、恭二は行っちゃった。

「…恭二、お風呂きらい?」
「どうかな。でも、いいよって言われちゃったら、無理強いはできないよね。お茶もらいながら、あと一回誘ってみるのはどうかな?」
「うん」
「さ、戻ろう? おいしい飲みもの、恭二が淹れてくれたってさ。案内ありがとう、ピエール」

立ち上がったみのりと一緒に、お風呂の明かりを消してリビングに戻る。
リビングの真ん中にあるテーブルセットに恭二は座っていて、毎日きれいになるティセットの隣に、やっぱり毎日ある新聞を開いている途中だった。
テーブルの上に、ほかほかのホットミルクが置いてある。
カエールをイスに座らせて、ボクも座った。
今日の色々な話をして、その途中でこっそり恭二にもう一回聞いてみる。

「ね、恭二。恭二お風呂、きらい?」
「いや、そういうわけじゃないんだが…。とにかく、俺はいいから」
「三人でお風呂入ると、きっといっぱい楽しい。ダメ?」
「…。――…ダメ、だ」

二回お断りされちゃった…。
イヤだよって言ってるのを、あんまり言っちゃダメなの、分かる。
残念だけど。
…ちょっとしょんぼりしてみのりを見ると、みのりも少し残念そうに困った顔で笑ってた。

 

 

――結局…。
恭二は、本当にお風呂一緒に入らないって。
だから、ボクとみのりの二人だけ。
体洗って、いつもはあんまりスイッチ入れないけど、泡ぶくぶくにしたお風呂にみのりと一緒に入る。
音楽はみのりがずっと迷ってたけど、みのりの携帯につないでランダムにしたみたい。
とっても楽しい。

「ぷは~。あー…。きもちー。生き返るー。VIVAっ、お風呂ー!」
「びばー!…って、なに? ハッピーのこと?」
「イタリア後で、"万歳"だよ。うん、似たようなものかも。お風呂バンザーイ!」
「バンザーイ!ハッピーっ!」
「ジャグジーいいなぁ。バスタブも大きくて羨ましい。お風呂上がったらビール買いに行っちゃおうかなー」
「ねえみのり、タオルじょうず!それ、どうやってやるの? ボクもできる?」
「ああ、これ? 髪洗ったあと上げとかないとまた濡れちゃうからね。フェイスタオルがあればすぐできるよ。よーし、ピエールにもやってあげよう」
「やったあ!」

お風呂のはじっこに何枚かあるタオルを一枚取って、みのりがボクの頭に巻いてくれる。
タオルほそながく折って、おでこのちょっと上のところで結ぶ。
髪が落ちないようにするんだって。
みのりみたいに髪、長くないから、ボクのは逆に難しいって。
でも、結んでくれたらみのりみたいになった。

「おそろい?」
「うん。おそろい。似合う似合う」

みのりとお風呂、楽しい。
けど、向こう側にみのりで、ボクがこっちで、もう一人くらい入れそう…。
恭二も入ればいいのに…。
ちらりとお風呂の入り口の方を見る。
恭二が一人じゃさみしいから、カエールが今は恭二と一緒。
四人で入れればもっと楽しかっただろうな。
みのりも、残念って。
…。

「…みのり、残念?」
「ん?」
「恭二、一緒に入らないの」

三人でお風呂入れたら楽しいのに…。
だけど、恭二はテレヤだから無理なんだって。
みのりが残念がってるかなと思って、元気出してほしいからそう言ってみた。
けど、みのりはにこにこ笑ってる。

「んー。そうだねぇ。…でもまあ、これはこれでちょっと勝った感あるから良しとする」
「かった…かん?」
「それに、やっぱり三人だとちょっとだけ狭いかも。三人では無理だったけど、ピエールが一緒に入ってくれたから、俺は十分嬉しいな…ってこと。恭二は、また後でね」

