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時刻は真夜中の十二時半。
布団に入ったのは三十分くらい前だけど、何だかもっと長く感じる。

「う…うぅぅ~…っ」

枕の上に携帯…と、横にティッシュ箱。
携帯に繋いだイヤホンを耳に差し込んでディスプレイの中ではいわゆるピンクな動画が流れている。
サッカーやってた頃と比べると自分の中でそんなにやらなくなっちゃったけど…やっぱり何かそういうのと関係あるのかな?
でも、やらないっていう選択肢はもちろんない。
頭まで被った布団の中でちょっと久し振りにオナニーを始めたけど、布団に入ったのと同じくらいから始めたから、もう三十分もかかってることになる。
さんじゅっぷん…。
長い……てゆーかもっと経ってる気がするほんとは!
熱い息は出るのに。

「ん、んー…っ。うー…」

目を閉じて顔を伏せて、右手に集中する。
耳からは女の人の高い声が聞こえてくるし、セクシーだと思うし魅力的だと思うから実際勃ってるわけだけど…。
…。

「っあー!!もーダメ!何で!?」

ぶちっ!と片手でイヤホンをすっぽ抜いて携帯と一緒にシーツの上に落とした。
享介の奴は振り付け考えるっていつもより早く部屋行っちゃったし、話す相手いなくてつまんないし今のとこ暗記するようなお仕事もないからせっかく今日は抜こうと思って準備万端にしたのに、全っ然、イケない…!
気が散っちゃうのは何でなんだろ?
勃ちはするし硬くはなるのに、いくら弄っててもその後に続かない。
この状態が長く続くとホント気分が悪いし苦しいし鬱ってくる。
胡座をかいて片手でパジャマ代わりのスウェット引っ張って改めて下半身見下ろしてみて、尚更がっかりする。
ホントもうちょっとなのに。
汗ばっかかいてる。

「あーもーやだ!すんごく時間の無駄!何でイケないんだろ。もうちょっとなのに。…チョイスの問題なのかなぁ」

はあ…と一応熱くはなった息を吐きながら携帯を少し弄ってみるけど、そーゆーのじゃない気がする。
心臓どきどきだけど、妙に賢者モードなこの状況。
体中が熱いし、もぞもぞする。
両手の爪で思いっきり下半身を引っ掻きたいくらい。
女の人の顔が好みじゃないとかいうわけじゃないし、ジャンルが好きじゃないってわけでもないんだけど……って、そもそもオレって自分が何が好きなのかもいまいちよく分からないんだけどさ。
こういうのってジャンルは色々あるけどさ、どれも女の人はみんなきれいだし柔らかそうだしエッチな感じで似たようなものだし、もちろんそれなりにくるにはくるんだけど…。
…やっぱり好きな子がいないっていうのが大きいのかなぁ。

「うー。…くっそーっ!」

一度思いっきり枕でシーツを叩いてから、その枕を持って部屋を出た。
しぃんとしている廊下の、すぐ隣のドアを開ける。

「ねー。きょーすけー」


君が幸せでいるために




隣の部屋は享介の部屋。
今日は振り付け考えるって言ってたからきっと起きてるなと思ったら、やっぱり起きてた。
けど、部屋の端の勉強机で開いてるノートパソコンの前で、じっと画面見てて無反応。
無視か!と思ったら、イヤホンで音楽聞いてたみたいだった。
…聞こえないんだな。
ドア閉めて、享介の方へ歩いて行く。
途中に思い立って、にやりと笑うと足音をゆっくりにした。
枕持ってるから片手になっちゃうけど、それを前に出して背中ににじり寄る。

「きょ~ぉ~……すけっ!!」
「うわっ!?」
「あっはははっ!」

勢いよく背中を押すと、飛び上がるくらいに享介が驚いた。
大成功!
目を白黒させた享介が、イヤホン取りながらオレを振り返る。

「び…っくりしたぁ…。…まったく。止めろよ、悠介。心臓止まるかと思ったじゃん」
「へへへ~!だいせーこー!」
「もう…。真夜中だから、静かにしないとダメだろ。…ていうか、まだ起きてたんだ?」
「ぁ…。あ、うん。そうなんだけど、さ…」

一瞬享介を驚かせるの楽しくて頭から抜け落ちたけど思い出した。オレが享介の部屋に来た目的。
享介が着てる、オレが来てるパジャマ代わりのティシャツと色違いのやつの背中を指先でちょっと抓む。

