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敷地ばかりが広い、木造の建物。
古風な作りの門前に立ち、政宗はベルを探したがそれらしいものはなく、代わりに、門端にぷらりと立派な紐が無造作に下がっている。
何だろうと思う間もなく殆ど反射的にそれを引くと、家の奥の方からシャンシャン…と耳に心地善い鈴の音が響き渡っていた。どうやら、これがベルの代わりらしい。

(Oldすぎだろ…)

あまりの古風さに呆ける政宗の前で、間もなく巨大な門が開いた。
奥から庭に出てくるような足音も全くせず、且つ移動時間も正直なかったような短い時間だが、出て来た顔を見れば、大概の不可思議現象には頷くしかない。

「はぁ~い、竜の旦那。どーもー」
「…よぉ」

にこやか~に笑顔で出てくる青年が一人。
名は猿飛佐助という。
初見では名乗らなかったが、インパクトがあったので一発で覚えた。
学校では政宗の一つ上の学年になるが、制服を着ていない今はそんな立場は関係ない。
ぱりっとしたシャツとジレ、タイ、白手袋に黒パンツ姿でオールバックにしている佐助は、学校で見かけるチャラさが抜け切れてはいないものの、しっかりとした服装であるだけに、今は確かに真田家の執事とその正体を主張しても、校内の時のように何の冗談だと鼻で笑うことはできそうになかった。
あと、意外とその面立ちがいいことに今更気付く。

「休日は大層立派な格好してんだなぁ、パイセン」
「そうでしょ? 男前が上がっちゃって大変なんだから。…まあ、玄関までどうぞ」

敷居を跨いで敷地内に入る。
真田家の敷地は膨大だが、膨大とはいっても殆どは屋敷の後ろにある山のことで、庭といったら政宗からすれば可愛い規模だが、丁寧に手入れはされているようである。
庭の中央が無駄に開けているのは、恐らく幸村が槍や棒を振るって武術の練習をする為だろう。
少し離れた場所に留まり、まるでこちらを監視しているような烏を気にしながら政宗が尋ねる。

「真田は?」
「支度中。…いやー、今日は旦那を遊びに誘ってくれるなんて余計なことしてくれてありがとねー。旦那ってばすっかり楽しみにしちゃってまー」
「Oh…。そうだな。Dateはしたことねえっつってたもんな」
「そーね。休日"遊びに"行く時は、いつも俺様たちが付いてったからさ~」
「使用人相手じゃ、そりゃ"Date"にはならねえよな」
「はははははっ。まー確かに、たまには学友と"遊びに"行くのもいいかもねえ」

ギスギスした会話も慣れたもので、政宗は軽く肩を竦めた。
学校では兎角目立つ真田幸村だが、さぞ人気者かと思いきや、人気は人気なのだが、付き合いのある友人は数える程らしい。
よく飄々として顔の広い前田慶次や番長を気取っている長宗我部元親と一緒にいる所をよく見かけていたが、要するにああいう「強者」「剛胆」だけが傍にいて、一般生徒と親しくしている姿は見かけない。
恐らく政宗自身も「強者」「剛胆」の部類に属するだろうから何とも言えないが、何故幸村周辺に極々普通の友人を見かけないかといえば…。

「本当はね~、どうかと思ったんだけどさ、俺様。でも旦那がどーしてもって言うから…」

恐らく、政宗の前を歩いているこの男のせいだろう。
口うるさい幸村サイドの小姑は、会う度会う度ねちねちと嫌みたらしい。
思えば、佐助というこの学年一つ上の男は、政宗が幸村に話しかける前から先手必勝とばかりに喧嘩を売ってきた。
「アンタさぁ、最近よーく真田のこと見てるよねー? 何? 真田に何か用?」…と、ある日突然、全く見ず知らずの先輩ににこやかに喧嘩を売られる不気味さと苛立たしさといったらない。
政宗は不機嫌任せに一気に正面からこの男とその場で喧嘩になったが、こうやって今まで幸村に近づこうとする些細な縁を身勝手に切断していたかと思うと、とんだ守護者もあったものだ。
だが、「束縛家」と表現するのに足りないのは、彼に守られている側の幸村が「その御仁には興味があるでござる!」と一言言った途端に、舌打ちしながらもその縁を切るどころか、しっかりと結び直してやるところである。
今日だって、散々佐助は「えー」と反対したが、幸村が「某、政宗殿と"でーと"するでござる!」と言い出したからこその実現だ。
幸村が自主的にそう言わなければ、恐らく佐助は何が何でも阻止したに違いない。
政宗が幸村をデートに誘ったという、ただそれだけなのだが、今まで幸村は佐助や他の執事たち以外と二人で出たことがないというのだから驚きだ。
そういうことを聞けば、逆に何が何でもデートに連れ出してやると考えるのが、天邪鬼な政宗の性分である。
性格を考えると慶次も元親もやりそうなものだが、恐らく二人ともまだ知らないのだろう。
軽く普通に誘っても必ず佐助が付いてくるし、彼が付いてくることを断るほどわいわいと騒ぐのが嫌いな性分でもない。