指いっぽん立てて言うみのりは、落ちこんではいないみたい。
よかった!
みのり、落ち込んでなくて嬉しいと、ボクも嬉しい。

「ボクも、みのりとお風呂、うれしい!」
「ねー?」

みのりとのお風呂は楽しくて、ずっと入ってた。
恭二が心配になったみたいで、ノックしてくれるまで好きなこととか、今度のライブの話とか、衣装の話とかしてた。
ボクのパジャマはあるけど、恭二とみのりのサイズはないから、ホテルの人に持ってきてもらった。
みのりのパジャマはそれ。
下着とかも、下のお店から取り寄せてくれたから、さっぱりできるね。
せっかくみのりが頭に巻いてくれたタオル、取っちゃうの残念。
だけど、取らないと髪が乾かせないから、取ってから代わりにドライヤーかけてもらった。

「随分長湯してたな…」

リビングに戻ると、窓の方のソファで、ペットボトルの飲みものを傍に置いて座っていた恭二が別のお仕事の台本読んでいた。
ボクたちが出てきたのを見ると、すぐに立ち上がって、横に準備していたらしい着替えを片手で持った。

「うんっ、楽しかったよ!」
「話が弾んだからね。恭二も入ればよかったのに」
「…」

髪を拭きながらボクの後ろを歩いていたみのりの声が聞こえなかったのか、恭二はガチャリと冷蔵庫を開けると、持っていたボトルをその中へしまった。
…今の、聞こえなかったのかな。
それとも、ちょっとさみしい…とか?
ボクとみのりでお風呂入っちゃったから。
やっぱり、入りたくなったのかもしれない。
恭二の傍に行って、聞いてみる。

「恭二、やっぱり一人さみしい? ボク、もう一回入る?」
「ん? …ああ。サンキュ、ピエール。けど、大丈夫だ。俺はすぐ出てくるから。…ほら。飲みもの買ってくるついでにアイス買ってきたから。よかったら食べろ」
「わあ…っ」

ひょいと冷凍庫からカップのアイスと木のスプーンを手渡された。
すごくうれしい!

「ありがとう、恭二!」
「恭二ってば気配り屋さんだね。ピエール、よかったね」
「うん…!みのり、半分あげるねっ」
「ありがと。やったね」
「…あ、みのりさん」
「ん?」
「ビール。部屋になかったんで、一本買って冷やしといたか――…うわっ!?」
「恭二っ、愛してる!!」

ばっ…!と両腕を広げて、みのりが恭二にハグする。
恭二が今しめた冷蔵庫のドアに背中をぶつけた音がした。

「ちょっ……いやっ、何す……ぐえっ」
「ボクも!恭二、あいしてるっ!」
「待て待てっ。重い重い!」

ボクもアイスうれしいから、ボクも両手をいっぱい広げて横から恭二の腰に抱きついた。
恭二がよろよろお風呂に行く間、ボクとみのりは恭二と交換で窓の方のソファに座ってトランプすることにした。
お泊まりといえば、トランプなんだって。
色々おそわったよ。
本当はコインをかけるんだけど、今日はかわりにナッツをお皿に盛ってコインがわり。
でも、ボクはコインかけるトランプは合わないから、誘われてもやっちゃダメなんだって。
みのりがそう言うなら、ボク、絶対、やらない!

 

 

 

「――俺の隣はカエールでいい」

恭二がお風呂から出て三人で少し話てたけど、そろそろ寝ようねーって話になって、みんなでベッドがある部屋に入った。
枕はたくさんあるから、みんなの分ちゃんとある。
何にも考えずに枕みっつとカエールの枕並べたら、恭二が順番変えてほしいって。
みのりが、両手を腰に添えて恭二に言う。

「泊まらせてもらう身で文句言わない、恭二」
「だから…。俺はあっちのソファでいいって――…」
「恭二。みんなで寝よ。ね?」
「ぅ…」

最初から、恭二はせまいだろうってソファーで寝るって言ってる。
けど、そんなに狭くないはずだし、やっぱりみんなで寝たい。
お風呂はダメだったから、寝るのは一緒がいい。
恭二のティシャツの背中を握ってお願いすると、恭二はソファで寝るのは止めるって言ってくれた。
でも、やっぱり順番はちゃんと決めた方がいいって。