「なんか、その…。眠れなくてさー」
「眠れなくても横になってろよ。体は休まるし、そのうち絶対寝るだろ?」
「いや、ていうか…」
「…?」
「わ、笑わない?」
「ものによる。何?」
「笑わないって先に言ってっ!」

さらりと真顔で答える享介のシャツを片手で掴んで、先に約束させる。
分かった分かったと既に苦笑しながら、ひとまず頷いてパソコン用の眼鏡を置くと、ノーパソをぱたんと閉じてくれた。
ほっとして、内緒話するために体を近づけて耳打ちする。
何かもうすごくみっともないけど…。

「えーっと…。さっき、その…オナってたんだけど…。何か、うまくイケなくてさ…」
「…ああ」
「わ――……うわっ!?」

白状すると、ば…!と享介がオレの手から枕を奪った。
咄嗟にそれを奪い返そうと追いかけたオレが腕を浮かせた瞬間、片手で享介が股間を掴んできたから、ビックリして、全身が跳ね上がる。
享介の肩を両手で掴んでぐっと伸ばし、くっつけていた体を離した。
うわわわ…っ。
ぞわぞわ。腰がヤバイ!

「ちょ…ちょぉ…っ。きょーすけっ!」
「さっき驚かせてくれた仕返し。…何だ。もう結構勃ってるじゃん」
「揉……て、待って待って!急に触るとヤバいから…っ!」

むにゃむにゃ揉まれて、しどろもどろで享介の手首を掴んで一端引きはがす。
…いや!やってもらいたかったんだけど!
急にはビックリするから!
今のでますます出したくなるけど、今出したらまずいって。ティッシュとかもないしさ、下着汚しちゃう。
焦るオレを見て、享介は取った枕を膝の上に置くと、くすくす笑った。
全然笑いごとじゃないよ~もーっ。
むすっと頬を膨らませてみるけど、ぶっちゃけそんな時間も惜しい。

「触るとヤバいって、悠介出しに来たんだろ?」
「そ、そーだよ!でも服に着いちゃうだろ!言っとくけどホントに余裕とかないからっ!分かってるんなら早く、こっち来てよ…!」
「おっと…」

享介の腕を引っ張って、部屋の端にあるベッドへ移動する。
途中、部屋の真ん中にあるテーブルの上にあったティッシュとハンドクリームも連れて行く。
オレの部屋と享介の部屋は左右対称。
だけど、小物とかやっぱり違うから、享介の部屋の方がちょっと広く感じるしベッドもそう感じる。
クッションとかぬいぐるみとかあんまり置いてないからかな…。
…あ、ぬいぐるみって言っても、オレんとこもクマとかウサギとかじゃないから。サッカーボールのでかいやつとか、UFOキャッチャーで取った景品とかそんなのばっかりだけどさ。
ベッドに乗り上げると、享介の腕を掴んだまま奥の方へ行く。
ベッドの下の方ぎりぎりの端っこまで来て背中を横の壁に預けると、すとんと腰を下ろした。
体の向きを変えれば、着いてきてた享介と向き合う感じになる。
いつもの場所に来るとどきどきも高まってきて、ちょっと苦しいくらいになってきた。
う~。ホント、一刻も早く出したい。
じりじりする。
享介が両手にハンドクリームを塗りながら、少しだけ呆れたように肩をすくめた。

「一人でイけなかった?」
「うーん…。なんか、そうなんだよなー」
「悠介がやるんなら、俺もやろうっと。いい?」
「うん、やろやろ。…ていうか振り付け考えてたのにごめん!」
「いいよ。煮詰まってたから切り替えになるし。悠介とするの好きだし」

たっぷりハンドクリーム塗った手で、享介が俺の両手を触ってそれを塗り分ける。
指の間も塗ってくれようとしたみたいだけど、そんなのもういいしと思って、腕を伸ばしてぎゅっと享介を抱きしめた。
享介がくしゃっと笑う。

「余裕ないなー」
「ないよ!」

享介もオレを抱きしめてくれる。
享介とくっついてるのは好きだからこのままじっとしてるのももちろん好きなんだけど、今は無理!
ぎゅっとしたまま、享介の手首を持ってじりじりしてる下半身に持って行く。
服の上から撫でられて、それだけでびくびくする。