「テメェの意見なんざ聞いてねえんだよ。まァ、任せな。立派な大人の男にして返してやるよ」
「はァ? 何ソレ」

流石に佐助もカチンと来たようで、歩きながら政宗を振り返る。

「間違っても余計なことしないでよね。言っとくけどねえ、旦那の心身の健康と発育管理は俺様の仕事なの。言っちゃえば精通から今の今まで、旦那の身体の発育も精の量も濃度も俺様が完璧に把握してんの!縁談相手でも決まってそっちの月経確認すれば、一発で当てる自信があんのよ!それを竜の旦那に横やり入れて弄くり回されたら堪ったもんじゃないよ。旦那が子作りに時間かかったりしたらどーしてくれんのさ!」

心底迷惑そうに眉を歪める佐助。
幸村が幼児の頃から付き従っている佐助として確かに仕事でありプロフェッショナル的な本心なのであろうが、世間一般的にそれはもうアウトなやつである。
校内で見かける度に随分過保護な奴だと思っていたが、どうやら自宅ではそれに何重にも輪をかけた状態でありそうだ。
聞けば、真田家はどんな因果か執事や使用人が多く、幸村曰く、幸村付きだけでも十人もいるらしい。
佐助はその長というやつで、こんなのが十人も……かと思ったら、三分の一は幸村より年下の少年たちだというのだから、その辺はもう遊び相手なのか世話係なのかよく分からない。
きょろきょろと辺りを見回す政宗の前で、佐助は相変わらず嫌味を連発している。

「まーいーんですけど? 今んトコ旦那に縁談の話はないし、すぐに子種が必要ってわけじゃないし濃度が薄くなろうがいーんですけども?」
「テメェなぁ…。ちったぁ真田の世話だけじゃなく、別の仕事してろよ」
「そっちこそ、別の奴に乗り換えてくんなぁい?」
「やなこった」
「あーやだやだ。変なの釣っちゃったなぁ、旦那ってば。何か昔から変なのに気に入られるんだから…。知らないよ~。片目の旦那が不機嫌なんでしょ? 後々こじれるんじゃないの~?」
「Ah…。アイツは案外嫉妬深いからな。だがまあ、どっかの藪医者もどきと違って俺に逆らいはしねえよ」
「いやいやいや、片目の旦那程度と一緒にしてもらっちゃ藪医者もいい迷惑よ?」
「政宗殿ーっ!!」

玄関で静かな応酬をしていると、やがてタタタと軽やかな足取りと同時に、ぱっと階段の踊り場から幸村が顔を覗かせた。
どうせ佐助がコーディネートしたのだろうが、彼の魅力を上手く引き出す趣味の良い衣服で階下にある玄関ホールを気にしながら降りてくる姿は、相変わらずどこか華やかで存在感があり、ぱっと一気にその場が明るくなる気さえする。
…――が、その階段が続いていた二階の廊下に、髪の長い強面の幸村の兄・信之が、静かに玄関に立つ政宗を睨んでいた。
初めてその顔を見る政宗が、慇懃無礼に睨み返すも相手は視線を外さない。
どうやら、こちらもなかなか喧嘩上等な性根をしているらしい。氷のような瞳は熱がない。
そのまま、ぽつりと小声で佐助に問うた。

「…誰だ、ありゃ」
「旦那の兄君の信之様。真田家のご嫡男。…見方によっちゃあ、俺様より旦那に過保護かもよ?」
「そいつァ重傷だな…。つーか、テメェに過保護の自覚あったっつーのも驚きだが」
「いや~。忠誠心に溢れちゃって。偉いねー、俺様」

思わずため息も出る。
何故こうも幸村の周りにはGuardianが多いのか…。面倒なことこの上ない。
そんなことを毒づいているうちに、階段を降りきった幸村が玄関先へやってきた。