「もー。いいじゃないか。順番なんてどうでも」
「どうでもいいなら交換させてくれ。ベッドはピエールのものなんだ。真ん中がピエールでいいだろう」
「俺が隣じゃー、何かご不満でも?」
「…分かってて言うの止めてくれないか」
「…? みのりの隣はダメなの? なんで??」
「え、ぁ…。いや――」

恭二は、みのりの隣がダメみたい。
よく分からないけど……もしかして、みのりの寝相がとっても悪い、とか…?
でも、寝相が悪いでも、一番悪くてベッドから落ちるとか、そのくらいだと思う。
たいしたことじゃないよ。
それなら、やっぱりボクが端っこの方がいい。
ボク、落ちても平気。
恭二、落ちない真ん中が安心。
みんな幸せ。

「ボク、平気だよ。ボクはじっこ。恭二真ん中。それなら、ヘーキ。でしょ?」
「いやいや…。ちょっと待て何故端に行く。そうじゃなくて、ピエールは真ん中にいてくれた方が助かるんだ」
「…??」
「あはは。…ま、ここは聞いてあげるとしますか。…ピエール。やっぱりここはピエールの寝室なんだし、俺も恭二も、ピエールが真ん中にいてくれると嬉しいな。ピエールのおうちに泊まってるって感じがするだろう?」
「…みのりは、寝る順番はどれでもいい?」
「うん。俺はいいよ」

みのりはにっこり笑っていいって言ってくれた。
恭二の言ってること、ちょっとごちゃごちゃ。分からない。
だから、腕を伸ばしてベッドから枕を引き寄せると、横に並べた。

「ボクも順番いいよ。二人と一緒に眠れればじゅーぶん。だから、ね? これ、ボクの枕。これはみのりので、こっちが恭二。これ、小さいの、カエールの。恭二、好きなふうに並べていいよ。…はいっ」
「…っと」

ぽん…とまずボクの青い枕を差し出すと、恭二が両手で持つ。

「…」

恭二は少し考えてから、てきぱきと枕を並べ替えた。
やっぱり端っこが好きみたい。
左から順に、みのり、ボク、カエール…で、恭二。
あっという間に並べ終わった。

「…うーん。全力で離してくるかー」
「普通そうするだろ」
「…?」

みのりはいいけど、恭二はやっぱりみのりの隣はイヤみたい。
…みのり、そんなに寝相が悪いのかな。
明日はボク、床の上に落ちて起きるかも。
でも、そんなのヘーキ。全然だいじょーぶ!
場所も決まったし、歯も磨いたしバッチリ。
あとは、寝るだけ!

「よーし。じゃあ、寝るぞー!」
「おーっ!」
「…テンションあげると寝付きにくくなるぞ」

みのりとえいえいおーしてから、布団にもぐりこんだ。
布団、今日もふわふわ。
みのりも恭二も一緒、楽しいっ。
黒服さん、部屋の入り口にいるけど、ベッドのある部屋で一緒に寝たりはしない。
だから、誰かと寝るの、すごく久し振り。

「お泊まり楽しいね、ピエール?」

にこにこしてると、ボクに気づいたみのりがそう言った。

「うん。ベッド、せまいね」
「そう? 思ったよりも余裕だと思うな。…ていうか、それ楽しいところなの?」
「…三人寝ても余裕ってのにいつも一人ってのは……まあ、気持ちは分かるな」

反対側から、恭二のひくい声がした。
枕の上で恭二の方を振り向く。

「ん…。ボク、誰かと一緒に寝るの、ひさしぶり。いつも、カエールと。せまいの、あったかいね。…ね、恭二?」
「ああ…。そうだな。あったかいよ」
「本当は、同じ部屋で別のベッドに寝るのはいいけど、同じ布団はダメなんだよね? 本当のおうちでは、カエールもダメって」

隣に寝ているカエールの手をぎゅっと握る。
カエール、ボクの友達。ずっと一緒。
頭を戻して、みのりを見た。

「大きくなったら、一人で寝るんだって教わったよ。もう、誰かと一緒に寝るのはいけないんでしょ? …でも、今日だけ。お泊まり、みんなには秘密。内緒、ね?」
「ピエール…」
「…。俺も、初めて一人部屋与えられて放置された時は、布団かぶって泣いたな…」
「恭二も?」