「ん…」
「直で触るよ?」
「うん…」

享介の肩に顎を乗せてじっとしてると、オレのパンツとアンダーの中に享介の手が入る。
ぎゅって握られると、それだけであれだけ行き詰まってた波が動き出す。
気持ちいいから背中がぶるっと震えた。

「っん…」
「濡れてるじゃん。すぐイキそうだね」
「…、ふ…。ぁ…」

そのまま擦ってもらえるとふにゃふにゃ力が抜けていく。
享介の手首から手を離して、またぎゅむっと享介を抱きしめた。
服の背中を思いっきり握る。
出す時何かしがみつくものがあるとイキやすいし、享介の匂いはすごく落ち着くからな。

「んーっ…、むー…っ」
「…って、悠介俺のは?」
「うう~っ。待ってぇ、今ムリぃ~…。あとちょっとだからぁっ。イったらやるか…らっ、ぁ…っ、あ…」
「それは狡すぎ」
「…!」

はあ…と享介に呆れられてため息つかれちゃったかと思ったら、ぱっと手を離されちゃった。
ビックリして、肩に押しつけていた顔を上げる。

「え…。なになにっ、何で止めたの!? やってよ!」
「俺もって言っただろ。ちょっと待ってて」
「わ…」

猫みたいにオレの首のとこに頭をすりつけてから、享介も腰を浮かせてパンツとインナーを少し下げた。
途中までやってたオレと比べるとまだ全然だけど、少し硬くなってるのが分かる。
ほっとして肩を落とした。
こーゆーのって、一度そういう気分になるとすぐ硬くなるよな。
享介巻き込んで悪かったなと思ったけど、享介もやるんならお相子だからちょっと悪かったな感が弱くなる。
向かい合わせで享介が胡座をかいて、ひょいと俺の足を左右に開いて持ち上げた。
咄嗟に両手を後ろに着いてバランスを取る。
ちょっとバランス悪いけど、こうやって近寄って座るとお互いのが触れ合って、すごく気持ちいい。
両手で享介がまとめて包んでくれると、腰がびりびりする。
あと、妙に落ち着いた。
何て言うか…しっくりきて、オレこれやりたかったんだと今更分かった。
ちょっと扱かれただけで、オレのからは先走りが出てくるから、享介の巻き込んで滑りやすい。
くちゅくちゅ鳴ってる音も煽ってくるし、興奮してるのがオレだけじゃないって何だか気が楽だし、もっと気持ちよくなってもいいんだって気分になる。
享介に任せて、思いっきり目を閉じる。

「はぁ…。っ、あ…」
「は…。…悠介、気持ちいい?」
「んっ、きも…ち、ぃ…あ、ぁっ。う…出――…うわっ!」

もうちょっと…!ってところで、ぎゅっと享介が片方の親指を、先へ蓋するみたいにしてしまった。
高まってた衝動が急に塞がれて混乱しまくり。
訳も分からないまま、ほとんど反射的に片手を浮かせて、享介の手をはがそうと指を添えた。

「ちょっ…は? えっ、何す…!」
「時差があるから。ちょっと頑張って耐えててよ、悠介」
「ええええ!? ムリムリムリ!やだ!やだやだやだっ!!」
「俺もやだ。一緒がいい」
「む、ムリだってー!オレもう出るも……てか、離せーっ!」

ぐっと前のめりになって、両手でぎぎぎーっと享介の手を取り除こうとしても、享介より力が抜けてるオレじゃ今はムリっぽい。
く…っ、ぅうううう~!
オレがぶるぶる涙目で震えている間に、享介は自分のだけ弄ってるし。
そりゃ、オレだって一緒にいけるもんならそうしたいけど、別に合わせなくてもいいじゃん…!
オレが先だったら、その後オレが享介のやってあげるし!
もうちょっとだった衝動が、どんどん体の中で薄らいでいく。
折角上がってた目盛りが、どんどん下がっていくような。
それが耐えられなくて、先を享介に塞がれたまま自分のものを片手でぐちゃぐちゃに弄ってキープすることにした。