「おはようございます、政宗殿!」
「おう。んじゃ、とっとと行こうぜ」
「ハイでござる!……あ、兄上っ!」

政宗との会話の途中、信之の姿に気付いて幸村が階上を見上げた。
親しげに片手を挙げる。

「兄上っ、行ってまいりまする!」
「ああ…。……猿」
「はい」

素っ気ない調子で幸村に頷いてから、不意に信之は佐助の名を呼んだ。
幸村とのやり取りとは全く違う、落ち着いた声と態度で佐助が爪先を彼の方へ向ける。

「門限は守らせろ」

圧のかかる声で言い捨てて、信之は廊下の奥へ見えなくなっていった。
その姿が見えなくなってから顔を上げ、佐助が政宗にゴリッと額を近づけてにこにこと圧をかける。

「聞いたァ、竜の旦那~? 因みに、ウチの門限五時だからーっ」
「ガキかよ!!」
「二人とも、顔を寄せてどうしたでござるか?」
「うんにゃ。何でもないよ」

朗らかな天然を発揮する幸村の声にさっと身を引いて、佐助が幸村の私服の襟をてきぱきと直す。

「それじゃー気を付けてね、旦那。…あ、駅前は今日イベントあるみたいだから、よければ覗いてきたら? 美味しそうな団子があるみたいよ。そうそう、映画館行くならこの間CMで気にしてたやつは一時から上映するやつがあったみたいだし、竜の旦那に言ってそれ見てきたらいいよ」
「おおっ、そうか!それはいいことを聞いた!!政宗殿!」
「行くよねー? 映画館ねー?」
「…何でDate planをテメェが知ってんだ?」
「んー。たまたまうっかり誰かのスマホの検索履歴が目に入っちゃってさー」
「このクソ執事…」

生体認証のスマホをどう開いたのか、はたまた接続したのか分からないが、どうやら情報は筒抜けらしい。
政宗は舌打ちして、スマホの電源を落としてポケットに仕舞い込んだ。
はん…と佐助が半眼になる。

「そんなことしても無駄なんだなー」
「テメェはその、何でもアリ感を止めろ!」

ぎゃあぎゃあとどこか阿吽の呼吸で言い合いをしている政宗と佐助のやり取りを、幸村は少しの間黙って見詰めていた。
ぱたぱたと尾を振って「待て」を命じられている柴犬のような様子だ。
途中、それに気付いて佐助が政宗との言い合いを瞬時に止める。

「…って、いつまでも時間喰ってる暇はねえな。行くぞ、真田!」
「はいっ!では、行ってくるぞ、佐助!」
「はいは~い。いってらっしゃーい」
「よいか。今日ばかりは隠れて付いてきてはならぬぞ!」
「……え、何で?」
「何でもでござる。これは正式な命故、心得よ!」
「駄目なの? 何で!? …え、ちょっと待って。それ俺様が駄目ってだけで、才蔵とか付けるならいいんだよね?」
「全員駄目でござる!…さっ、参ろうぞ、政宗殿!」
「いやいや…。ちょっと、ねえ旦那。まさか本気じゃないでしょ? ほらぁ、俺様、大旦那様に旦那のこと任されてるしさ、何かあったらお叱り受けちゃうのよ~。だから、ね? いつもみたいに姿見えなけりゃいいでしょ?」

ひらひらと余裕で片手を振って送り出しかけた佐助だが、片腕を思いっきり上げながら立ち去る幸村に去り際命じられた一言に、思いっきり狼狽えていた。
どうやら、姿を隠して付いてくる気満々だったらしい。
冗談だろう、というニュアンスで問いかけて門まで付いてきた佐助だが、最後まで幸村は否定をせず、それどころか重ねて命じて門を出た。
呆れ果てながら門を潜り出たところでちらりと政宗が振り返ってみれば、直前まで狼狽えていた素振りを見せていた佐助は静かに門の敷居前に佇んでおり、その瞳は静かで突然別人のように冷めていて、政宗に対し半ば本気の殺気を放ち出していた。

 

真田さんち


 

 

半眼になって首を戻し、政宗は隣を歩く幸村へ問いかけた。

「おい…。いいのか?」
「むう…。心苦しいが、ああでも言わないと、佐助は必ず付いてくるのでござる」

困ったような顔をする幸村の表情に察し、そうなんだろうよ…と政宗は小さく息を吐いた。
かく言う政宗も、似たような様子で家を出て来たのだ。
尤も、政宗の場合は正面から「今日はお前は付いて来んな」と言っただけで駄々をこねられはしなかったし、尾行するなど野暮なことはしないと思うが、多少の小言は喰らってきた。
だがそれも、佐助と比べると大人しいものだと感じる。

「すげー世話役がいるもんだな。ウチのとは大違いだ」
「片桐殿でござるな!」
「"片倉"な」
「佐助がいつもお世話になっているでござる」
「どうだろうな。ウチの方が世話んなってるかもしれねえぜ?」

笑いながら、政宗が言う。
政宗の側近、片倉小十郎は学校では佐助と同学年で、やはり校内でも何かと政宗のことを気に掛けているし、政宗もそれに当然と甘えているところもある。
言動だけでいえば佐助よりずっと控えて政宗を立てているところがあるが、実際こうして真田家での佐助の言動を見てみると、どうも主想いは甲乙付けがたそうな上に、「過保護」というなら佐助の方が上回りそうな勢い。
お互い、自慢の片腕だ。
だが、今日ばかりは付いてこられては困る。
何故なら…。

「政宗殿、今日はでえとに誘ってくださりありがとうございます!某、佐助たちへの礼品を買いに行こうにも、どう佐助を退いてよいのか頭を悩ませておりましたが、お陰でこうして出かけられたでござる!」
「Ha.いいってことよ。俺も丁度、小十郎抜きで買い物がしてえと思ってたとこだしな」