恭二が、ベッドの天井を見詰めながら小さい声で言った。
恭二、何でもできるから…ちょっと意外。
でも、恭二もそうなら、ボクだけオクビョーじゃない。ちょっと安心。
ほっとしてたら、布団の中でぎゅっと手が握られた。
みのりだ。

「大丈夫だよ、ピエール。確かに、今は一人で寝なさいって言われるかもしれないけど、大人になっても……ていうか、大人になった方が、大切な人ができると、一緒に寝てくれるから」
「…そうなの?」
「そうだよ。…ね、恭二?」
「あー…。……まあ、そうかもしれないな」

ぼんやり、恭二が同意した。
…本当?
みんな、ボクには一人で寝なさいって、そうしないと立派な王さまにはなれませんよ、って――…。
もう、誰かとこうして寝ちゃいけないんだと思ってた。

「ダメって言われても、今こうして俺たちで横になってるんだから…。誰かと寝る機会なんて、これからもちょいちょいあるだろ。罪悪感持つ必要ないさ。人恋しくなるのは、誰でもあることだ」
「…大人になっても?」
「ああ。…そう感じた時に、"一緒に寝て欲しい"と言える相手がいるかどうかが、大切なんじゃないか?」
「…」
「そーそー」

目を閉じながら恭二が言って、反対側では、薄暗い中でみのりがウインクする。

「今日だけなんて言わない言わない。たまには、こうして一緒に寝よう」
「――…」

じっと我慢してたけど、ぎゅっとみのりの手を握った。
反対側の手で恭二の手を探って、そっちもぎゅっと握る。

「――みのり、恭二っ。おやすみ!」
「うん。おやすみ」「ああ…。おやすみ」
「カエールも。おやすみ!」

隣のカエールとは、ぴとっとほっぺたをくっつける。
お布団ふわふわ。両手、ぽかぽか。
二人と手をつなぐの、大好き。
何だか寝ちゃうのがモッタイナイ――…って、思ったけど…。

 

 

 

 

目を瞑ってあったかいを感じている間に、もう次の瞬間には朝だった。
…。
むくりと起きたままぼんやりしていると、隣でみのりが寝てたけど、恭二はもういなかった。
カエールとベッドの部屋を出ると、恭二はもう着替えてて、コーヒーのいい匂いがしてた。
昨日の夜みたいに、朝の新聞を読んでる。

「ピエール、起きたか。おはよう」
「ふぁ…。おはよぉ、きょーじ…」
「思ったより早起きなんだな。…みのりさんまだ寝てるっぽいから、もう少し寝かせといてやろう。顔洗って着替えてこい。ホットミルクまた作ってや…」

顔を洗いに行く前に、ティセットの前に立っている恭二の背中にぎゅっと抱きつく。

「…? 何だ?」
「ね、恭二。お泊まりすると、おはようもすぐに言えるね。いつも、事務所に行かないと、みんなに会えない。でも、一緒に寝ると、すぐおはよう、言える」

起きてすぐ、ご飯食べる前に誰かと会えるってとってもハッピー。
ボクが言うと、少したって、恭二がボクの頭をなでた。

「そうだな。…俺も、それが醍醐味だと思うよ」
「だい…ごみ? なに??」
「本当の良さ、とういか…。まあ、そんな感じだ」
「だいごみ!」
「大きなごみじゃないからな。間違って覚えるなよ。…ほら、行ってこい」
「ハーイ!」

恭二から離れて、顔を洗いに行く。
部屋の端と入り口に立っていてくれる黒服さんたちにも、おはようの挨拶。
みのりが起きたら、みのりにもおはよう言おうっと!

鏡の前に立って、タオルをばっと開いて折る。
昨日みのりに教えてもらったみたいに頭にぐるって巻いて、前髪をとめた。



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ピエール君ちにお泊まり。
彼がいる横でっていうのも燃えるけど、みのりさんと恭二さんはやらないだろうな。
三人でいてくれると癒やされます。
2016.12.2





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