「あっ…あ、や…。んっ、うぁ…イきた…」
「は…。ごめん、悠介…。もうちょっと…」
「や、だぁっ。ムリぃ~!」

止められて爆発しそう。
じゃあ自分で扱くの一端止めればいいじゃんって思わなくもないけど、今片手止めるとかは絶対無理だから。
勝手に腰も手も動いちゃうから余計に出したくて辛い。
気持ちよすぎて我慢しすぎて涙出てくる。
とにかく享介がフル勃起しないとダメだっていうならと思って、オレも享介の両手に手を添えて、享介の手ごと無茶苦茶に擦る。
どさくさに紛れて押さえている指を離してくれないかなと思ったけど、蓋してる親指を、享介は絶対動かしてくれない。
それが耐えられなくて余計に荒くなる。
享介が、小さく熱い息を吐きながら、額をコツンと当てて来て笑った。

「悠介、雑すぎ。ちょっと痛いかも」
「だ…ってぇ…っ、享介が勃たなきゃ、オレ出せないんだろ…!」
「うん…」
「…ってか、ホント…。我慢できないからっ!」
「一旦自分の触るの止めたら?」
「無理だからっ!!」
「だよね」
「あ、わ…っねえ…!やだって!!やだっ!お願い享介!触るなら止めんの止めて…!何で止めんの!? ぁ、や…ク、るかっ――…ぃっ!」

腰に波が来て、びくんと一度背が反れた。
けど、寸止め。
その波が通過しても、まだまだそこに何か快感の元みたいなものが溜まってるのが分かる。
掴んでる享介の服をメチャクチャに引っ張った。

「イきたい!!早くっ、早く出した――…ひゃっ!!」
「――っ」
「~…っ!!」

がぷ、って耳を軽く噛まれたのとカリの裏引っかかれたのと同時に押さえていた手を離されて、ようやく出せた。
オレは押さえてる手が取れればいつでもイけそうだったけど、享介も一緒にイけたんだと分かったのはティッシュで拭いてもらった後だった。
…ぷっはー。
よかった…。終わった…。
思いっきり息を吐き出しながら、ぼて…と横に倒れる。
まだ余韻でぜーはーしてて体が熱い。
このけだるさも気持ちよくて好きだし、何よりすっきりしてよかった。

「…っはぁー…はぁ…。んあ~…。よーやく出せたぁ~…」
「おつかれさまでしたー」
「つーかーれーたぁ~…!汗べったべた。きょーすけタオル貸してー」
「はい。…悠介、一回でいい?」
「うーん…。熱いからもういい。また明日とかにしよ」
「いいよ。…ていうか、ほんと天然」
「ん~? 今何か言ったぁ~…?」

おつかれさまの後享介が何か言った気がするけど、よく聞こえなかった。
差し出されたフェイスタオルでざっくり顔拭いて枕を引き寄せながら聞いてみたけど、享介は「何でもない」だって。
じゃあまあ、いいや。
そのまま目を伏せて寝ちゃおうかな…と思ったところで思い出して、ばっと上半身を起こした。
ウエットティッシュを引き寄せて抜き取っていた享介がこっちを見る。

「…っていうか!享介っ、ひどいよ!!」
「何が?」
「何がじゃなくて!オレのイけないように押さえてたじゃん…!」
「俺も一緒にやるって言ってあっただろ? 悠介も、うんうんやろうって言ったじゃないか」
「同時にって意味まで含めてないから!」
「あれ、そうだった? ゴメンね」

軽くふいたけど、精液で汚れてるオレのを包むようにウエットティッシュで拭いてくれながら、明らかに冗談めいて享介が俺にウインクする。
絶っ対分かっててやってる!
むっとするオレのパンツとインナーを享介が片手で少しあげたから、自分でやるよとちゃんと元通りはき直した。

「けど、一緒にイけたんだからいいじゃん」
「そりゃそーだけどさー…」

また、ぐでー…と横に倒れる。
ばらばらよりも一緒に出せた方がオレも好きは好きだよ?
けど、その一方で我慢しなさいっていうの、好きじゃないんだよな。
そりゃ、ちょっと耐えた方が気持ちいいっていうのはよく聞くけどさ、気持ちいいのは好きだけど、気持ちよくなるためにって我慢するのは何か…それって本末転倒な気がする。
だからああやって押さえられると、どうしていいか分からなくて困るし痛いし苦しいし、ぐちゃぐちゃになって我慢できない。
…オレがむすっとしているのを見て、享介が体を屈めるとオレの肩に片腕を回して、ほっぺたにチュッってキスした。

「待っててくれてサンキュ、悠介」
「…待ちたくて待ってたわけじゃないよ」
「あはは。だから、サンキュ」
「…。うー…」

ありがとうって言われちゃうともうどうにも言い返せない。
こっちは待つ気全然なかったけどな!