両手を拳にして謝する幸村に、政宗も軽く笑う。
そう。今日佐助に着いてこられては困るのだ。
何故なら、買うプレゼントの贈り相手が彼らだからである。
日頃の感謝を込めて何かプレゼントを買いに行きたいが、絶対に佐助が付いてくるのでどうしたものか…という幸村の相談に、政宗が乗ったというのが事の顛末だ。
幸村はどうやら佐助という存在が根っから生活の中に入ってしまっているようで、「付いてくるなと命令すればいいんじゃねーか?」と政宗に言われるまで、そのことすら思い立たなかった。
…とはいえ、勿論やましいことをするわけではないので、見られたからといってこれといった障害はなく、佐助も見なかった振りができるであろうが、幸村としては秘密裏にプレゼントを買い、渡す時に驚かせたいという希望がある。

「何買うか決めてんのか?」
「うむ。佐助たちは、家では今日の様なスーツ姿のことが多いでござる。スーツの襟に差す、ピンのようなアクセサリーがあると聞いて…」
「ああ…。ラペルピンか。いいんじゃねーか?」
「ら、らぺる…ぴん…? …うむ!きっとそれでござるな!」
「つーことは、なかなか上等な店じゃねえと揃えてねえな…。駅ビルにでも行ってみるか。今回Presentしたい使用人ってのは、アイツを入れて何人いるんだ?」
「某付きは、佐助を入れて十人でござる」
「多いな!?」
「そうでござるか?」

不思議そうな顔の幸村。
日頃助かってはいるが、小十郎と成実二人でも煩わしく感じることのある政宗にとっては驚くべきことだ。
佐助一人だってあの様子なのだ。十人もいたら、常に誰かに見張られている感じではあるまいか。
そしてそれに違和感を持たない幸村…。

「…もはや軽く軟禁じゃねーか」
「?」

目を伏せて呆れる政宗に、疑問符を浮かべる幸村。
ちぐはぐな、それでも友人になった二人は幸村が求めるいい品を探すべく、連れ立って歩いて行った。

 

 

 

 

幸村が政宗と出かけてから、暫く佐助は落ち着かなかった。
もう十年以上幸村の傍にいる日常だった為、一日とは言え、こんな風にある日突然距離を空けろという方が土台無理な話である。
実際に幸村の側を離れる日もあったが、その時は必ず他の付き人を付けていた。幸村に誰も付けずに外出など、こんなに不安なことはない。
それでも一部の同僚に「幸村様にもたまには社交教養は必要ですよ」と諭され、確かに一理あると納得し、屋敷の中の仕事に戻ったが、元々幸村の傍にいるか、呼び出しがかかればすぐに参上して相手をしながら片手間に熟していた仕事である。
決して少なくはない総務全般なのだが、それでも主がいなければ熟すスピードは格段に速く、二時間程度で既に今日予定していた仕事は終わらせてしまった。
表の仕事でも裏の仕事でも、何かすることはないかと昌幸と信之にも伺ったが、適当そうに見せつつ常に完璧に仕事をこなしているお陰もあって「特にない」であるし、昌幸にいたっては「たまには休むがよかろう」と言い切られてしまった。
勿論、探せばいくらでも仕事自体はあるのだが…。

「…」

昼食も済んだ時間帯。
じぃ…と廊下の片隅にある大時計を見上げる佐助の背後を、才蔵が通りかかる。
互いに振り返りもせず、言葉を交わす。

「門限の四時間前か…。今、俺様が家を出たら、"迎え"になると思う?」
「いや、早すぎだろう。それは迎えではなく、いつもの護衛とお付きだ。付いてくるなと幸村様が仰ったのだろう? 命令は厳守すべきだろう」
「だーよねえ~。…ああぁ、旦那に何かしたら、俺様マジでアイツ殺っちゃうなこれ」
「とはいえ、幸村様にも外の学友は必要だ。あと一時間くらいは耐えてみろ」
「長いなー」
「何なら、迎えは私が行こう。猿飛は休んでおればよい」
「いいねー。面白い冗談だわ、それ。おいしい所は独り占め?」
「いつもそうしているのは誰だろうな」
「いやいや、仕事だから」
「そうだ。仕事だ。であれば、私でもいいはずだな」
「…」
「…」
「欲求不満ですかぁ、才蔵坊や」
「そりゃあな、常々主の隣を陣取っている猿よりは焦がれるさ」
「だーって仕方ないじゃない。実際、俺様が一番強いんだからさぁ」
「どうかな」
「…」
「…」
「……あの、お言葉ですが、三時間前もアウトだと思いますよ」

漸く互いに顔を合わせ、無言のまま視線を交わす佐助と才蔵。
渦巻く殺気が、少し離れた場所に置いてあった花瓶に小さく罅を入れたところで、才蔵とは反対側から歩いてきた十蔵が、ぽつりと呟いた。
尊敬できるが、幸村に仕えて長い先輩方の非常識に危機感さえ持ちながら、ぽてぽてと彼は窓ふきへ向かった。