「お返しは?」
「…むー」

何か納得いかないけど、オレも享介の首に両腕で抱きついてほっぺチューを返す。
享介狡い。
けど、仕方ないなぁ、許してあげよう……なんて思っていると、享介はさっさとベッドから両足を下ろした。

「さて…。じゃ、俺は続きやらなきゃ」
「…ぁ」

丸めたティッシュを片手にまた机の方へ向かっていく享介にはっとした。
…そうだった。
元々、オレが色々考えてた途中だった享介の部屋に来てお願いしたんだった。
十数分前のことをもうすっかり忘れてた。
…うーん。じゃあ、オレの押さえてたとしても許してやってもいいか。
おあいこってことで。
それに、享介と一緒にやると、やっぱり気持ちいいし。
一人でやっても気持ちいいは気持ちいいけど、決定打がないっていうか、じりじりして苦しいばっかりですんごく時間かかるんだよな。

「…」

うんうん…と頷いている途中で、ふと思った。
実は前々から、ちょっと思ってることではあるんだけど…。

「……オレ、ヘタなのかなぁー」

享介のベッドに横に寝転がりながら呟くと、空いてる袋にまとめてティッシュを捨ててた享介が顔を上げた。

「ん?」
「いや、だって…。オレさ、一人で抜くの時間かかるじゃん。ヘタなのかなって思ってさ」

オレたち、高校とかも殆ど試合に出てたから学校にいる時間って少なかったし、たぶん同級生といる時間って普通の奴らより少ないと思う。
そのせいか、あんまり深く下ネタってやつを話した記憶がないんだよな…。
所属してたSCはどっちかっていうと年上の先輩の方が多かったけど、先輩たちはもう大人っていうか…キャバクラとかバーとか、どの人がきれいかとか女の人の好みとかそういう話はするけど、そういうのって"好きな人"とはまた次元が違うって感じでピンとこなかったし…。
その点、享介は上手なんだよな。
双子なのに、何でだろ?
享介に触ってもらえるとそんなに時間かからない。
…でも、それってすんっごく情けない…よな、やっぱ。
ベッドの上でごろごろしながらぼやくと、また机に向かってノーパソ立ち上げて、パソコン用の眼鏡かけながら享介がフォローしてくれる。

「別に、悠介はヘタじゃないと思うけど?」
「そーかなぁ…」
「ヘタっていうか、俺とに慣れてるんだろ。誰だって、自分でやるより人に触られる方が興奮するんだよ」
「う~ん…。まあ、そーなんだろうけどさー」
「一人よりも二人だし、二人よりも三人なんじゃない?」
「えっ、三人!? 享介やったことあるの!?」
「なーいーかーら。例え話」

びっくりして起き上がりかけたけど、例え話だってさ。
なんだ…。
ほっとしてもう一度ぐったりするオレに、享介が続ける。

「もちろん、倫理的にいいか悪いかは別にしてさ。…俺も、自分でやるより悠介と一緒にやった方が早いし、やっぱり気持ちいいよ」
「…ホント? 享介も?」
「悠介がそう感じてるなら、基本的に俺も同じだよ。大体そうじゃない。だろ?」
「…」

のそりとベッドから起きて、てくてく享介の方まで歩いて行く。
オレたちの振り付けとか衣装とか、享介がスタッフさんと考えてくれることが多いから、きっと今もそれやってるんだろうな。
監督も、スケジュール調整とかどこを重点的に練習した方がいいかとかは享介によく聞いてるし……それに比べて、オレはそういうの苦手だから全然ダメ。
近寄っていって、イスに座ってる享介の背中から肩をぎゅってして、オレも画面をちらっと見る。
やっぱり、エクセルの細かい表とか今日の練習の時に取った動画とかが開かれてた。
…享介はいいって言ってくれたけど、中断させちゃって悪かったな。
ぐでぇ…と享介によりかかる。