結局、手が空いた執事たちは日頃の鬱憤ばらしと鍛錬の為、エリアを決めて簡単な実技仕合を行って時間を潰すことにしたらしい。

 

 

 

 

幸村は、大きめの紙袋を片手にご機嫌で紳士服のブランド店を出た。
流石は名家・伊達家の嫡男らしく、政宗の顔利きの店がいくつかあり、その中の一つで今日の目的は達成できたというわけだ。
いくつか店を周り、十人もいるという幸村付き執事のプレゼントを下見した結果、ざっくりと見当を付けて昼食を取り、午後一の映画を見て、今改めてその見当を付けた店を訪れ、品を購入したというわけだ。
一つ一つの箱は小さいが、それが十個ともなればこうして大きめの袋になる。
佐助や、彼がいなければ他の複数の執事が付いてくるような外出が常の幸村は、初めて政宗と二人だけで出かけたことで、なかなかに一般常識を教え込まされた。
幸村のあまりの時代錯誤と常識知らずに、政宗の佐助たちに囲まれる幸村のイメージは、軟禁から「ちょっとエリアが広いだけの監禁」へと変わってきた。

「政宗殿は、多くのことに通じておられますな」
「お前が知らなすぎるんじゃねぇか?」
「う…。け、慶次殿にも同じ事を言われたでござる…。某、やはり世間に疎いのでござるな…」
「まあ、意図的にそうされてる感はあるが…。テメェで克服してえと思うんなら、ご自慢の執事連中に言ってみりゃいいじゃねえか」

軽く笑いながら言ってみる。
幸村が「自分は世間に疎いようだから、世間を学びたい」と言った後の執事達の対応を予想すると、それだけで面白い。
舌打ちしながら本当に世のDK並に一般常識を仕込むのか、はたまた巧く口車に乗せて煙に巻き、相変わらずちやほやと篭の中に入れておくのか。見物だ。
気になっていた映画も見られて、本日の希望を大凡叶えた幸村は機嫌良く手に提げる袋を見下ろした。
どことなく嬉しげなその表情を見ていると、政宗の気分も浮く。
もう少し喜ばせてやろうと、目に留まった今風の和風茶屋を親指で示す。

「少し休んで行こうぜ」
「そうでござるな。お腹も空き申した」
「さっき映画館で散々喰ってたろーがよ」
「でも、旦那の胃袋ってばオヤツはカウントされないんだよねー」
「…!?」「おお、佐助!」

突如、背後から会話に参加する声に政宗がぎょっと振り返る。
執事服でも制服でもなく、駅前でも違和感のない軽めのファッションに身を包み、佐助がさも当たり前の顔をしてそこに立っていた。
視界に収めればそれなりに派手なはずが、見た通りの気配がないような不思議な錯覚を起こすのがまた不気味だ。

「出たな、Stalker!」
「ええ~? やーねー、人聞き悪い。さー、旦那。信之様も心配してたし、お家帰ろうか」
「迎えに来てくれたのはありがたいが、まだ五時ではないでござるよ」

佐助の登場に、これまた違和感を持たない幸村が眉を寄せる。
帰りたくなさそうな幸村に、佐助が指を振る。

「けど今からお茶しちゃったら、お家に帰るの五時過ぎちゃうでしょ」
「む…」
「甘味が食べたいのなら、買って帰れば。屋敷で食べればいいじゃない。…あ、それからねえ、そちらのお目付役さんも今ここに向かってるっぽかったよー。途中見かけたし。えらく怒ってたみたいだけど、もしかして抜け出して来た?」
「あぁ?」

ポケットからスマホを取り出して確認する政宗の顔が、思いっきり顰められる。
マナーにしていたので気付かなかったが、小十郎からの連絡が何度か入っていた。
舌打ちして、再びそれをポケットへ仕舞い込む。

「残念だが、今日はここまでな、真田」
「はい、政宗殿。お付き合いいただき、ありがとうございました!」
「あーほら、竜の旦那。お迎え来たたみたいよ」

幸村の横で佐助が指差す先……背後を振り返れば、メイン通路の先から、いかにも堅気ではなさそうな長身オールバックの小十郎が、背後に暗雲を背負って眉間に皺を寄せ、ツカツカと大股でやってくるのが見えた。周囲の客が恐れ戦いている。
どうやら、成実と出かけると言って出て来た嘘がバレたようである。
こちらもこちらで、同級生と遊びに出かけること自体は咎められはしないが、行くのなら必ず供を連れるよう日頃から強く言われているところを単身で出て来たのだ。
そんじょそこらの荒くれ者に囲まれたところで政宗としては屁でもないのだが、小十郎は政宗一人での外出を酷く嫌う。
心配してくれるのはありがたいが、自分と真田が一緒に出かけるのに何を恐れることがあると思っているのだと呆れてしまう。
ただ、幸村と違うのは、政宗が小十郎の宥め方をよく分かっていて、彼のちょっとした怒りや機嫌は脅威ではないという所だろう。