「享介ぇ…。でもさ、オレ、ずーっと一人でイクのヘタだったらどーしよう…」
「いやいや、何の心配?」

オレは結構真剣なのに、享介はいかにも冗談!って感じで笑う。
笑い事じゃないのに!
むーっと黙っていると真剣さに気づいてくれたのか、享介がオレを振り返った。

「もしそうだったとしても、別に心配になることじゃないじゃん。俺と二人ですればできるんだからさ」
「そりゃそーだけどさー…。ずーっとだよ?」
「いいじゃん、別に。ずーっとでも」
「でもさ、享介が忙しい時とかあるだろ? オレが邪魔な時とかもあるかもしれないじゃん」
「そんなのないって。悠介あるの?」
「ないけど!…でもさ!もしもだよ? どーしても別々になんなきゃいけない時とかって、やっぱあるじゃん。もしさ、亨介がオレみたいに突然怪我して長い間入院したりし、たら――…」
「…」

ギ…とイスが軋んだ。
たぶん、享介が少し動いたんだと思うんだけど…。
…。
今、流れで言ったけど、何だか本当に哀しくなってきた…。
ある日突然、享介が怪我して入院なんかしたら――なんて思うだけでつらい。
ちらりと振り返った享介と目が合う。
ちょっと困ったような顔とその目を見て、何だかものすごく慌ててきて、ぱっと享介から離れると両手を挙げた。

「あ…。いや、その…」
「…まったく。何だよ、悠介。その顔」
「…え?」
「泣きそう。自分で言っといてさ」
「いや、だって…。今うっかり想像しちゃったんだよ…!享介があんな風になったら……やだなって、思ってさ…」

挙げた両手を下げて、今度は左右の指を合わせたり離したりしてみる。
突然どうしていいか分からないくらいの落下感。
それまで世界は全部輝いて見えてたのに、「おまえなんかいらない」と急に全てから言われたような、冗談みたいに簡単に取り上げられた夢とか希望とか。
いくら泣いたって泣き足りなかった。
けど限界はくるもので、泣くのが終わるともう胸の中はがらんどうで何も響かなかった。
誰が何を言ってもぼーっとしちゃうっていうか、そんなのばっかり。
優しい言葉をかけてくれても、誰が何言ったって、何の力にもなれないくせにって思っちゃって、そうなるともうオレを心配してくれてたみんなに会うのも嫌だったし、そう思う自分のことも嫌いになった。
全然いつものオレじゃなかった。
享介が、影で一緒に泣いてくれてたのを見るまでは。

「…」

オレ…。
オレ、怪我した時、すごく辛かったけど……今想像したら、享介が怪我したとしたら、やっぱりオレも、なんだかまるで何もかもなくなっちゃうみたいに、きっとすごく辛いんだ…。
享介も、きっとこんな気持ちだったんだろうな。
想像なんかじゃなくて、オレが実際に怪我しちゃって、享介にとってはそれが現実だったんだもんな。
オレにイヤなことが起こるより、享介にイヤなことが起こるほうがすごくヤだ。
…オレがしょんぼりしてると、享介がぎゅってオレの手を握ってくれた。
得意げに笑う顔が眩しい。

「大丈夫だよ。俺、怪我なんかしないから。悠介にも、もう、絶対させない」
「うん…。…。…あ、あのさ、享介」
「ん?」
「オレが怪我したとき…。享介にも、すごく辛い思いさせちゃって、ごめんな…。今までは心配かけて悪かったなとか、それくらいしか思ってなかったけど……なんか、心配とか、そういうんじゃなくてさ。きっと、そういうんじゃなくて……すごく、辛かったよな。享介も。…オレ、怪我した時、ガラガラって感じでもう全部なくなっちゃったみたいな気持ちになったんだけどさ、それと同じっていうか…。全部とられた気持ち……ていうか、さ。もしオレが怪我しない側だったら、自分はいいけど、享介のはとらないであげてほしい…っていうかさ…。――…って!言ってるオレも意味分かんないけどっ!」
「…。うん…。俺分かるよ」

ふっと笑顔が消えて、享介が握った手を見下ろした。

「…享介が入院してる間、隣の部屋に悠介がいないの、本当によく分かったよ。いつも部屋が別でも、ちょっと離れててもあった気配が傍にないんだよな。悠介がいないと、何にもする気おきなかったよ。だから俺、もう悠介と離れたくないし、ずっと一緒にいるつもりだから」
「享介…」
「だから、悠介がオナニーど下手でずーっと一人でいけなくても、俺的には全然問題無し。寧ろヘタでいいから!」