「仕方ねーなぁ…」

ため息を吐き、政宗はひらりと片手を挙げると背を向けた。

「じゃあな、真田。気ぃ付け……る必要ねえな、その飼い猿がいるんじゃよ。またな」
「本日は誠にお世話になり申した!」

ぶんぶんと手を振る幸村の後ろで、佐助が詰まらなそうに腕を組む。
多少あの猿を不機嫌にさせてやったことで良しとして、政宗は気色ばんで歩いて来る小十郎へ、自ら進んで向かっていった。
その二人が合流したのを見てから、幸村が背後の佐助を振り返る。

「まったく…。迎えが早するぞ、佐助」
「だーから、お家帰る頃には丁度良くなってるって。荷物持つよ、旦那」
「い、いいでござる!ここここれはっ!拙者が自分で持つ!!」

いつもの調子で幸村の手から荷物を預かろうとした佐助だが、その荷物をバッと背後に隠し、全力で幸村が阻止する。
一瞬虚を突かれた佐助だが、にやにやと笑みを向ける。

「なーになーにぃ~? やらしーグッズとか?」
「なっ!なにを!!は、破廉恥なっ!!」
「俺様を遠ざけてたのはソレのせいってワケか~。お年頃だねえ、旦那。おっきくなったなー。けど、別に隠すようなことでもないじゃん。もし外で出したなら俺様に言ってよね。体調管理に関係してくるんだから」
「だっ…!ち、違うでござる!!左様なこと、するわけがなかろうが!!」
「そうなの? じゃー見せてくれてもいーじゃ~ん」
「駄目だ駄目だ駄目だー!!」

何だかんだと探りを入れてくる佐助から両腕で紙袋を抱えて守り、幸村は帰路についた。
思ったよりも時間がかかり、家の門を潜ったのは丁度門限の三分前。
家に入ってすぐに会った信之に無邪気に幸村が帰宅を告げると、いつもの調子で素っ気なく言葉を交わし、彼は屋敷の奥へと消えてしまった。
その実、一秒でも遅れたら「迎え」という名の強制送還命令と、「鍛錬」という名の仕置きが幸村に当てられる為、佐助は内心気が気ではなかった。

 

 

家族で済ませた夕食も入浴も済み、幸村は自室に戻った。
因みに、帰宅してから妙に執事達がくたびれて見えた理由は、供に風呂に入った小六や望月たち幼組に聞いた。
何でも、エリアを決めてデスマッチを行ったそうで、植物系の罠が得意な小六は才蔵を、爆薬を始め忍具の扱いに長けた望月は小助を出し抜きたかったそうだが、それぞれ年長組にはあっさりとやり返されてしまったらしい。
結局、毎度のことだが佐助と才蔵が最後まで動けており、かなり接戦の末、佐助が才蔵の背中に土を付けたそうだ。

「今日、出かけている間に皆で仕合を行ったそうだな」

部屋の文机前で寝る前の白湯を飲みながら、幸村が寝具を整えている佐助に声をかけた。
くるりと指の先で枕を器用に廻し、何でもない風に佐助が答える。

「旦那いなくて暇だったからねー」
「佐助が勝ったのか?」
「ふふん。俺様は天才だって、いつも言ってんでしょ?」
「うむ。才蔵も素晴らしき才覚であるが、切磋琢磨、皆ますます実力を高められるであろうな」
「いやいや、俺様に追いつくには、百年早いってやつよ」

枕を定位置に置いて、両手を上にして佐助が肩を竦めた。
どこかで才蔵が聞いたら憤慨しそうな軽口も、彼にとってはいつものことだ。
それに、帰宅してからずっとどことなく幸村の機嫌がいいので、佐助のそれも悪くなるということがない。
政宗との外出と聞いた時は、前日までに相手に"事故"に遭っていただこーか"病気"になっていただこーかどーしよーかと本気で悩んだものだが、遭っていただかなくて結果的には良かったのだろう。
寝具を整え終わった佐助が、幸村の傍に立って両手を腰に添える。

「そんで? ご機嫌そうだけど、竜の旦那とのオデカケは楽しかったみたいじゃない」
「うむ!政宗殿は博識でいらっしゃるな!某、"ぶいあーる"で遊んできたぞ!」
「へー。…まあ、たまには刺激もいいかもね。でも、今度は俺様も連れてってよね。付いてくるなー、なんて言ってさ。結構寂しかったんだから、これでも」
「ぬ…」

飄々と片手を挙げて言いのけてみせる。
交渉術として、幸村相手には感情論をぶつける方が近道だということ、佐助はもうとっくに把握している。
案の定、「寂しい」という単語にはっと顔を上げる幸村。
単純すぎて心配にもなるが、そこが付き人としては可愛げでもある。

「す、すまぬ…。だが、これには理由あってのこと!」
「理由って?」
「うむ。座れ、佐助」

ぽんぽん、と幸村が自分が座している正面の畳を叩く。
和風な真田家のうちいく室かは洋間もあるが、幸村の部屋は純和風の畳造りだ。
言われたとおり、佐助が幸村の傍に膝を着いて正座すると、机の端にあった紙袋のなかから、幸村が更に小さな小袋を取り出した。
ずっと気になっていた買い物袋の中は大きなものかと思ったが、どうやら小袋がたくさん入っているものだと気づき、佐助の脳は反射的に早速推理を始め、瞬く間に答えが出た。
実際の中身はまだ分からないが、これはもしや…。
予想通り、幸村はどこか緊張した面持ちで、だが嬉しそうに佐助に小さな紙袋を一旦開けると、中から小さな箱を取りだした。
黒く上等な、宝飾品の類を入れる箱だ。

「佐助。いつも、某や兄上、父上、総じて真田の為、よくぞ力を尽くしてくれている。感謝しておるぞ。これは詰まらないものだが、心ばかりの品だ。受け取ってくれ」
「…」

目の前で開けられたそれは、ラペルピンだった。
おそらくはエメラルドだろう。緑色の輝きが埋め込まれた、幸村が選んだのかどうか疑わしいくらいの品の良さがあり、一目で高級品だと分かる。
差し出され、呆気に取られたまま掌に受け取ったそれを、ぽかんと佐助が見下ろす。
てっきり満面の笑顔で喜んでもらえると思っていた幸村が虚を突かれ、おそるおそると佐助を見上げる。

「こ、好みではなかったか…?」
「え? …おっと、ゴメン!そうじゃなくて…」

幸村の声に驚いて、佐助がぱっと顔を上げた。
喜んでいるのか困っているのか、そんな曖昧な表情で幸村の視線から逃げる。

「いやー…ちょっと驚いちゃって…。まさか旦那からこんな上等なものをもらえるなんて思わなかったから…。てか、お金とかどしたの? 旦那の財経は俺様が管理してるし、こんな上等なもの、今日の手持ちじゃ買えないでしょ?」
「今年の正月、お館様にご挨拶しに参った時、この腕輪をもらったでござる!サッカーの大会で優勝した褒美にといって。これぞというものがあったなら、この腕輪を見せれば大凡のものは買うことができるからと――」
「ちょっと!それ電子マネーじゃない!? 一体いくら用意してんのよ!大将ってばたまにそーやってスケールでかい雑な甘やかし方するんだからーもーっ!」
「み、見せてはいけなかったか…!?」

きらんと輝…きはしないものの、古風な幸村の好みではないいかにも前衛的な時計型の黒い端末が幸村の手首に光っている。幸村は、これが何なのかすらよく分かっていないはずだ。
出かける時にしていたら佐助が気付かないはずはないので、おそらくバッグに入れて出たのだろう。
後で調べてみれば、高校生に自由に使わせるには怖ろしい額が入っている銀行口座と直結していた。
流石、年老いても甲斐のドンである。

「いや、いけなかないけど…。なーるほど。旦那ってば、これを買うために俺様たちに付いてくるなって言ったわけね…」
「うむ。命じなければ、佐助は必ずついてくるであろう?」
「そりゃあね。お仕事ですから」

軽く片手を振って、飄々と佐助はウインクした。
最近知り合いも多くなり賑やかな友人が増え、それだけでも注意深くなっていたところを突然、政宗と二人きりで出かけたい、などと言い出すからさてどうするかと考えあぐねていたが、理由を知ってしまえば佐助の全面的な降伏だ。

「旦那が竜の旦那と二人きりで出かけたいなんて言うから、俺様ちょっと心配しちゃった。理由が分かってよかったよ。ありがと、旦那。皆きっと喜ぶねえ、これ。俺様が配ってもいいけど、よかったら手間でも旦那から皆に渡してやってよ」
「ああ、勿論だ!」

明るくからっとしたいつもの笑顔も、たった一日距離を置いて見れば懐かしささえ感じてしまうのだから、余程常々側にいすぎるのかもしれない。

「嬉しいよ、旦那。ありがと」

佐助は決して他人に見せないような、困ったような本心からの笑みで小さく笑った。

 

 

 

翌朝。
再び休日だ。今日は日曜。
朝に強い幸村は、いつもの通り随分早くに起き、庭で素振りでもしようと支度を調える。
顔を洗い、自分で起きて自分で用意された服に袖を通し追えた頃、ドアがノックされた。
ひょいっと佐助が、執事らしからぬ気楽さで部屋へと滑り込んでくる。

「おはよ~、旦那。起きてる?」
「おはよう、佐助。起きているぞ。今日も良い朝だな」
「そーね。天気はいいみたい。でも、今朝の俺様たちの読みじゃ7対3で午後から雨だから、もし出かけるんなら傘は持ってこーね」
「おお、そうか」

幸村が、雨など降りそうにない窓の向こうを見上げる。
テレビで流れる天気予報より確実に合致率が高い真田家の予報だ。
こんなほぼ完璧な予報や星見も、普通のご家庭では皆無であることも、この世間に疎い少年は知らない。
中途半端に開け放たれたカーテンを窓の端にまとめながら、佐助が問う。