シリアス空気だったのを吹っ切るように享介がビッと親指立ててそんな言い方するから、オレも一気に気が緩んで思わず笑っちゃった。
冗談で片腕を上げる。

「もー!何だよそれー!!」
「あははっ!…ていうかもうダメだ!今日はもー仕事止めるっ!」

せっかく立ち上げたパソコンの蓋を、享介がぱたんと閉じて立ち上がった。
一歩引いたオレの前を通り際、オレの手を握る。

「寝ようぜ、悠介。今日は一緒にさ。もう怠いし」
「パソコンいいの?」
「明日までじゃないから平気」
「なーんだ。じゃ、ヘーキだね!うん、寝よ寝よ。オレもー眠いよー」

ばたばたと二人でまたベッドへ戻ることにした。
ダイブして飛び込むと、享介が「壊れるだろー!」って笑いながら注意する。
男二人だとちょっと狭いけど、家のどっちかのベッドで寝るのはもう長い間繰り返してることだし、他のベッドで寝る時より余裕だ。
確かに一人で上手くイけないってのは男として情けなくはあるけど…。
でも、享介がずっと一緒にいてくれるなら、まあいっか!
それに、あんまりこういう話ってオレ今まで誰かに暴露したことないし、これからもそんなに機会なんてないんだろうし、オレと享介の秘密ってことにすれば面白いしね。
布団に潜り込むと暗い中何にも見えないけど、感覚だけで十分。
享介の顔を見た。

「享介と一緒にするのオレも好きだから、もうじゃあこのままヘタでもいいかな。…でもさ、みんなにはヘタなの内緒にしてよ。笑われそうだし、やっぱちょっと恥ずいからさ」
「はいはい」
「あ、でもその代わり、やってって言ったら享介絶対付き合うんだからな。OK?」
「分かってるよ。でもそれ、悠介もだからな?」
「わーかってる。任せて!」

にっと笑いかけると、享介も、小さく笑ったのが気配で分かった。

「…ホント心配になるよ、悠介のそれ」
「何が?」
「何でもない。それも悠介のいいところだし。…ずっと一緒なって話」
「なんだ。そんなの当然じゃん」
「ホントかなぁ」
「あははっ、ここでウソついてどーすんだよ!」

享介は心配性だな。
だって一緒にいられるから、今のお仕事始めたんだしさ。
どうやったって離れるわけなんかないよ。双子だもん。
引き離されるのなんてまっぴらだ。
いつもそこまで無茶してるつもりはないけど……けど、やっぱりオレはオレのこと大切にしないといけないんだな。
享介が辛いとオレも辛いし、オレが辛いと享介まで辛くなっちゃう。
そんなのって絶対ダメだ。
享介をまたあんな気持ちにさせるわけにはいかない。
だからオレ、元気でいなくちゃ!

「ずっと一緒にいような、享介」
「…」
「…ん?」

布団の中で手を握ると、温かい手が握り返してくれた。
そのまま、いつもよりずっと近い距離まで享介が詰めてくると、小さい子みたいにオレの胸に頭を押しつけて丸くなった。少し冷たい足を絡める。

「…悠介。俺、悠介が好きだよ」
「うん。オレも」
「悠介も、俺のこと好きって言って」
「享介大好き!」
「…」

オレにぺったりくっついたままの享介の髪にほっぺたすりすりしてオレもくっついていると、前触れもなく享介が布団の中で横向きになってるオレの脚の間に、片膝を突っ込んできた。
そのまま、また下着の中に手を入れてくる。
少し冷たくなってた指先に触られて、びくっとする。

「わ。ぁ、…え?」
「もう一回しない?」
「また? うん、いいけど…」
「俺が気持ちよくしてあげる」
「わ…」

裏側を指がつつつと撫でて、それだけでもう気持ちよくてぞくぞくするから目を閉じた。
オレに足りないものは享介が持ってるし、きっと享介が苦手なことはオレがフォローできるようにできてるんだと思う。
だから、オレがヘタで享介が上手いのは……ある意味当然?
だからだから、ま、いいよな。別に誰に見せるわけでもないしさ。

二人いて問題がクリアできるなら、それは大した問題じゃないか。
もう一回ぎゅって手を握って、安心して享介に身を任せた。



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双子ちゃんがぎゅってしてるのが好きです。
享介君の心情を思うと辛い…。
どこかでどかんと告白してほしい。
2017.3.10





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