「素振りすんの? んじゃー朝食はそれ終わってから持ってこよっか」
「ああ。頼……おおっ!」

くるりと振り返った先に立つ佐助の襟元を見て、幸村が歓喜の声を上げる。
上着こそ着ていないが、昨日と同じくシャツとジレ、タイというその姿。
澄ました衣類の襟元に、昨日まではなかったラペルピンが輝いている。

「よく似合っておるぞ、佐助!」
「ふふーん。そうでしょ?」

襟に片手を添え、よく見えるよう佐助が胸を張る。
実際、それはとても似合っているし、趣味がいいものと言えた。
この小さな小物によって、立ち姿さえシャンとしていれば、格も一段上がるというものだ。
にこにこと無邪気に笑みをつくる幸村に自然と近づき、ぐいと佐助が片腕でその後ろ腰を引き寄せた。
引き寄せられるのも、真正面から近距離で覗き込まれるのにも、慣れたものだ。
囁くように佐助が感謝を告げる。

「ホント、ありがとね、旦那」
「うむ!喜んでもらえて何よりだ!」
「えっへへ。…ああ、そうそう。そんで昨日、皆に渡せた?」
「うむ。無事、皆に会えたぞ。…何やら怪我をしておる者もあったようだが、昨日の仕合はそれ程厳しかったのか?」
「あー、ハイハイ。ちょっと久し振りだったからね~」
「精が出るな。しかし、やり過ぎぬよう気を付けよ、佐助。才蔵が特に痛ましかったぞ」
「大丈夫よ。怪我したらしたで、痛覚を鈍くする訓練もできるしさ。俺様だって多少やられたし。それより、皆喜んだでしょー」
「ああ!佐助は緑色だったが、石の色がそれぞれ違うのだ。皆も気に入ってくれたぞ!」
「そりゃあ、旦那にもらっちゃねえ。…」
「…ん?」

臆することなくこちらの瞳を見上げる幸村に、佐助が苦笑する。
それから静かに顔を寄せてくる佐助の行動に気付いて、これもまた些かの疑問も抵抗もなく、幸村は目を伏せた。
挨拶のように唇を合わせ、そのまま獣がまるで毛繕いをするかのように、佐助の舌が無遠慮に侵入しては幸村の口内や舌を舐め進めていく。
世間一般では一応キスと呼ばれるこの行動を、果たして幸村がどの程度、また、どういう風に教えられ理解しているのか分からないが、若い主が苦しくなってきたのを見計らって、佐助が唇を離した。
こほっ…と小さく咳をする幸村の唇を、佐助が指の背で拭う。
その顔がまるで鼻歌でも歌い出しそうなものだったから、幸村はふと問うた。

「…たまにするが、佐助はキスが好きだな」
「そーねー。割とね」
「才蔵たちはあまり朝晩に会わぬから機も少ないが…。皆、佐助と同じく好きなのであろうか」
「たぶんね」

澄まし顔で佐助が答える。
幸村付きの十人は、皆が皆、闇雲に主に近づこうとは思っていない。
しかし、それぞれが幸村へ、それぞれ労力に釣り合うと判断し好む褒美を乞うこともある。
「次の外出にお連れください」という可愛いものから、あまり口外できないようなことまで様々だが、皆たまに持てる若い主との時間を愉しみに、仕事に打ち込んでいるのだ。
与えるものを吸収し、微妙に思うとおりには育たぬ籠の中の元気な毛艶の良い子犬は、いつまで経っても手がかかり、その分愛しいものだ。
佐助の返事に、幸村が思案顔になる。

「ほう…。そうか。…」
「…もしかして、これも皆にあげて回る気?」

冗談半分確認半分で問いかけてみれば、あっさりと幸村は頷いた。

「佐助のように、ぷれぜんとを付けてくれていれば、それもよいかもしれんな。どうであろう?」
「こぉーの、人誑しぃ」
「ふぐっ…!」

きゅっと幸村の鼻を摘まみ佐助が軽く茶化すが、不思議とその顔は満足そうだ。
幸村の腰から手を離し、仰々しくドアを示す。

「まあ、旦那の好きにしなよ。…さーて、それじゃあこのドアを開けて、俺様の次は誰と会うかな~?」
「さっき、才蔵は畑に出ていくのを窓の向こうに見たぞ」
「あー。奴に二番手あげるのなんか癪だわ…。庭になら、清海殿たちがいると思うよ。そっち行こうそっち行こう」
「…? うむ!」

尾を揺らすように一括りにした髪を揺らし、幸村が部屋を出る。
その後を追って、珍しく上機嫌な佐助も軽い足取りで付いていき、ぱたりと後ろ手に部屋のドアを閉めた。



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学園BASARA風の真田主従。
アニメ見ていないんですけどね(笑)
佐助さんはどこまでも過保護でいい…。
2019.12.18





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